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054 魔王VS魔法少女。

ルージュこと紅葉は、本来戦いが好きではなかった。


なぜなら、自分が本気を出せば戦いにならないからだ。

どんな相手も力でねじ伏せることができる。


――故に、真に全力をぶつけるのはこれが初めてなのかもしれない。


戦うことが楽しいと感じるのも、初めてのことだった。




魔王こと華蓮は、全てのことに飽いていた。


自分と同じ次元には誰も到達できない。

あまりにも逸脱した能力は、彼女を孤独にした。


――故に、自分の全てを出すのはこれが初めてなのかもしれない。


受け止めてくれる相手と出会ったのも、初めてのことだった。




「すごい、すごいよルージュっち!」


華蓮は歓喜に打ち震えながら、数百に及ぶ魔力を放つ。


「やるじゃん華蓮!」


その全てを、ルージュは赤い閃光となって躱す。


2人はひたすらに楽しそうだった。

戦うというよりも、遊んでいるようにも見えた。


――しかし、ルージュのことをよく知るグリ公は気づく。


「ルージュが押されてる……?」


空を縦横無尽に飛び回れる華蓮に対し、ルージュは直線的な動きしかできない。

一見拮抗しているように見えるも、直線的な動きだけでは明らかな決定力不足だった。


華蓮も薄々感じていたのか、少し名残惜しそうにしている。


「すごいけど、あーしには届かないよ!」


「……ッ!?」


ルージュの足が凍り付く。

足止めとしては一瞬のことなのかもしれない。

しかし、その瞬間華蓮の魔力が一斉にルージュに降り注いだ――――


大地を揺るがすほどの着弾音の後、静かな時間が訪れる。

華蓮はその惨状を確認するかのように、ゆっくりと地上へ降りた。


「……まぁ、今までで一番楽しめたかな」


その表情は、どこか寂しそうにも見えた。

楽しい時間は終わったのだと……



――――勝手に終わらせてんじゃないわよ!



まるで噴火するかのように、瓦礫が上空へと巻き上がる。

その中心を、赤い閃光が勢いよく飛び出した。


「丈夫だねルージュっち。でもそれだけじゃ……」


華蓮はすぐにルージュの変化に気付いた。

直線的な動きじゃない。

今までと軌道がまるで違う。


仕切り直しと言わんばかりに、ルージュは滞空し「かかって来い」と手招きしていた。


「……もしかして奥の手みたいな?」


「さっき思いついた。名付けて……ルージュ・フライングジェット!」


空中で滞空するルージュの背中と足元では、絶えず赤い粒子が放出されていた。

それを見たグリ公は困惑している。


「えぇ……」


本来戦いを止めるべき立場なのだが、もはやその気はなくなっていた。


これで空を飛べるという華蓮のアドバンテージはなくなる。

しかし、当の本人は笑みが抑えられなかった。



――心のどこかで、まだ同格扱いではなかった認識が変わる。



「すごい、ホントにすごいよルージュっち……いや、ルージュ!」


加減も遠慮もいらない。

温存すら忘れた華蓮の魔力が溢れ出す。


「来なよ華蓮」


「ハハハッ! あーしを見下したのはルージュが初めてだよ!」


今度は華蓮が、上空にいるルージュへと突っ込んでいった。

同時に、数百に及ぶ魔力弾が放たれるが、先ほどまで直線的だった赤い軌跡は、空を舞うように隙間を縫っていく。


それでも結局は躱すだけ……そう思えた矢先のことだった。


「ルージュ……キャノン!」


一瞬ルージュの右手が強く発光すると、拳から赤い砲弾が放たれる。

華蓮の魔力弾と違い単発だが、範囲も威力も桁違いだった。


「ちょっ……!?」


虚を突かれた華蓮だったが、くるりと身を翻して回避する。


「それ、今思いついたっしょ」


「逃げてばかりじゃ癪だからね」


手数の華蓮に対し、ルージュの重い一撃が空中戦をさらに激化していった。



――その日、世界中の空で2人の戦いが目撃される。



しかし、その光景がなんだったのかを知る者は少ない。


「……これが強さの頂か」

「あれを見てるとなぜか顎が疼く……」

「あれは……破壊の息吹を感じる」

「召喚の魔法陣が……」

「わ、ワシの最後の望みが……はははっ、もう終わりじゃ!」


中には、どちらかの攻撃が着弾してしまうという不幸な事故もあったようだ。


それでも、2人の戦いは止まらない。

終わらせたくない……互いがそう思っていた。


初めて出した自身の全力と、それに応えてくれる相手の存在が、2人にとって妥協を許さなかった。


全ての攻撃が全力で、全ての攻撃に全力で応える。

次第に、2人の距離は徐々に縮まっていった――――


「この距離は私の間合いだよ!」


「魔王が近距離戦に弱いと思う?」


華蓮を捉えたかのように見えたルージュの拳だったが、華蓮もまたルージュに対し魔力を纏った拳を放つ。

その衝撃は、互いの拳へ均等に分散された。


「互角――ッ!?」


「ぐッ、きっつぅ……」


たとえ互角であっても、華蓮はその差に気づいていた。

このまま近距離で撃ち合えば、先に自身の肉体の方が耐えられなくなると……。


「やっぱ近距離はあーしよりルージュに分があるね。だから――」


華蓮は大きく距離を取った。

自身が出せる、最大の一撃を放つために。


「これで終わらせる!」


間合いの外まで後退し、全ての魔力を凝縮し始めた。

それを追う形になったルージュもまた、最大の一撃を拳に込める。


「もっとだ、もっと! もっと煌めけぇぇぇぇぇッ!」


拳が赤く光り輝くと、ルージュは拳を大きく振りかぶる。

溜めた拳を放つ瞬間、赤い粒子が最大出力でルージュの体を撃ちだした。


「フルバースト!」


一気に迫るルージュに、華蓮は照準を定める。

ルージュもまた、同時に拳を放った――――



「――ファリエン・ニュークリアカノンッ!」


「――ルージュ・ルミナスインパクトッ!」



最後の一撃が交差する時――――その衝撃は星の許容量を超え、世界に終焉をもたらせようとしていた。


荒ぶる暗雲、ひび割れていく大地。

鳴りやまなぬいかづちは、崩壊へのカウントダウンのようだった。


「ガチで今のが本気の本気だったんだけど」


「私もだよ」


お互いに、構想だけで使うことはなかった本気の一撃を放った。

それでも決着が着かなかったことに、2人は満足そうに笑みを浮かべている。



――――しかし、戦いの終わりはあまりにも唐突に訪れた。



「あのさぁ、この靄そろそろ薄れてきたんだけど……」


恐る恐る、グリ公は2人の間に割って入る。

ここまで空気を読んでいたというよりは、中々声をかけるタイミングがなかったのだ。


(2人ともメチャクチャだよ……)


今だって心臓がバクバクいっている。

邪魔だと言われ、一瞬で消し炭にされるかもしれない。


ルージュと華蓮は、鋭い視線をグリ公へ向ける。

そして、お互いに無言で顔を見合わせた。

おそらく、考えていることは同じなのだろう。


「んじゃ、帰ろっか」


「そだね」


構えを解いた2人は、何事もなかったかのように靄へと向かった。

遅れて、グリ公はハッと我に返る。


「……あっ、そんな感じなんだ?」


2人に対して緊張したことが、ひどくバカバカしく思えた……。


………………


…………


……


靄の近くまで来ると、ルージュは地上へと降りる前に世界を見渡した。


「異世界ともお別れか……」


これで見納めだ。

2度と来ることはないだろうし、この光景を目に焼き付けて……


「……異世界荒れすぎじゃね?」


特に天候がひどい。

遠足の日に雨だったような気分だ。


「あ、元に戻しておかないとね」


華蓮が指を弾くと、終わりかけた世界は元の姿へと修復し始める。


「魔王万能すぎじゃね?」


「えっへん」


胸を張る華蓮に、先ほどまで互角だったはずのルージュは、納得いかない敗北感を味わった。

小さいことはステータスらしいが、数値化するほど残酷さは増すものだ。



靄の近くへ着地すると、ヴァネッサが待機していた。


「何やら恐ろしい戦いを見た気がしますが……帰られるのですね師匠」


「私はこの世界の人間じゃないからね」


そう答えると、ヴァネッサは敬礼した。


「では、もう会うことはないのでしょうね。どうかお達者で――」


「うん、じゃあね」


別れを済ますと、華蓮が最後の確認をする。


「んじゃ、多分もう戻ってこれないけど、心残りは何もない?」


「多分なの?」


「あーしのやる気次第で可能性が出てくるっしょ?」


「魔王すげー」


あっさり靄に入ろうとしたルージュは、一瞬振り返るとヴァネッサに向けて一枚のカードを投げる。


「それもういらないからあげる――――」


言葉を遮るように、その姿は靄と共に消失した。

受け取ったカードを見て、ヴァネッサは小さく笑みを浮かべる。


「ふっ、空を飛ぶ武道家か……」


一人取り残されたヴァネッサは、踵を返し水の都へと戻っていく。

……が、その足が一瞬ピタリと止まる。


「…………そういえば、あの魔物たちも見かけないな」

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