3- 22 黒い影の正体を確認するために
「良子さん。誰なの、この人たち······」
突然、可南の背後に現れた黒い影が「良子」と呼ぶ女性の霊に尋ねた。
結羽は、黒い影を見ると咄嗟に右手を胸に当てた。しかし、すぐに何かを思い出したような表情を浮かべた。
(そうだった! 黒曜石のネックレスは可南さんに貸していたんだ)
結羽がいつも身につけている魔除け効果のある黒曜石のネックレスは、可南が首からぶら下げていた。それを思い出した結羽は、先ほど可南を襲った黒い影の小さな異変の原因が理解できた。
可南は黒い影に襲われたものの、彼女が身につけていた黒曜石のネックレスが黒い影を追い払ったのだ。そのため、可南の背後に再び現れた黒い影は、可南に対しては何もできないはずだった。
「この人たちは、あなたに会うために女井戸まで来たのよ」
黒い影に「良子」と呼ばれた女性の霊は黒い影に答えた。結羽は、その女性の霊・良子からの言葉を耳にして、思わず自分の目を疑った。
(あの黒い影が、私たちが会いたい人·····涼子さんなの?)
結羽は、驚きのあまり呆然と黒い影を見つめた。
「結羽さん。いま可南さんの後ろにいる人が私の友人である涼子よ」
良子は、そう言いながら黒い影に向かって指をさした。結羽は、信じられない、といった様子で頭を振った。
「そんな······。私には黒い影にしか見えないよ」
結羽は、黒い影が涼子だ、と良子に教えられても信じられなかった。
確かに黒い影からは若い女性の声が聞こえる。しかし、結羽にはその姿が女性のシルエットにしか見えない。それに、結羽は、可南の友人である涼子の声を知らない。そのため、なおさら黒い影が本当に涼子なのか確かめようがない。
「私には、涼子が普通の女性に見えるけど······」
良子は訝しげな表情で首を傾げ、黒い影をじっと見つめた。
「あなたたちは、誰? 私に何か用なの?」
黒い影が結羽に近づきながら尋ねた。
結羽は全身を緊張させ、黒い影を警戒しつつも、とりあえずコミュニケーションをとってみることにした。
「私は、安堂結羽。慰霊師です」
「安堂結羽? 慰霊師? 知らないわ」
結羽が自己紹介をすると、黒い影は素っ気ない口調で応じた。
「そこにいる可南さんの依頼で、町村涼子さんに会いにきたんです」
「可南······。町村······涼子······」
黒い影は、結羽が口にした名前を呟きながら、硬直したように動きを止めた。
(もし可南さんが黒い影の声を聞くことができるんなら話は早いのに······)
結羽は、黒い影を見つめながらため息をついた。
そのときだった。結羽の脳裏に閃くものがあった。
最近、結羽は新しい霊的スキルを身につけていた。それは、他人の霊感を一時的に高める、というスキルだ。そうすることで、ふだん霊が見えない人でも一時的に霊を見たりコミュニケーションがとれるようになるのだ。
「可南さん」
「はい」
結羽が神妙な顔つきで可南の名前を呼んだ。可南は、結羽の表情を見てとると、何事か、と緊張しながら返事をした。
「落ち着いて聞いてください。実は、さっき可南さんが見た黒い影は、町村涼子さんなんです」
「えっ! 本当に?」
「はい。ただ、私たちには黒い影にしか見えないんです。私は涼子さんと会ったことがないので声を聞いても本人かどうかわかりません。だから、可南さんに確認してもらいたいんです」
結羽が可南に事情を説明すると、可南はポカンとした表情で結羽を見つめた。
「え、ちょっと待って。結羽さん、何を言ってるの? 私は霊感なんか全くないから、幽霊を見ることができないのよ」
「はい。わかってます。だから······」
結羽が可南に向かって説明をしようとしたときだった。突然、黒い影が可南に向かって悲鳴をあげた。驚いた結羽は、黒い影に顔を向けた。
「どうして、どうして! どうしてなの! 信じられない!」
黒い影が叫びながら、ゆっくり可南に近づいていく。
「どうして可南が、こんな所にいるの?」
黒い影が甲高い声で驚きの声をあげていると、良子が黒い影の隣にゆっくりと移動してきた。
「この2人は涼子に会いにトンネルまでやって来たの。だから、私が集落まで案内したのよ」
良子が黒い影に事情を話した直後、結羽は可南に言葉を続けた。
「今、可南さんの目の前に黒い影をした霊がいるんです。その霊は、可南さんに気づいて驚いてます。それで、さっきの話の続きなんですが、今から私が可南さんの霊感を一時的に高めようと思うんです」
「え、え? ちょっと待って、結羽さん。いきなり、何を言い出すの? 霊感を高めるって、どういうこと?」
「霊感を高めることで、可南さんも一時的に霊を見たり、霊と話すことができるようになるんです」
可南は驚きのあまり目を見開いて結羽を見つめた。一方の結羽は、真剣な面持ちで可南を見つめている。
「そんな魔法みたいなこと、本当にできるの?」
「絶対とは言いきれませんが、実績はあります」
可南は、結羽の自信ありげな顔つきを見つめながら考えた。そして、無言のまま頷く。
「わかったわ、結羽さん。私の霊感を高めてください!」
可南の決意に、結羽は無言のまま力強く頷いた。
(つづく)




