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慰霊師  作者: 皇南輝
第3章 心霊配信すると事故るトンネル
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3- 34 結羽のチャレンジ精神

 森に囲まれた県道。峠にしては珍しく数百メートル先まで直線が続いている。相変わらずアスファルトは傷んではいるが、女井戸トンネル付近よりは幾らかアクセルを踏み込めるほど走りやすい路面になっている。


 車を降りた結羽と可南は、直線道路の路面を見つめた。そこには、赤や白のプラスチックらしき破片が散乱している。

 可南は、破片のひとつをつまみ上げると鼻先まで近づけた。


「うん。私も車に詳しいわけじゃないけど、これはブレーキランプを覆う部品じゃないかなー」


 可南の分析に対して結羽は何も言わなかった。自動車免許さえ持っていない結羽なので、車の部品についての知識など持ち合わせていないのは当然だった。


「私、車のことはよく分からないんですけど······車は部品をばら撒きながら走るんですか?」


 結羽からの滑稽な質問に、可南はクスッと笑った。


「結羽さん、それ面白い! でもね、車が走りながら分解することはないわね」


「じゃあ、どうしてこんな山ん中に車の破片が落ちてるんですか?」


 可南は、アスファルトに散乱している赤と白の破片をじっと見つめた。


「破片は広範囲に散乱してないから······もしかしたら、ここで事故があったのかも」


 可南の分析結果を耳にした結羽は、すぐに周辺を見渡した。


(事故現場は、ここに違いない!)


 結羽はそう確信すると、直線道路を真っ直ぐに歩き始めた。


「結羽さん、どこ行くの?」


「事故を目撃した霊がいないか探してきます」


「あ、待って。私も行く」


 可南は、自分が結羽によって一時的に霊を見られる状態であることを思い出し、結羽の後を追った。



 森や道路など360度を見渡しながら歩く結羽。可南がその後をついていく。


「ねえ、結羽さん。幽霊を呼び寄せる術みたいなものはないの?」


 可南が歩きながら訊ねた。結羽は首を横に振った。


「陰陽師ならそれができるらしいんですけど、私は普通の女の子だから」


「でも、良子さんが言ってたよね。結羽さんには霊感以上の力があるって。もしかしたら、いろんな才能が眠ってるかも」


 可南の指摘を受けた結羽は立ち止まると、振り返って可南を見つめた。


「可南さん、私を買い被りすぎですよ。バイト先でも店長に叱られてばかりの私に特別な力なんてあるわけないです」


 結羽は控えめな笑みを見せながら言った。


「結羽さん。年上のお姉さんからのアドバイスとしてひとつ言わせてもらってもいいかな?」


「はい」


「人って、チャレンジしていくことで才能が芽生えていくものだと思うの。だから、最初から諦めるんじゃなくて、いろいろチャレンジしてみることも大切だと思うよ」


 可南の口調は優しく、まるで妹を諭すかのようなようだ。


「チャレンジ······」


 結羽は呟いた。


(自分では孤児院から離れて一人暮らしをしたりいろいろチャレンジしてきたけど、まだまだ努力が足りないかな······)


 突然、黙り込んでしまった結羽に気がついた可南は、自分の発言が行き過ぎたかもしれない、と心配になり結羽の顔色を伺った。


「偉そうなこと言ってたらごめんね······」


「え? いえ、全然そんなふうに思ってないです。むしろ、私はまだ努力が足りないなって自覚できました」


 結羽は、年上のお姉さんからの助言を感謝するかのように、笑顔を見せた。

 結羽の自然な笑顔を目にした可南は、安堵して微笑んだ。


「あ!」


 突然、結羽が可南の肩越しに道路を見ながら小さく声をあげた。すぐに振り向く可南。


「お爺さん発見!」


 結羽は嬉しそうに小さな報告を口にすると、速足で可南の後方に向かって歩き始めた。結羽によって一時的に霊を見られる状態の可南も、お爺さんの霊を確認した。

 透き通った姿のお爺さんの霊は白髪一色で、少しばかり腰が曲がっているわりには歩くスピードが速い。森から現れたお爺さんの霊は道路を横断して、再び森の中へ入ろうとしていた。


「お爺さん、待って!」


 結羽が声をあげながら駆け出した。ひとり取り残されたくない可南も結羽を追いかける。

 お爺さんの霊は結羽の呼び掛けに気がつくことなく道路を横断すると、森の中へ姿を消した。

 お爺さんの霊が姿を消した森の茂みまで駆けてきた結羽は立ち止まり、呼吸を整えながら森の中を注視した。数メートル先には背中を向けて離れていくお爺さんの霊がいる。


「腰が曲がってるのに、どうしてそんなに歩くのが速いのよー!」


 結羽は森に向かって叫んだ。すると、お爺さんの霊は立ち止まり、振り向いた。そのとき、ようやく結羽はお爺さんの霊と目が合った。


 霊の中には、人間と目が合うと興味を抱いて近づいてくる者がいる。


 結羽と目が合ったお爺さんの霊は、一瞬信じられないような目で結羽を見たが、すぐに好奇な表情をたたえながら結羽に近寄ってきた。


(このお爺さんなら何か見てるかも!)


 結羽は、いま自分に近づいてくるお爺さんの霊が事故の目撃者であることを期待した。






(つづく)

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