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慰霊師  作者: 皇南輝
第3章 心霊配信すると事故るトンネル
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3- 19 黒曜石のお守り

 白樺の森に伸びる林道を進むと、テニスコートほどの広さがある開けた場所に出た。生気のない朽ち果てた木造家屋が何軒か散在している。それらは明らかに平成や令和の時代に見られるような家屋ではない。昭和以前の時代の造りだ。中には、今にも崩壊しそうなほど屋根が傾いている家もある。

 そのような廃集落ではあるものの、白樺の森に囲まれているぶん、ノスタルジックな雰囲気も漂っていた。


「家には近づかないでね。いつ崩れてもおかしくはないから」


 女性の霊が結羽に注意を促した。結羽は黙ったまま頷いた。

 結羽は廃集落を見渡した。奥行きのある集落らしく、いま立っている場所は集落の入口にすぎないようだ。

 結羽は女性の霊に顔を向けた。


「あなたは、ここに住んでいるんですか?」


「そうよ。もうどれくらい長く住んでいるのか忘れてしまったわ」


 女性の霊は、廃集落を見渡しながら結羽に答えた。女性の霊からの返答を耳にしながら、結羽はもう一度まわりを見渡した。


(涼子さんは、いないみたい)


「涼子は、ここにはいないわ」


 女性の霊は、結羽が涼子を探していることを察して声をかけた。


「結羽さん。涼子を見つけられた?」


 今度は可南が結羽に声をかけた。結羽は、黙ったまま首を横に振った。


「涼子は、集落の奥深くにいるの。さあ、行きましょう」


 女性の霊が結羽に先へ進むよう促した。

 結羽は廃集落の奥へと続く小道を見つめた。小道の先にも森に囲まれた廃屋が点在しているが、その森は白樺ではなく広葉樹林になっている。そのせいか、結羽が立っている場所から見える廃集落の奥地は日中なのに薄暗い。


 結羽は、躊躇った。


(何だか異様な気配を感じる······)


 結羽が廃集落の奥へと続く小道に意識を集中していると、女性の霊がクスッと笑った。


「ふふっ。警戒心が強いのね」


「ごめんなさい。決してあなたを疑ってるわけじゃないんです。ただ、廃集落の奥から何か異様な気配を感じるんです」


 結羽が答えると、女性の霊から笑みが消えた。そして、結羽の顔をじっと見つめた。


「確かに、そうかもしれないわね」


 女性の霊は独り言をつぶやくように答えた。

 結羽は頷くと、可南に顔を向けた。


「可南さん。ここで待っていてもらえますか?」


「えっ! こんなところで、ひとりで待つの?」


「はい。涼子さんは廃集落の奥にいるらしいんですが、何だかこの先から異様な気配を感じるんです。だから、まず私が行って様子を見てきます」


「異様な気配って、悪霊でもいるの?」


「それが私にもよくわかんなくて······。ただ、善悪どっちつかずの気配を感じるんです」


 可南は、周辺の家屋を心細げに見渡した。不安そうな可南を見た結羽は、両手を自分の首の後ろにまわすと、首にかかっているネックレスの紐を掴み、外した。そして、それを可南に差し出した。ネックレスの紐の先には飴玉ほどの大きさで艶のある黒い石がついている。


「これ、私がいつも身につけている黒曜石オブシディアンのネックレスなんです。魔除け効果があるから身につけていてください」


 可南は、結羽の右手のひらで黒光りしている黒曜石のネックレスを手に取った。


「魔除けのお守りを手放した結羽さんは、大丈夫なの?」


「私は、大丈夫です!」


 心配そうな表情を浮かべる可南に向かって結羽は作り笑顔で応えた。

 結羽は、内心では不安だった。いつも身につけている黒曜石のネックレスはお守り同然だからだ。しかし、依頼者である可南に万が一のことがあってはならない。その万が一とは、悪霊や良からぬ浮遊霊に取り憑かれることだ。


「じゃあ、少しだけ待っててくださいね!」


 結羽は、精一杯の作り笑顔を可南に向けたあと、女性の霊に従って廃集落の奥へ向かった。

 可南は、ひとりで薄暗い廃集落の奥に消えていく結羽の背中を見つめながら、手のひらの中にある黒曜石のネックレスを優しく握った。



 可南を残して廃集落の奥へと入っていく結羽。廃集落を囲む森は、美しい白樺から薄暗い広葉樹林へと変わった。廃集落の奥へ進むにつれて異様な気配が強まっていく。

 やがて、広葉樹林の森に囲まれた廃集落内の広場にたどり着いた。周りは日中なのに薄暗い。

 結羽の視界の端に赤っぽいものが見えたので、反射的に顔を向けた。

 それは、鳥居だった。

 汚れきって色落ちした赤茶けた鳥居。鳥居の数十メートル先には、朽ちた小さな神社があった。

 結羽は、周辺から幾つもの視線を感じたので、まわりを見渡した。朽ちた木の匂いと、風に揺れる枝葉の音が周辺の静寂に混じりながら感じる。


「涼子を探してくるから、ここで待っていてくれるかしら?」


 女性の霊が真顔で結羽に告げると、薄暗い廃集落の奥へと消えていった。

 廃集落内の広場に、ポツンとひとり残された結羽は、数百メートル離れた場所で待たせている可南のことが心配になった。


「可南さん、大丈夫かな?」


 結羽は呟きながら、朽ちた鳥居を見上げた。そのとき、鳥居の額束に何か文字が書かれていることに気がついた。

 額束には微かな黒字で『女井戸神社』と記されていた。






(つづく)

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