3- 12 霊騎士たちを笑う背後霊
突然、霊騎士がトンネル内で振り返ったとき、その強ばった表情を結羽はスマホ画面を通して目にした。
(もしかして、気づいたのかな?)
結羽は、霊騎士が振り返ったのは彼らの後ろを歩いている女性の霊に気づいたからだ、と思った。
「みんな、注意して! 近くに霊がいる!」
霊騎士の緊迫した表情からの言葉に、今まで卑猥な落書きでバカ騒ぎしていたイカメンたちが瞬く間に緊張感に包まれた。
「え、マジで?」
茶髪にピアス姿のイカメン2号が手にしている懐中電灯の光が慌ただしくトンネル内をさまよった。
突然の緊張感は視聴者にも伝わり、ライブチャットのコメントは恐怖で満たされた。
(霊騎士は、やっぱり霊感があるんだ······)
結羽がそう思ったとき、彼らの後ろを歩いていた女性の霊が霊騎士に近づいた。しかし、その後方からイカメン1号が撮影しているため、女性の霊の表情は分からない。
「どこに霊がいるんだ?」
怯えた声でイカメン2号が尋ねた。
霊騎士はイカメン2号の声に反応すると、そちらに顔を向けた。
「今、2号の近くにいる!」
霊騎士からの指摘にイカメン2号の顔から血の気が引いた。その表情は強ばり目が泳いでいる。
結羽は首を傾げた。
(霊騎士が言う霊は、イカメン2号の背後霊のことなのかな?)
怯えきったイカメン2号、彼の背後霊は灰色の作業服を着た中年男性だ。
結羽が見る限り、イカメン2号の近くには彼の背後霊しかいない。
「霊騎士、俺はどうすればいいんだ······」
「落ち着いて! 今から俺が祓うから悪霊を刺激しないように!」
霊騎士は落ち着いた口調でイカメン2号に伝えた。
「そうだった! 霊騎士は霊を見ることができるだけでなくお祓いもできるんだ!」
撮影担当のイカメン1号が安堵しながら呟くと、その音声を聞いた視聴者がライブチャットを通して霊騎士の特異な能力を賞賛した。
「まさか、イカメン2号の背後霊を祓っちゃうつもり?」
結羽は配信映像を見ながら違和感を覚えたものの、霊騎士が行うお祓いを見てみることにした。
霊騎士はイカメン2号の正面に立つと、右手を前に出し人差し指と中指の2本を立てて目を閉じた。そして、何かモゴモゴと小さく呟くと「ハーッ!」と気合いを入れた。さらに、指先をイカメン2号の胸の前に突き出した。
霊騎士は目を開くと、イカメン2号の両肩を右手で軽くポンポンと叩き、埃を払い落とすような仕草をしてみせた。
「よし、これでオーケー! 女性の霊が2号に憑きかけていたけど、俺の術で追い払ったよ」
霊騎士が自信ありげに言うと、イカメン2号は安堵のため息をついた。
「なんだか、モヤモヤが取れた気がする。霊騎士のおかげで助かったよ。憑依されたらヤバいもんなー」
「でしょ? 女井戸トンネル近くでタケハルたちが事故ったのは、その悪霊の仕業なんだよ。これでもう、怪奇現象はなくなったな!」
イカメン2号の言葉に、霊騎士は得意げな笑みを浮かべて断言した。
そのとき、イカメン2号の背後霊が霊騎士を指差しながら大笑いを始めた。
配信映像を見ていた結羽も、思わず大笑いしてしまった。
結羽の隣で寝ていたホイップが驚いて目を覚ました。
「なにこれ! まったくのデタラメじゃん!」
結羽には全てお見通しだった。
霊騎士は、結羽には見えていた若い女性の霊が見えていないだけでなく、イカメンや視聴者に「悪霊がいる」とでっち上げ、さらにお祓いを演じてみせた。
「これ、ヤラセじゃないの。バッカバカしい」
結羽は呆れ果てて、配信映像の画面を閉じようとしたが考え直した。女井戸トンネルが心霊配信の舞台となっている以上、もう少し見てみることにした。
結羽は、霊騎士とイカメン1号2号の心霊配信を“ヤラセ”だと見抜いたが、視聴者はライブチャットを通して霊騎士を絶賛していた。
(やれやれ······)
結羽はため息をつくと、ライブチャットをミュートにした。これで、視聴者コメントが表示されなくなるので、配信映像だけに集中できる。
配信映像に目を戻すと、イカメン2号の背後霊が何やら喚いている。結羽はスマホ画面に意識を集中して、イカメン2号の背後霊の言葉を聞き取ろうと務めた。
「······だ! お前は本当にバカだ! だからいつも他人に騙されるんだ! こんな似非霊能者の言うことを信じるな!」
作業服を着た中年男性の姿をした背後霊がイカメン2号の左耳に向かって説教をしていたが、当然、イカメン2号に聞こえているわけがなかった。
「イカメン2号の背後霊さんも苦労が絶えないね」
結羽はスマホ画面を見つめながら苦笑いを浮かべた。
そのとき、トンネル内で新たな動きが起きた。
今まで黙って霊騎士の様子を見ていた女性の霊が慌ただしく動き始めた。結羽はすぐに女性の霊の動きを目で追ったが、撮影担当であるイカメン1号のカメラがトンネルの内壁をクローズアップしてしまった。これでは、トンネル内全体の様子が分からない。
次の瞬間、またしても、あの怪奇現象が発生した。
(つづく)




