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慰霊師  作者: 皇南輝
第3章 心霊配信すると事故るトンネル
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3- 24 涼子が黒い影である理由

「どうして涼子が、あなたたちには黒い影に見えるのか、心当たりがあるわ」


 良子は、声を落としながら答えた。

 結羽の胸に顔を埋めて怯えていた可南が、ゆっくりと顔を上げ、良子たちの方へ顔を向けた。


「涼子······」


 可南は、結羽から離れると黒い影の涼子に正面から向かい合った。そこに、先ほどまでの怯えた可南は、いなかった。


「良子さん。その心当たりというのを聞かせてください」


 結羽が良子に尋ねた。良子が黒い影の涼子に向かって、まるで彼女の同意を得るかのように頷いた。


「何年か前に涼子が女井戸で殺されたのは知ってるわよね?」


「はい」


「ええ」


 良子からの問いかけに結羽と可南が頷きながら答えた。


「涼子はこの辺りを泣きながらさまよっていたの。それを私が見つけて、この集落に連れてきたのよ」


 良子の言葉を黙って聞いている可南は、悲しげに目を閉じてうつむいた。

 良子の言葉は続く。


「しばらく涼子は泣き続けていたけど、ある日、突然、泣き止んだわ。それ以来、女井戸トンネルを訪れた人を見つけるたびに襲うようになってしまったのよ」


「どうして······?」


 良子の言葉に可南が疑問を口にした。


「私を殺した男に復讐するためよ!」


 突然、黒い影の涼子が低く唸るような声をあげた。


「私を殺した男が憎い! 男なんて、しょせんは性欲を満たすことしか考えない獣なのよ! だから、女井戸を訪れる男は全て呪ってやることに決めたの!」


 憎悪に満ちた言葉を放つ黒い影の涼子の全身が震えていた。そのとき、良子が黒い影の涼子に落ち着くよう左手で触れた。


「涼子の悲しみ、憎しみは理解できる。でも、だからと言って人を呪うようになったら、涼子は悪霊としてさまよい続けることになってしまう。だから、トンネルを訪れる人たちを涼子が呪わないように、私が阻止してるの······」


 結羽は、黒い影の涼子に優しげに手を当てている良子の姿を見て、ハッとした表情を浮かべた。


(トンネルに現れた良子さん、黒い影、そして手のひら······)


 結羽はタケハル、レイレイ、霊騎士たちの心霊配信で起きた奇怪な現象の共通点を思い出した。それが、良子と黒い影、そして映像が停止フリーズしたときに現れた女性の手だった。


(黒い影の涼子さんが心霊配信者たちを襲わないように良子さんが阻止したのなら、どうして心霊配信者たちはトンネルから帰るときに車で事故を起こしたの?)


 結羽は、その疑問を良子にぶつけてみる。


「そういえば、そんなことがあったらしいわね。知り合いの方から聞いたわ。でも、あの事故に関しては私も涼子も関係してないわ」


 良子は、他人事のように答えた。

 黒い影の涼子の全身が微かに動く。


「動画を撮りにトンネルを訪れた人たちを呪おうとしたけど、良子さんに阻まれたからね。事故の件は私も関係ないわ」


 黒い影の涼子は素っ気なく答えた。その直後、可南が何かを思い出して黒い影の涼子に近づいた。


「そういえば、涼子。さっき私を襲ったでしょ!『あなた、死にたいの?』とか言ってたよね!」


 可南が憤りながら黒い影の涼子に詰め寄った。


「ああ。だってあれは、まさか可南がこんな所に来てるとは思わなかったんだもん。女の子がひとりで山奥の集落に来るなんて危なすぎる。だから、それを分からせるために脅かしただけよ」


 黒い影の涼子が悪びれもなく弁明すると、可南は黙り込んだ。すると、結羽が訝しげな表情で黒い影の涼子に顔を向けた。


「涼子さんは男に恨みがあるんですよね? それなのに、どうして動画配信していたレイレイさんを呪おうとしたんですか? レイレイさんは女性ですよ」


「ふーん。あの動画撮影していたおばさん、レイレイって言うんだ。あの人も私が可南を襲った理由と同じよ。女性がひとりで、しかも、深夜に心霊スポットのトンネルを訪れるなんて危険すぎる。だから、脅かせて帰らそうとしたの。私が恨んでるのは獣のような男だけなの!」


 結羽から問いただされた黒い影の涼子は、少しばかり興奮しながら答えた。


(きっと、涼子さんは男性への憎しみだけでなく、女性への思いやりもあるんだわ。その善悪どっちつかずの想いがあるから、私たちには黒い影として見えるのかもしれない······)


 結羽は、なぜ涼子が黒い影にしか見えないのか、そのシルエットを冷静に見つめながら分析した。


「涼子······」


 突然、可南が低い口調で涼子の名前を呼んだ。黒い影の涼子が全身の動きを止めた。


「涼子。なぜ私が、こんな山奥まで来たか、わかる?」


 黒い影の涼子は何も答えない。


「心霊配信者たちが不可解な事故を起こした原因が、殺された涼子の怨念にあるのかもしれないと思ったからなの。でもね、さっきから涼子の話を聞いていたら、あなたのしてることは悪霊そのものじゃないの!」


 可南は次第に興奮していき、最後には黒い影の涼子に怒りをぶつけるように大声をあげた。


「可南、なんでそんなに怒ってるの? せっかく久しぶりに会えたんだから楽しく話そうよ」


「楽しく? 親友が殺されて、犯人さえ見つかっていないのに、私が楽しい気持ちでいられると思ってるの? 私が今までどんな気持ちで生きてきたか、涼子にはわからないでしょ! もう、知らない!」


 可南の怒りと悲しみが混じった悲痛な叫び声が、白樺の森に囲まれた廃集落に響き渡った。その直後、可南は県道に続く林道を駆けていった。


「可南さん!」


 結羽は、駆け出した可南を追いかけようとしたが、黒い影の涼子に行く手を阻まれた。


「私が可南を追うよ」


「涼子さん、待って」


 結羽は、可南を追いかけようとした黒い影の涼子を呼び止めた。黒い影の涼子は振り返った。


「なに?」


「可南さんの気持ち、よく考えてあげてください」


 結羽がそう訴えると、黒い影の涼子の動きが一瞬ピタリと止まった。


「そんなこと、あなたに言われなくてもわかってるよ」


 黒い影の涼子は、結羽に冷たく言い放つと、走り去った可南を追いかけていった。






(つづく)

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