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慰霊師  作者: 皇南輝
第3章 心霊配信すると事故るトンネル
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3- 33 レイレイの事故原因

 結羽と可南は真剣な表情で顔を見合せて頷いたあと、中年男に駆け寄った。突然、2人の若い女性に囲まれた中年男は、何事か、と目を見開いて驚いた。

 可南は、中年男に向かって歓心を買うかのように微笑んで見せた。


「おじさん。私たちも、これからこの先を車で下って行くんです。心配だから事故について詳しく教えてくれませんか?」


「それはかまわないが······。だけど、ちょっと気をつけて運転すれば事故なんてありえない場所だぞ?」


 可南は、中年男にあしらわれないよう機転を利かせた。


「実は、最近、友人がこの近くで事故を起こしたんです」


「え? ということは、あのおばさん······と言ったら失礼か。あんたはあの女性の知り合いなのか?」


 その中年男の言葉を耳にした結羽と可南は、中年男が指す女性は動画配信者レイレイのことだ、と察した。

 可南は、レイレイの友人を装って中年男から事故の状況を聞き出すことにした。


「そうなんです。女井戸トンネルの近くで事故を起こしたという話は聞いたんですが、詳しいことまで知らなくて······」


「そりゃそうだろな」


 中年男はニヤリとした笑みを浮かべた。どうやら笑い出すのを堪えているようだ。

 中年男の笑みが気になった結羽も、事故の詳細を尋ねてみる。


「彼女に何があったんですか?」


 中年男はポケットからタバコとライターを取り出すと、口に咥え、火をつけた。


「たまたま深夜に女井戸の峠道を走っていたらな、この近くのカーブで軽自動車が側溝に脱輪して動けなくなってたんだよ。あんな緩いカーブで、しかも幅が広めの場所で脱輪するなんて、よほど運転が下手くそなんだな、と思ったよ。だけど、女性に話を聞くとパニックになったのが原因らしい」


「パニック?」


 結羽と可南が同時に声をあげた。


「女性が言うには、運転していたら顔に蛾がはりついたらしく、それでパニックになって車を脱輪させてしまったらしい」


 中年男からの説明を聞いた結羽は、レイレイが女井戸トンネルで動画配信中に虫が原因でパニックになっていた事実を思い出した。


(なるほど。これは嘘じゃないね)


 結羽は、ひとり納得して頷いた。


「それで、その女性はどうなったんですか?」


 結羽が尋ねた。


「俺の車に板やらロープやら積んであったから牽引して側溝から出してやったよ。だけど、タイヤがパンクしてたな。でも、パンクしたまま町まで下っていったよ」


 中年男からの説明を聞いた結羽は、頭の中で事故の状況をまとめてみた。


(レイレイは女井戸トンネルからの帰り道、虫が原因でハンドル操作を誤って側溝に脱輪。たまたま通りかかったおじさんに助けられ、タイヤがパンクしたまま峠道を下った······。なんだ、霊とは関係ないじゃん)


 中年男から事故の詳細を知らされた可南は、他人事のように「そうだったんですね」と反応するに留めた。


 中年男の説明によって、レイレイの事故原因は分かった。だが、まだタケハルと霊騎士たち動画配信者の事故原因は不明だ。

 その2つの事故について中年男は、事故があったとは聞いているが詳しくは知らない、とのことだった。


 中年男はレイレイの事故についての説明を終えると、結羽や可南に特別な関心を持つことなく、颯爽と小型車で去っていった。


 走り去っていく小型車を見送った可南は、申し訳なさそうな顔で結羽を見つめた。


「あのおじさん。思ったほど悪い人じゃなかった。親切にしてくれたのに、疑うんじゃなかった」


 可南は自分の愚かさに、ため息をついた。

 結羽は、可南を見つめながら思った。


(色欲霊に憑依される、ということは何かしら同じような心の弱さがあるんだと思うけどな······)


 結羽はあえてその思いを口にしなかった。中年男に対する可南の評価に水を差すような気がしたからだった。


「あと2つの事故に関しては自分たちで調べるしかないですね」


 結羽がサラリと言うと、可南は不思議そうな表情で結羽を見つめた。


「結羽さん。何か良い方法でもあるの?」


「はい。事故を目撃した霊を探して聞き出すんです」


「なるほどね! さすが、慰霊師!」


 2人は、さっそくハスラーに乗り込むと、事故を目撃した霊を探すべく県道を下っていった。


 可南が運転するハスラーは、アスファルトが傷んだ県道の峠道をゆっくりと下っていく。助手席の結羽は常に周りを見渡しながら霊を探している。


「いてほしいときに限って、いないんだから」


 結羽は霊を探しながら文句を言った。そのとき、可南がゆっくりとブレーキを踏んで車を停めた。


「どうしたんですか?」


「ほら、何か路面に落ちてる。あれは車の部品じゃないかな?」


 結羽が尋ねると、可南は運転席から路面を指差した。その先のアスファルトには、車のテールランプと思われる赤いプラスチックの破片が散乱している。


「あれは、テールランプの破片だよ」


「可南さん、車に詳しいですね!」


「元カレが自動車整備士だったからね」


 可南は作り笑顔を結羽に向けると車から降りた。結羽も、それに続いた。






(つづく)

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