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慰霊師  作者: 皇南輝
第3章 心霊配信すると事故るトンネル
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3- 29 YouTubeで悪霊退散

「え! 可南、本当の私の姿が見えるの?」


「うん。黒い影じゃなくて、今まで私が見てきた涼子の姿が、ちゃんと見えて······」


 可南は、そこまで口にすると両目からポロポロと涙をこぼした。涼子は可南に歩み寄り、屈んだ。


「あのとき、可南が私に忠告してくれたよね。アプリで出会ったばかりの男と2人きりで山奥に行かないほうがいい、と。あの忠告に私が素直に従っていたら、私は殺されずにすんだのよね。それだけでなく、こうして可南を危険に巻き込むこともなかった。可南、本当にごめんなさい」


 涼子は、可南の目をまっすぐに見つめながら謝罪した。

 可南は涼子からの謝罪に対しては何も答えず、ただ泣きながら涼子の顔をじっと見つめるだけだった。可南の目から溢れ出た涙が頬を伝い、可南に抱きかかえられている結羽の額に落ちた。その直後、結羽のまぶたがピクリと動き、ゆっくりと開いた。


「可南さん、私······」


「結羽さん、気づいたようね。大丈夫、緊張から解放されて気を失っていただけよ」


 結羽がすぐ目の前にある可南を見つめながら呟くと、可南より早く涼子が反応した。

 結羽は、涼子の姿を見るなり、目を見開きながら上体を起こした。

 結羽の目に映る涼子の姿も黒い影ではなくなっていた。


「あなたは······涼子さん?」


 結羽の言葉に、涼子は微かな笑みを浮かべながら頷いた。


「結羽さんにも、私の本当の姿が見えるんだね」


「はい。もう黒い影ではなく、普通に、年上のお姉さんが目の前にいます」


 その言葉に、涼子の微かな笑みが寂しさを漂わせたものに変わった。


 結羽は、鼻をすすっている可南の手を取って一緒に立ち上がった。そして、気を失って倒れている中年男に顔を向けた。


「可南さん。とにかく、ここを離れて車まで戻りましょう」


 結羽は、可南の手を引っ張るようにして中年男から足早に離れた。涼子と良子の2人の霊も後に続いた。




 結羽たちは、県道脇に駐車してある可南のハスラーまで戻った。

 結羽は、トンネルや周辺の森を警戒しながら見渡したあと、可南に顔を向けた。


「可南さんを襲ったおじさんは誰なんですか?」


 可南は結羽からの問いかけに対して、中年男と出会い襲われるまでの経緯を話した。


「······あのおじさん、薄気味悪い男の霊に憑依されてからおかしくなったの」


 可南からの説明を黙って聞いていた結羽は、納得したように何度か頷いた。


(可南さんを一時的に霊が見える状態にしておいて良かった。おじさんが可南さんを襲った原因がハッキリしたわ)


「ところで······」


 可南が、結羽の首から下げているストラップ付きのスマホを見つめながら口を開いた。


「結羽さん、どうやって私を助けてくれたの? 大音量でお経が聞こえてきたけど······」


 可南に訊ねられた結羽は、はにかんだ表情を浮かべ、スマホの画面を可南に見せた。


「YouTube で不動明王真言を流したの」


「不動明王真言?」


「仏教のお経で、除霊効果があるみたい。だから、おじさんに取り憑いた悪霊を祓うためにね、試しに使ってみたの」


 結羽は、そこまで話すと照れ笑いを浮かべた。


「お経の動画を流して悪霊を懲らしめるなんて、さすが結羽さん! でも、もし悪霊に効き目がなかったらどうするつもりだったの?」


 可南からの指摘に、返答に困った結羽の表情から笑みが消えた。


「そのときは······誰か助けてー! と叫ぶ」


「こんな山奥で?」


「うん。だって、それしかできないもん」


 結羽が真顔で答えると、可南はクスッと笑みを浮かべ、すぐに声を上げて笑い始めた。

 そんな結羽と可南のやりとりを見ていた良子と涼子の2人の霊は顔を見合わせると、笑みを浮かべた。


 結羽は、楽しげに笑う可南を一瞥したあと、真剣な面持ちで涼子に近づいた。


「涼子さん、改めてお話があります」


 結羽が真剣な表情で口を開いた。


「今回、可南さんの依頼で女井戸トンネルを訪れたのは、ただ涼子さんに会いに来ただけではありません」


 涼子は、結羽の雰囲気が突然変わったことに動揺して目を見開いた。

 結羽の真剣味のある口調に気がついた可南も、笑うのをやめて結羽をじっと見つめた。

 結羽の言葉が続く。


「最近、動画配信者が女井戸トンネルからの帰り道、事故を起こしました。しかも、それが1週間で3回続いたんです。改めて涼子さんにお聞きします。これらの事故は、涼子さんの仕業ですか?」


 結羽がスマホを手に涼子に詰め寄った。

 結羽の気迫に押された涼子は、思わず後ずさりした。


「わ、私じゃない」


「本当ですか?」


 結羽が手にするスマホの画面には、YouTubeが開かれており、動画の画面には『不動明王真言』という漢字が並んでいる。


「絶対に私じゃない! 確かに、女井戸トンネルを訪れる男たちを憎んだのは事実。でもね、結局、憎しみを晴らすことができなかったの!」


「どうして? 涼子さんは、その姿が黒い影になるほどネガティブな想いで満たされていたはずですよ!」


 結羽は強い口調で涼子に迫った。しかし、内心では涼子が悪霊になりきっていないことを信じたい気持ちでいっぱいだった。


 そのときだった。

 突然、涼子が泣き崩れた。






(つづく)

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