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慰霊師  作者: 皇南輝
第3章 心霊配信すると事故るトンネル
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3- 21 黒い影と襲われた可南

 結羽は廃集落の中を駆けていくが、足元は雑草だらけの獣道であるため全力では走れない。それでも、可能な限りの速さで走り続けた。

 結羽は走るのが速かった。高校時代は硬式テニス部だったからだ。ただ、やはり雑草だらけの獣道では速く走ろうとすればするほど体力は空回りした。



 一方、廃集落の入口で結羽を待っている可南は、白樺の木にもたれかかってスマホ画面を見つめていた。

 可南は、ため息をついた。


「電波がつながらない······」


 可南は結羽の後ろ姿が消えていった廃集落の先を心細げに見つめた。廃集落の先は広葉樹林の森になっており、薄暗い。

 そのときだった。

 突然、可南は寒気を覚えた。それは、先ほど通り抜けてきたトンネルの肌寒さとは比較にならないほどの寒気だ。次の瞬間、可南の視界の端に黒い影が横切った。それに反応して黒い影に顔を向ける可南。


「あなた、死にたいの? 今すぐ······」


 可南の背後から若い女性の声が聞こえた。しかし、その声は途切れて小さな悲鳴が混じった。その直後、可南は意識が遠くなるのを感じると、そのまま目の前が真っ暗になった。



 廃集落の獣道を駆けていく結羽。やがて、前方に白樺の森や廃集落の入口が見えてきた。しかし、ようやくたどり着いた廃集落の入口で結羽が目にしたのは、うつ伏せに倒れている可南の姿だった。


「可南さん!」


 結羽は可南の名前を叫びながら駆け寄った。すぐに可南の上体を起こすと、優しく揺らしながら可南の名前を連呼した。すると、可南の瞼がゆっくりと開いた。


「可南さん! 大丈夫ですか!」


「うーん。あ、結羽さん······」


 可南は、自分をまっすぐ見つめている結羽に気がつくと、いきなり結羽に抱きついた。


「怖かったよー!」


 上半身に抱きつかれた結羽は、幼い子供を抱きしめるように優しく可南を抱きしめた。同時に、意識を研ぎ澄ませて近くに霊がいないかを探った。


「可南さん、何があったんですか?」


 結羽が尋ねると、可南は自分の顔を結羽の上半身から離し、結羽を真っ直ぐに見つめた。


「いきなり、背後から声が聞こえたの」


 可南は、結羽の顔を見つめながら訴えかけるように言った。可南の両目は涙に濡れている。


「誰の声です?」


「女性の声だった。あなた、死にたいの? と言われたよ。でも······」


「でも?」


「小さな悲鳴が聞こえたの。そしたら急に意識が遠のいて······」


「女性の声、言葉、悲鳴······」


 結羽は、可南が口にした言葉を同じように口にしながら思考を巡らせた。


(何だろう? わかんないや······)


 結羽は、可南からの説明だけでは状況を把握できなかった。


「そういえば、黒い影が見えたの」


「黒い影? それは本当ですか?」


 結羽は、可南の目を真っ直ぐに見つめながら質した。


「うん。急に寒気がしたと思ったら、黒い影が見えたの」


 可南が黒い影を目撃した、という事実を知った結羽は視線を落として考え込んだ。


(やっぱり、嫌な予感が当たった。黒い影こそ、今回の怪奇現象の原因かも!)


 そのときだった。結羽は、背後に霊的な気配を感じて素早く振り返った。すると、そこには、結羽たちを廃集落まで案内した女性の霊が立っていた。女性の霊は、驚いた表情で結羽や可南を見つめている。


「どうかしたんですか?」


 女性の霊が2人に声をかけると、結羽は可南を支えるようにしながら立ち上がった。結羽は立ち上がると、警戒しながら女性の霊を見つめた。


「依頼者が霊に襲われたようなんです······」


 結羽は女性の霊の表情を注意深く観察しながら答えた。


「襲われた? 誰に?」


「わかりません。霊感が無い可南さんが言うには、黒い影を見たそうです」


「黒い影? このあたりでは見たことがないわね」


 この女性の霊は何か企んでいるのだろうか、と結羽は女性の霊に疑いの目を向けた。


「実は、私も黒い影を見たんです。それで嫌な予感がしたからここへ戻ってみたら、可南さんが気を失って倒れていたんです。もしかして······」


 結羽は、そこまで話すと、いったん言葉を止めた。そして、すぐにまた口を開いた。


「もしかして、あなたは、可南さんを襲うためにわざと私の前から消えたんですか?」


 結羽は、目の前にいる女性の霊を疑わなければならない状況になったのが不本意に感じた。しかし、実際に可南が霊に襲われたのは事実なのだ。

 結羽は、廃集落まで案内してくれた女性の霊に悪意がある、とは思いたくなかった。


 女性の霊は、結羽からの問いかけに何も答えなかった。ただ、どこか悲しげに結羽を見つめている。

 女性の霊は、しばらく結羽を無言のまま見つめた。その間、結羽は周辺を警戒した。もしかしたら、また襲われるかもしれないからだ。


「結羽さん。これだけは信じて欲しいの。涼子を含めて、この辺りにいる私の友人に人を襲うような黒い影なんていないわ」


 女性の霊が悲しげな笑みを浮かべながら、結羽に伝えた。

 結羽は、頷いた。


「本当は私だって信じたいんです。でも、確かに黒い影を見たんです。しかも、何度も······」


 結羽が女性の霊に向かって話しているときだった。結羽は、さらに別の霊の気配を感じて、気配がする方向へ顔を向けた。すると、可南の背後に黒い影が立っている。


良子よしこさん。誰なの、この人たち······」


 可南の背後に立つ黒い影から声が聞こえてきた。

 それは、明らかに若い女性の声だった。






(つづく)

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