3- 13 霊騎士からの告知
撮影担当のイカメン1号は、トンネル内にいる霊騎士やイカメン2号よりもトンネルの内壁ばかりを映すようになった。そして、卑猥な落書きを見つけては品のない笑い声をあげる。
スマホで配信映像を見ている結羽は、イカメンたちの配信動画が『心霊』というテーマからかけ離れてきた、と感じた。
「これ以上は見る価値ないな······」
結羽はため息をつくと、配信映像の画面を閉じようとスマホに人差し指を近づけた。
そのときだった。突然、配信映像が停止した。映像は、トンネルの内壁のシミを映したまま固まっている。音声も聞こえてこない。
「あ、フリーズした!」
女井戸トンネルにおけるタケハルやレイレイの心霊配信では、配信映像が停止した直後に2人の心霊配信者が自動車事故を起こしている。
結羽は、固まっている映像を注視した。そのとき、固まっている映像画面の右端に、またしても女性の手が映り込んでいることに気がついた。
(タケハルやレイレイのときと同じパターンだ)
結羽はスマホ画面を厳しい表情で見つめながら、また何かが起こる予感がした。
固まってしまった映像は、一定時間が過ぎると自動的に配信終了となり、画面は真っ暗になった。
結羽はため息をつきながら動画配信サイトを閉じた。
スマホ画面から顔を上げると、窓の外、深夜の都内は静かだった。嵐は完全に去っている。カーテンの隙間からは月明かりが差し込んでいた。
結羽はカーテンの隙間から差し込む月明かりを見つめながら、霊騎士たち3人の心霊配信者の身を案じた。
翌日の深夜。
結羽は動画配信サイトにアクセスすると、リアルタイムで配信されている心霊配信を探した。しかし、霊騎士やイカメンによる心霊配信は見つからない。彼らのアカウントを開いても、何も投稿されていなかった。
試しに、タケハルやレイレイのアカウントも見てみたが、新しい投稿はなかった。まだ休止が続いているようだ。
そのとき、結羽のアカウントである『慰霊師·ゆうは』にメールが届いていることに気がついた。
差出人は『可南』だった。
「可南って、誰だろう?」
結羽は、すぐにメールを開いた。
『初めまして、可南です。突然のメールすみません。単刀直入に言います。私と一緒に女井戸トンネルへ行ってもらえないでしょうか?』
メールを読み終えた結羽は、本当に単刀直入だな、と思った。
結羽は唸った。いきなり見ず知らずの人と一緒に山奥の女井戸トンネルへ行くわけにはいかないからだ。
(とりあえず、理由を聞いてみよう)
結羽は、可南にメールを返信した。すると、5分もしないうちに返事が来た。
『タケハルさんやレイレイさんが女井戸トンネル近くで事故を起こした原因を知りたいんです』
結羽と可南のメールのやりとりが続く。
『事故の原因を知って、どうするんですか?』
『ただ、好奇心が理由で知りたいだけです』
『どうして、私と一緒に行きたいんですか?』
『私、タケハルさんとレイレイさんの心霊配信を見てました。それで、ゆうはさんは幽霊を見ることができると知ったからです』
可南の返信メールを読み終えた結羽は考えた。
(可南さんの好奇心を満たすためだけに女井戸トンネルへ行くのは気が引ける。だけど、霊騎士たちが女井戸トンネルで音信不通になっていることを考えたら、私も好奇心をそそられる。でも······)
結羽は考えた末に断ることにした。他人の好奇心を満たすためだけの目的で心霊スポットを訪れることに抵抗があった。そして、何よりも『可南』が本当に女性かどうか分からないからだ。
結羽は、数年前に女井戸トンネルで発生した殺人事件を覚えている。被害者は、若い女性だった。
『やっぱり、やめておきます。ごめんなさい』
結羽が返信すると、メールのラリーは止まった。
結羽はスマホ画面から目を離して天井を見上げた。
(もし、慰霊師への依頼としてなら考えるけど、でも、いきなり初対面の人と山奥へ行くのは不安だな······)
結羽はため息をつくと、動画配信サイトの『おすすめ新着一覧』に画面を切り替えた。
そのとき『新着投稿』として霊騎士が画像を投稿していることを知った。すぐに、霊騎士の新着投稿を開いた。
霊騎士の投稿は画像のみだった。その画像一面には、黒い背景に白い文章が記されている。
『女井戸トンネルで、凶悪な悪霊に襲われた結果、配信を妨害されてしまった。さらに、その帰り道のことだ。女井戸トンネル近くの峠道で、俺とイカメンたちが乗る車2台が悪霊の攻撃を受けて衝突してしまったんだ! そういうわけでしばらく心霊配信は休止する! 悪霊との戦いが終わったら再開するから、それまで待っていてくれ! 霊騎士より』
霊騎士からの告知を読んだ結羽は、やれやれ、とばかりにかぶりを振った。
(要するに、タケハルやレイレイと同じ目にあった、ということね)
結羽は、ため息をついた。
タケハル、レイレイに続いて、霊騎士、イカメン1号と2号の計5人の心霊配信者が、女井戸トンネルでの不可解な事故に巻き込まれたことになった。この事実に、結羽は、この不可解な事故の真相を知りたくなった。
そのときだった。
結羽のアカウント宛にメールが届いた。それは、可南からだった。
結羽は、すぐにメールを開いた。
『ゆうはさんは、慰霊師なんですよね? だったら正式に依頼しますのでお願いします! 私と女井戸トンネルへ行き、原因を究明してください!』
メールを読んだ結羽は、使命感に似た気持ちを抱いた。
(つづく)




