3- 11 霊騎士が女性の霊に触れたとき
スマホを通して心霊配信を見ていた結羽は思わず息を呑んだ。
闇に染まるトンネルの奥へ進む霊騎士が、突然あらわれた女性の霊に向かって近づいていったからだ。
(霊騎士は女性の霊を見つけた?)
スマホ画面を食い入るように見つめる結羽。すぐ近くに霊がいることも知らずに鼻歌交じりでトンネルを進むイカメン2号。当然、撮影担当であるイカメン1号も霊の存在に気がついていない。
霊騎士が懐中電灯でトンネルの奥を照らしながら女性の霊に近づいていく。対する女性の霊は、慌てる様子を見せることなく霊騎士を見つめている。
次の瞬間、霊騎士は女性の霊にぶつかった、というより2人の全身が重なったが、すぐに霊騎士の全身は女性の霊体を突き抜けた。霊騎士は何事もなかったかのようにトンネルの奥へ向かって歩き続けている。
結羽は、拍子抜けしながらスマホ画面を見つめた。
(なーんだ、霊騎士は霊が見えてないじゃん)
自分には霊が見える、と豪語していた霊騎士は、女性の霊に気がつくことはなかった。しかし、結羽は、霊騎士には霊感がない、と断定したわけではなかった。
世間では、霊が見える、からと言って、老若男女の霊すべてを見られるとは限らない。人によっては子供の霊だけ見えなかったり、普通の浮遊霊や背後霊が見えるのに悪霊は見えない、など霊能力に差がある。中には、すべての霊が見え、さらに人形に入り込んだ魂とコミュニケーションをとれる人がいる。
霊感を備えていても、どのような能力が発揮できるかは千差万別だ。
結羽は、引き続き霊騎士の霊能力を探ることにした。
一方のイカメン2人は、霊能力とは無縁だと結羽は判断した。そのため、イカメン2人からの言葉には興味がなく、単なる雑音でしかなかった。
霊騎士に霊体を突き抜けられた女性の霊は、振り返って霊騎士の背中を見つめた。
結羽には霊騎士やイカメン2号に付き従う背後霊が見えていたが、彼らには目立った動きがないため気にしないことにした。
女性の霊も、霊騎士やイカメンたちの背後霊に話しかけることはなかった。
「待って」
突然、女性の霊が霊騎士たちに声をかけたのが結羽には聞こえた。しかし、3人の心霊配信者や視聴者は気づいていない。
「それ以上、行っちゃだめ!」
女性の霊が再び声をあげた。その声は若くて可憐であり聞き取りやすい。心霊配信を見ている結羽にはよく聞き取れたが、やはり心霊配信者たちや視聴者は気づいていない。
そこへ、撮影しながらトンネルを進むイカメン2号の実況が入った。
「ネットによると、この女井戸トンネルでは何年か前に連続殺人事件があって、それ以来、殺された女たちの幽霊が多数目撃されてる」
「えー! マジかよ。キツいな、それ」
イカメン1号の実況に続いてイカメン2号がわざとらしく声をあげた。
結羽は、首を傾げながら表情を曇らせた。
(確かに数年前に殺人事件は起きたけど、連続殺人じゃなかったはず······。それに女井戸トンネルの幽霊目撃談は女性だけじゃないんだけどな)
結羽は呆れてため息をついた。自分のため息の直後、いつの間にか雷鳴が聞こえなくなっていることに気がついた結羽は“避難”していたブランケットから頭を出した。
窓を見ると雨は弱まり、雷鳴も遠くなっている。
結羽は安堵のため息をついた。
「良かったー。雷がいなくなってくれた」
ホイップも雷が去ったことに安堵して、窓を見上げながらゆっくりと瞬きをした。
「ゆうは、もう、けもののこえはこない?」
「けもののこえ?」
ホイップが結羽に顔を向けて尋ねた。すると、結羽は首を傾げた。
「うん。でかいこえでゴロゴロとさけんでいた」
ホイップの返答を耳にした結羽はクスッと笑った。
「あのゴロゴロは獣の吠え声じゃなくて、雷というの」
「かみなり?」
「そう。ただの自然現象なのよ」
「しぜんげんしょう?」
「うーん、もういいわ。とにかく、ゴロゴロがホイップを襲うことはないから大丈夫よ」
「そうなんだー。じゃあ、あんしん」
ホイップはそう答えると、全身を丸めて眠りについた。
結羽はホイップが眠りについたことを確認すると、再びスマホ画面に目を向けた。
相変わらず、霊騎士とイカメンたちがトンネルを進んでいる。イカメン2号はトンネルの内壁に卑猥な落書きを見つけるとすぐにゲラゲラと下品な笑い声をあげた。そこへ、イカメン1号も卑猥な落書きにカメラを近づけて同じように笑い声をあげた。霊騎士は、卑猥な落書きに過剰反応しているイカメンたちを放っておいて、ひとり先へ進んだ。
霊騎士がイカメンたちより数メートル先に進んだときだった。突然、霊騎士がカメラに向かって振り返った。その表情は強ばり、緊張感に包まれている。
「霊騎士、どうした?」
撮影しているイカメン1号が霊騎士に尋ねた。
(つづく)




