055 帰ってきた魔法少女。
一瞬視界が真っ暗になったかと思えば、周囲の風景は瞬く間に変わる。
自然溢れる異世界から、人工的な建築物の建ち並ぶ現代へと――――
「…………帰る世界間違えたんじゃない?」
周囲は世紀末漂う荒廃した世界だった。
人工的な建築物自体はあるものの、どれも廃墟と化している。
「おっかしいなぁ、ちゃんと召喚前と同じ場所のはずなんだけど」
つまりここは、華蓮たちのいた中学校でなければおかしいらしい。
グリ公を見ると、こちらの意図を察したのか軽く羽ばたいて建物を確認した。
「ひどい状態だけど、たしかにここは学校の3階で間違いないと思う」
窓から外を覗かなくても、崩れた壁から外が丸見えである。
少し見ない間にとても開放感のあるリフォームがなされたらしい。
「先に戻ったみんなはどこに行ったんだろうね」
「そういうことなら、ルージュ・アイ!」
周囲に人は……少なくとも校舎内にはいない。
あとは半壊した体育館か。
「んー……ん! 体育館の隅っこに何人かいるね」
同じところに集まっているのか、正確な人数まではわからなかった。
「あーしらも行ってみようか」
華蓮は崩れた壁から外へと出る。
どうやら元の世界に戻っても力はそのままのようだ。
ルージュも後を追うように外へ出ると、改めて荒廃した街を見てとあることに気づく。
「これは……トゲトゲのついた肩パッドが似合いそうな世界!」
「ルージュってたまに同じ歳か怪しい時あるよね」
失敬な。
そもそもそっちは前世含めたらおばあちゃんじゃん。
体育館も、非常に風通しの良い崩壊具合だった。
ただ、その先に重そうな扉が見える。
「そこは体育用具室だよ」
「ここは無事っぽいね」
しかし、扉はしっかりと閉まっている。
中から鍵がかかっているようだ。
「ごめんくださーい」
ルージュは軽くノックして声をかけた。
「用具室にノックする人初めてみたよ」
「私も初めてノックしたよ」
何だか変な感じだが、中から返事はなかった。
でもルージュアイで見た反応は間違いなくこの中だ。
「いるのはわかってるんですよー」
「ルージュそれちょっと怖っ」
優しく言ったはずなのにおかしいな。
相変わらず返事はないし……。
「……ま、開けるか」
ガキンッと一瞬だけ金属の折れる音がすると、重い扉は勢いよく開いた。
同時に、中から男が飛び出してくる。
「うおぉぉぉッ!」
「邪魔」
「あぶしっ」
ハエを払うかのように、男は壁に弾き飛ばされる。
「健吾くん!」
奥からもう一人女の子が飛び出してくると、男に駆け寄りこちらを睨みつけ――
「――さ、桜田さん!? それに魔法少女ルージュ!?」
驚いた表情に変わった女の子は顔見知りだった。
「まこっちじゃん」
「まこっちちゃん」
「あ、うん……江戸川誠です」
再会を喜んでいるようで、その表情は少し苦笑いのようにも見えた。
「え? 桜田さん?」
「それに魔法少女ルージュって……」
奥からさらにもう2人ほど男女が顔を見せる。
こちらも見知った相手だった。
「勇人っちと沙良っちじゃん。異世界ぶりー」
そうそう、たしか異世界では勇者と聖女だった2人だ。
しかしこれは困ったな。
多分、この2人は私の正体をよくわかってない。
下手に変身を解けなくなってしまった。
「うっ……」
「ん? まだ誰かいるの?」
奥から、もう一人誰かの声が聞こえた。
それも苦しそうな声だった。
「そ、そうだ! 桜田さんなら何とかできないかな?」
南が用具室の奥へ案内すると、グリ公が驚愕した。
「ご、ゴールド!?」
その姿は傷だらけで、衣装もルージュのものと酷似している。
彼女は魔法少女ゴールド……ルージュと同じ、怪人から世界を守る魔法少女だった。
「ルージュの同業者じゃん。何でこんなボロボロなの?」
「同業者って言い方は何かちょっと嫌だな」
たしかに職業魔法少女と診断されましたけども。
「とりま治療しよっか」
華蓮が指先を躍らせると、光る粒子がゴールドの体を包み込んだ。
すると、徐々にゴールドの体から生傷が消えていく。
呼吸が落ち着いたところで、粒子は消えていった。
「これでオッケー」
「ありがとう桜田さん。私の聖女としての力は戻ってきたらなくなってたから、治療できなくて困ってたの」
どうやら華蓮以外は、元のただの学生に戻ったらしい。
そういえば先程の健吾も、前に手合わせした時よりひどく遅かった。
「んで、何でゴールドはこんなボロボロだったの? ていうかあちこち世紀末みたいな状態なんだけど」
ゴールドの方は私がボロボロにしてやる予定だったのに。
「それは……
「――それは私が説明するわ」
傷が癒え、ゴールドは起き上がる――――が、ルージュの拳がゴールドの意識を再び刈り取った。
「なぜ!?」
「いや、戻ったら殴るって決めてたから」
ルージュの行動にグリ公と華蓮は慣れていたが、他の者は困惑した。
(魔法少女ルージュってこんなだったのか……)
………………
…………
……
魔法少女を吸収する怪人は、飛行能力を得るため執拗にゴールドを狙った。
その力の差は大きく、逃げるしかできなかったゴールドは街中を転々としていたのだが、気配を殺し学校に身を隠していた時にそれは起こった。
無人だったはずの学校に突如生徒たちが現れたのだ。
崩壊した学校に騒ぎ始める生徒たちの存在は、怪人に即座に察知される。
怪人にとって、力を失った生徒たちは活きの良い食事だった。
自身の力が失われたことに気づくより早く、生徒たちは怪人に飲み込まれていく。
そんな中、ゴールドも全力で抵抗はしたものの……
「もう私の魔法はまったく通じなかったわ」
そして、目を覚ました瞬間殴られたのである。
「ルージュ、あなたねぇ……」
「右手が疼いて仕方なく」
「はぁ……まぁいいわ。今は一番心強いもの……でも、きっとアレにはあなたでも勝てないわ。それどころかますます怪人が強くなって傍迷惑かもしれないわね」
「左手も疼いてきた」
ゴールドはサッとグリ公を盾にした。
「なぜボクを……」
「大体ルージュもグリ公も、街がこんな状態になるまでどこで油売ってたのよ!」
「それは……」
グリ公は困った顔をしている。
別に正直に答えればよくない?
「異世界で遊んでた」
「はぁ? 異世界とか漫画の読みすぎでしょ」
魔法少女がそれを言うか。
「ていうか……ねぇグリ公、ここってまさかまだ学校なの?」
「彼らがゴールドをここに匿ってくれたみたいだよ」
「彼ら? あぁ、何か急に現れた民間人ね。よくあの怪人にバレなかったわね」
「一度襲った場所のほうがバレにくいかと思って……」
誠は少し照れくさそうにしていた。
「じゃあ私の傷も……?」
「いや、それは桜田さんが……」
「やっほー。ゴールドだから……ゴルたんでいいかな。あーしのことは華蓮でいいよ」
「ご、ゴルたん? ちょっと嫌な呼び方ね……それより、あなたが私を?」
ゴールドは、とてもそうは見えない、と言いたげな顔だった。
「傷が癒えてるどころか万全の状態なんだけど……」
「アフターサービスっしょ」
「えーっと……新しい魔法少女?」
ゴールドがグリ公に説明を求めると、気まずそうに視線を逸らされた。
「華蓮は魔法少女じゃなくて魔王だよ」
代わりに答えたルージュは、どこか自慢げだった。
「いや、だからそういう異世界系は……」
その瞬間、ゴールドの中で辻褄が合ってしまう。
突如現れた生徒たち、彼らは何の根拠もなく勇敢に立ち向かったのだ。
その後行方がわからなかったルージュも戻り、満身創痍だった自分は万全の状態まで回復され……
「……え、マジ?」
壁にめり込んだ健吾以外は、皆無言で頷いた……。




