056 最強の怪人。
「異世界に魔王ねぇ……」
ゴールドはあれから誠たちの話を聞いたものの、華蓮を見てどうしても納得がいかない様子だった。
「……まぁ、今はそれどころじゃないわね」
立ち上がり、ゴールドは用具室を出ていこうとした。
「待ってよゴールド、どこに行くつもりなの?」
「グリ公……せっかく万全の状態になったんだもの、そんなの決まってるじゃない」
キリッとした表情で、ゴールドは扉に手を掛ける。
グリ公は、そんな彼女を止めることはできなかった。
この世界を救えるのは魔法少女しかいないのだ。
「ゴールド……」
「私の力は狙われてるし、海外まで飛んで逃げる!」
「そう、海外まで…………なんだって?」
グリ公は自分の耳を疑った。
「あなたたちも、さっさとこんな国見捨てたほうがいいわ」
「魔法少女が言うことじゃないよ!」
出ていこうとしたゴールドを、グリ公は必死に止めようとしている。
「どきなさいよ! もう日本は終わりなんだから!」
「ちょっ、ルージュ! 止めるの手伝ってよ!」
「息の根を?」
「ボクがそんなこと頼むわけないでしょ!」
ルージュが渋っていると、華蓮が軽く指を弾く。
すると、ゴールドの手足を魔力でできた縄が巻き付いた。
「ちょ、なにこれ!?」
「ゴルたんが狙われてるってことはさぁ……そういうことっしょ?」
グリ公は、華蓮が止めてくれたことで少しホッとした。
「そうだね、ゴールドが狙われてるのなら、下手に動かれる方がまずい」
「あーそうじゃないんよねぇ」
「……? じゃあ一体どういう……」
華蓮はルージュなら分かってくれると思い、ウィンクした。
ルージュも何かを察したのか、ポンと手を打つ。
「なるほどね。ゴールドで怪人の一本釣りだ」
「うぇーい、ルージュ正解」
「ボクの安心感を返してほしい」
しかし、グリ公は無理に止めなかった。
正直なところ、この2人の苦戦する姿というのが想像できなかったのだ。
(結局その方が早そうだしね……)
ルージュと華蓮は拘束したゴールドを連れて、用具室を出ていこうとした。
その前に華蓮は勇人たちへと振り返る。
「あ、そだ。一応護衛を置いとくから、何かあったらその子たちに頼ってね」
「護衛……?」
華蓮たちが出ていった後、勇人は周囲を見渡したが、特に護衛らしきものは見えなかった。
ただ、どこか強い存在を近くに感じる。
それも、感じたことのある気配のように思えた……。
ゴールドを拘束したまま、ルージュと華蓮は学校上空へと飛翔した。
この高さまで上昇すると、街全てが廃墟化しているのがよくわかる。
「ちょっ、何で普通に飛んでるのよルージュ!」
「……飛びたいと思ったから?」
思いの力って偉大だよ。
「ぐっ……昔は投げたステッキに乗って飛んだつもりになってたくせに。相変わらず出鱈目ね」
「ふっ……」
「褒めたつもりはないんだけど」
細かいことにうるさいゴールドはさておいて。
こうして待っていれば怪人は現れるのだろうか。
こんな時は怪人レーダーの出番だ。
「グリ公」
「……まだ怪人の気配はないね」
それどころか、人もいないので非常に静かだ。
ささっと釣られてくれればいいのに。
「餌に問題があるのかな」
「餌って言うな」
私の赤ほどじゃないけど、黄色ってけっこう目立つのにな……私の赤ほどじゃないけど。
「……血で染めれば赤になるか」
「何で私を見て拳を握るわけ?」
おっと、せっかく活きの良い餌が虫の息になるのはもったいないか。
「そういえばその怪人って、どんな見た目なの?」
「それは…………わかんない」
ルージュは拳を振り上げた。
「ちょっ、しょうがないんだって! あの怪人、出くわす度に姿形が変わってるんだから!」
「えー? ホントかなぁ……」
「ホントよホント! あ、でも大体人型のことが多いかも?」
「人型ねぇ……」
そりゃ怪人なんだから人型だろうね。
と言いたいが、実際は獣型とか色々いるので日本語って難しい。
「あと、吸収した魔法少女の力を使ってくるんだけど、この辺一帯の魔法少女は大体吸収済みだから……」
「養分になっちゃったか」
「言い方」
つまりこの惨状は、魔法少女と怪人の戦った痕跡というわけだ。
私の家大丈夫かな?
「……あーしも一つ聞いていいかな?」
ここまで周囲を警戒しているだけだった華蓮がスッと手を挙げる。
「なにかな?」
「空を飛べる魔法少女って、ゴルたんだけなの?」
ルージュは「私という存在が目の前にいるじゃん」と言いたそうに、胸を張って無言でアピールした。
「…………私だけ、って言ったらどうする?」
「それはボクが否定するよ」
グリ公は否定するどころか、ゴールドに対し警戒心を露にする。
「この辺一帯の魔法少女は吸収済み……それなら、怪人はもう飛行手段を持っててもおかしくないんだよ」
空を飛べる魔法少女はゴールド以外にもいる。
もし吸収済みであるなら、今さらゴールドを狙う怪人の狙いは……
「――――ふむ、存外早く気付かれましたね」
ゴールドは魔力の縄をスルリと抜ける。
そして不敵な笑みを浮かべた。
「お初にお目にかかります。私の名前は……そうですね、怪人マジェスティとでもお呼びください」
一礼した怪人は、ゴールドの姿から禍々しいオーラを放つ漆黒の姿へと変化する。
ルージュは呆気に取られていたが、ハッと我に返ると怪人と距離を取った。
「ま、まぁ私は最初から気づいてたけど」
「おや? 再現度が足りませんでしたか。まだまだ演技力不足ですかね」
「くっ、ボクが怪人の存在を見逃すなんて……」
さらに、グリ公はとあることに気が付いた。
「それに演技って……まさか、能力だけじゃなく記憶まで……?」
「無論、その者が持つ全てを吸収しますよ。お残しは大罪ですので」
怪人はルージュへの警戒を強める。
「しかし、魔法少女ルージュに気づかれていたとは……何かにつけて殴ろうとしてきたのはそういうことですか。ここまで鋭いとは思いませんでしたよ。どうやら、他の魔法少女はあなたの認識を間違っているようですね」
「いや、そこは合ってると思うよ」
グリ公がジトッとした目でルージュを見ると、露骨に目を逸らしていた。
「……っていうか、仲間を疑うなんて魔法少女のやることじゃないでしょ!」
「殴った人の発言とは思えないよ」
「殴ってませんー、手刀ですー」
「見逃す速度でやられるとややこしいな……」
ルージュとグリ公のやり取りに、怪人は少し苛立ちを覚えた。
だが、そこで冷静さを欠くようなことはしない。
(魔法少女ルージュ……他の魔法少女の記憶では純粋な物理タイプ。しかし飛行能力のように、他にも新しい力を得ている可能性は考慮すべきだな)
怪人マジェスティは、冷静にルージュを分析していく。
(パワーとスピードは一級品。それでいて異様なほど丈夫な肉体を持つ。他の魔法少女とはどこか一線を画す戦闘力……こいつを倒せば私の敵はいなくなるはずだ)
油断はしない。
まずは小手調べといこうではないか。
「あまり私を除け者にしないでほしい」
怪人は隙だらけのルージュとの間合いを一瞬で詰め、まずは軽いジャブを放った。
威力よりも速度を優先した光速の一撃は、ルージュの顔面を捉え――――
「――今度は手加減しないよ?」
拳が空を切るよりも速く、ルージュの拳が怪人の腹部へと沈む。
怪人は、気づいた頃には瓦礫の中に埋もれていた。
「もう終わったの? あーしの出番なかったね」
「……わかんない、変な感触だったし」
ルージュが瓦礫の方を眺めていると、怪人は破片を飛ばしながら勢い良く立ち上がる。
その肉体に、傷らしい傷はなかった。
「ルージュの一撃を食らって無傷……?」
グリ公の脳裏に、一抹の不安が過った。
当の怪人は歓喜の笑みを浮かべている。
「ふふふ……ふははははっ! そうか……この程度か!」
怪人マジェスティは、自身の勝利を確信した。




