057 驕る怪人。
怪人マジェスティはルージュのカウンターを無防備に受け、無傷で立ち上がる。
それが勝利を確信するに至った理由だった。
「力自慢の一撃に耐える……これほど愉快で爽快な出来事はない」
ゆっくりと飛翔する怪人の姿がどれだけ異常なことか、グリ公と華蓮も理解していた。
「ルージュの一撃に耐えた……?」
「あーしはくわしくないんだけどさ、今までの怪人にそういうのは?」
「いないこともないけど……」
あそこまでキレイにカウンターが決まって無傷というのはいなかった。
ただ、実は直撃していなかったという可能性はある。
「ルージュ、手ごたえは?」
「ばっちりあったけど」
「ふふふっ、私は回避も防御もしておりませんよ」
再び同じ高さまで飛翔した怪人は、たしかに傷を負っているようには見えなかった。
「力だけが取り柄の魔法少女ルージュ、貴様はもう私には勝てない」
ルージュは少しムッとする。
「私は別に力だけが取り柄ってわけじゃ……」
「ルージュ、この怪人に物理は効果が薄いかもしれない。ここは力押しより何か策を考えないと」
「否定ぐらいさせてよ」
怪人どころかグリ公まで私を勘違いしている。
自分が今まで全部力押しで解決してきたと言われてるようで納得がいかない。
……そうか、それならちょっと知的な部分を見せてあげればいいのか。
「怪人マジスキーだっけ?」
「マジェスティです」
「空中戦と地上戦、どっちが得意?」
「どちらかと言えば地上戦ですかね」
ルージュはクイッと顎で地上を指した。
怪人はニッと笑みを浮かべ、ゆっくりと降下していく。
思い通りの展開に、ルージュはグリ公に向かって親指を立てた。
「作戦通り。地上戦なら私も得意」
「そういうのは策って言わないよ」
グリ公に高度な駆け引きは難しかったか。
地上に降りたルージュと怪人は、互いに徒手空拳で構えた。
しばしの静寂が流れると、同時に2人の姿が消える――――
――否、まるで時間が飛んだように、2人は拳を交えていた。
人によっては瞬間移動でもしているかのように見えるかもしれない。
拳が交わう瞬間だけ、2人の姿は目視することができた。
幾度となく空気が弾け、周囲に鈍い音が響き渡る。
パワー、スピードともに互角のように見えた。
そんな中、拮抗を先に破ったのはルージュだった。
「……む!?」
怪人の動きが一瞬止まる。
ルージュは左腕で怪人の拳をガードしていた。
空いた右腕が赤く発光し始める――
「――ルージュ・インパクト!」
赤い閃光が、怪人の顔面を捉えた。
めり込む拳に、ルージュは手ごたえを感じる。
――しかし、怪人は吹き飛ぶことなくその場に留まっていた。
「これが魔法少女ルージュの必殺技か……残念です」
「うそぉ……」
ルージュにとって、溜め無しで放てる必殺技としては最高の一撃である。
それを怪人は難なく受け止めていた。
ルージュは反撃に備え一旦距離を取る。
しかし、怪人はその場で自身の手を見つめ呟いた。
「ふむ……どうやら私は強くなりすぎてしまったようだ」
怪人が腕を空に向かって掲げると、虹色の光が収束し始める。
「では、今度はこちらの番だ。これまで吸収した魔法少女たちの力、受けてみるがいい――――」
大きく振りかぶり、標的のルージュへ拳を放とうとする怪人だが、寸前でピタリとその動作を止めた。
「……いや、1対1でこれはフェアじゃないな」
「へぇ、フェミニストだったなんて知らなかったわ」
ルージュは受け止めるつもりでいたが、怪人はその場に立ち止まり、構えを解いた。
「こちらには魔法少女約30人分の力がある。これでは1対30みたいなものだろう」
「30って、ほぼ日本全域じゃん」
魔法少女は大体2~5人組で、主に全国中の都市部で活動している。
この分では残っている魔法少女は自分だけなのかもしれない。
「いつからだろうか……3人ほど魔法少女を吸収した辺りから、苦戦というものをしなくなった。勝利に対して何も感じなくなってしまったのだよ」
「……つまり何が言いたいの?」
「拮抗した熱い戦い……その上で私は勝利したい」
「超わがままじゃん」
勝手に期待されて勝手にガッカリされると何かちょっとイラッとする。
「しかし残念だ、この願いはもう叶わぬな」
「何で?」
「貴様が最後の魔法少女だからだ。仲間のいない魔法少女なぞ……いや、いたところで足手纏いになるだけか」
「仲間かぁ……」
ルージュは自然と華蓮を見た。
魔法少女ではないが、共に異世界を旅した仲間で、自分と同格の力を持っている。
「こっち見てどーしたん?」
「いや、なんかこの怪人が熱い戦いをしたいらしくて」
「すればいいんじゃない?」
「私1人じゃ物足りないんだってさ」
何だか自分で言ってて、ぼっちみたいで嫌な表現だ。
「あーしが参戦してもいいものなの?」
「別にいいんじゃない」
2人のやり取りに、怪人は笑い声をあげた。
「ハッハッハ、異世界の魔王……だったか? 貴様のような不純物が混ざれるほど、魔法少女と怪人の戦いは安くないのですよ」
「そうなん?」
「そうだ、はっきり言って役者不足だ」
怪人が軽く腕を振るうと、漆黒の刃が華蓮を襲う。
――が、結果は怪人の予想通りにはならなかった。
「へぇ、これも魔法少女の魔法なんだ? やっぱりあーしが使う魔力とはちょっち違うねー」
刃は華蓮の目の前で霧散し消える。
それを見た怪人は、華蓮への認識を変更した。
「ほう……少しはできるようですね。構いませんよ、2人同時でも。まぁ、劣っている者から膝をつくことになるのでしょうがね」
怪人はグッと地面を踏みしめ、その肉体を肥大させる。
それが筋肉による膨張だと気づいた頃には、3mほどまで巨大化していた。
「的がでかくなった」
「あーしらからしたら戦いやすくなったよね」
ルージュと華蓮の反応を、怪人は鼻で笑った。
「ふっ、これがただパワーを強化しただけと思っているのなら――――
音もなく、怪人の姿消える。
「――――後悔しますよ?」
「ルージュ! 華蓮! 後ろだッ!」
怪人の声がしたのは背後からだった。
グリ公の声とほぼ同時に2人は振り返る。
「遅いですよ」
ルージュの姿が横薙ぎに消え、遠くのビルに何かが衝突した。
「やばっ」
「逃がしませんとも」
咄嗟に上空へと瞬間移動した華蓮だったが、その背後で怪人は両の手をハンマーのように叩きつける。
地上に叩きつけられた華蓮は、瓦礫に埋もれ立ち上がることはなかった。
「この程度の空間移動、造作もありません」
これもまた、魔法少女から得た力である。
「そ、そんな……2人がこんなあっけなく……」
2人の強さをよく知るからこそ、その光景がグリ公は信じられなかった。
さらには、どうしても目の前の怪人からは、怪人特有の気配をほとんど感じられないのだ。
「こんな怪人がいるなんて……」
「ふむ、魔法の国のグリフォンでも知らぬことがありますか」
「しかもボクの正体まで一目で見破った!?」
驚くグリ公はどこか嬉しそうだった。
――――いやいや、あんたはフクロウでしょ。
怪人は目を見開き、大きく飛び退いた。
「たしかに直撃したはず……」
先程まで怪人が背を向けていた場所にはルージュが立っていた。
それもどこか不機嫌そうである。
「せっかく同じことやり返そうと思ったのに、グリ公のせいでバレちゃったじゃん」
「ぼ、ボクのせいなの……?」
呆れるグリ公の足を、突如地面から伸びた腕がガシリと掴む。
「――ピョッ!?」
驚きのあまりグリ公はその場で固まった。
「びっくりしたっしょ?」
満足したのか、華蓮は何事もなかったかのように地面から這い出てくる。
「え、ちょ……なにこれ」
「ほら、漫画とかであるじゃん。やられたと思ったら地面の中から足を掴むやつ。一度やってみたかったんだよねー」
「それって味方にすることじゃないよね……?」
グリ公はしばらく動悸が止まらなかった。
「さて、そろそろ回復したかな」
「だね、あーしもほぼほぼ魔力満タンだよ」
せいぜい擦り傷程度の2人を見て、怪人は納得がいかなかった。
「これはどういうことですかな? まさかここまで本気じゃなかったとでも?」
2人はまるでこれからが本番かのように、準備運動を始める。
「戻ってくる前、華蓮相手に全力出しちゃったからねー」
「あーし回復早い方なんだけど、さすがにルージュ相手だったから時間かかったよ」
その会話に、怪人は苛立ちを露にする。
歯ぎしりの音が、地響きのように大地を揺らした。
「ひさしぶりに……きれちまったよ……」




