050 輪廻転生の魔王。
ケアレン・チェリーブロッサムという存在は、脅威であり、畏怖の対象であり、そして手にしたい力そのものだった。
その力を求める者は後を絶たず、他国どころか自国内でさえ油断できたものではなかった。
「ふん、山賊のような奴らじゃな」
城に出入りしている人間は基本領内の人間だけだが、どうにも開発中の魔法が一部流出している気がする。
ただ問題なのは、些末なことだと放っておいたら部下たちが怒りを露にし始めたことだ。
「だから人間など信用してはいけないのです」
「そうだぜケアレン様、全員殺そうぜ」
「いやいや、せっかくだから実験台に……」
「ケアレン様の寛容な対応に奴らは甘えているのだ」
勝手に四天王などと名乗りだしたこの4名は、ケアレンがホムンクルスとして生み出した存在だった。
自分を一番に考えてくれる分、無下にもできない。
寿命さえ延ばしてしまったケアレンにとっては、唯一自分と同じ時間を生きられる存在といえる。
「……仕方ない、引きこもるか」
争うより拒絶したほうが楽だと判断した。
今思えば、それは間違いだったのかもしれない。
気づけば巷では魔王などと呼ばれ始めていた。
「つまり……私たちは魔王四天王?」
「ふふふっ、悪くない響きだな」
「ついでに通り名というか、二つ名のようなものもあるといいのでは?」
「それは良い。かっこいいものを考えよう」
こいつらを見ていると和むな、とケアレンは事態を軽く見ていた。
この世界の歴史は、数年後に大きく変わることになる……。
………………
…………
……
ケアレン城はいつしか魔王城と呼ばれ、自身の首には懸賞金までついていた。
とはいえ、やって来る者は四天王の前に倒れていく者ばかり。
まったく危機感を抱いていなかった中、一風変わった者たちが現れる。
「異界から召喚されし勇者……か」
以前そんな魔法を思いつきで創った記憶がある。
まさか自身に牙を向くことになるとは思わなんだ。
(それにしても異界とは……)
別の世界というものに、ケアレンは強く惹かれていた。
(四天王が不在のタイミングで良かったのかもしれん)
勇者との戦いはさほど面白いものではなかった。
ケアレンは即席で新たな魔法を組み上げていく。
その代償は――――自らの命だった。
その日、魔王は勇者によって討伐された。
――――――
――――
――
「んで、桜田華蓮として新たな生を授かったってわけ。まさかまたこの世界に来ることになるなんて思ってもなかったよ。自分の創った召喚魔法で呼び出されるとか超ウケるっしょ」
ケラケラと華蓮は笑っていた。
「えーっと、つまりさっきの石像でボインなお姉さんは、華蓮の前世的なやつってこと?」
「そだね。紅たんが容赦なく壊してくれたやつね」
「いやいや、回想の人と言葉遣いが違うじゃん!」
「人って環境で変わるもんだよねー」
……変わりすぎでは?
「つまり……本当に魔王……ケアレン様……?」
オリビアは一歩……また一歩と、ゆっくり華蓮へと距離を詰めていく。
「今なら魔力の波長でわかるんでない?」
華蓮がパチンと指を弾くと、玉座の間は一瞬で新品のような光景に変わる。
「……ケアレンさまぁぁぁッ!」
感極まり、涙を流しながら華蓮に抱き着くオリビアに続くように、他の四天王も魔王に駆け寄った。
「ケアレン様、俺様は最初から信じてたぜ」
「愚者のコウカク、ずっとこの時をお待ちしておりました」
「ケアレン様が相手では、この悪魔である俺が勝てないのも頷ける」
華蓮はオリビアの背中をポンポンと軽く叩いた。
「4人には悪いことしたかな。みんなあーしがいなかったら自由に生きてくれると思ってたんだけど、うまくいかないもんだねー」
感動の再開を果たした光景に、カイザーはメモ帳を取り出し筆を走らせる。
「やべぇ……これはやべぇぞ。あぁまずい、情報が多すぎてまとめらんねぇ」
口元がにやけているので、おそらく嬉しい悲鳴なのだろう。
これは放っておいても大丈夫だ。
問題があるとすれば……
「桜田さんが魔王……?」
「マジかよ……」
「しかも召喚魔法を創った張本人?」
「うそでしょ……」
「じゃあ私たちって桜田さんを倒さないと帰れないの……?」
健吾たちが狼狽えている中、誠だけは冷静にその状況を見ていた。
「……なるほどね、桜田さんに感じてた違和感がこれですっきりしたよ」
誠は臆せず華蓮へと歩み寄っていく。
「聞きたいことがいくつかあるんだけどいいかな?」
「今さら隠すこともないし、何でも聞いちゃってよ」
「僕の予想だと、魔王を倒せば帰れるってのは間違いだと思うんだけど、どうなの?」
「まこっちの予想通りだよ。もしそうだったら、超シリアスな展開になってたのにねー」
華蓮はニッと笑い、誠は緊張が解けたようにホッと胸をなでおろした。
「それじゃあもう一つ、僕らが召喚された時に与えられた職業ってどういう意図があるのかな?」
「あーそれ聞いちゃう? それはねぇ……」
少し気まずそうに華蓮は目を逸らした。
「一方的に召喚するのって失礼な事じゃん? だからさ、せめて本人の望む力を与えてあげようかなって。憧れとか、内なる願望とかが発現するみたいな」
「そ、そうなんだ……」
それを聞いて、健吾たちは納得していた。
「剣聖はちょっと大袈裟だけど、納得はできるな」
「別に飛脚に憧れとかはないんだけど、スキル自体はしっくりくる」
「測量士は……まぁおじいちゃんの影響かな」
「私はそもそも花火師になる予定だし」
「裁縫士……コスプレ衣装なら作りたいと思ったことはあるけど……」
「僕は探偵……か」
誠だけはどこか照れていた。
そんな中、紅葉は華蓮に対し鋭い視線を向ける。
「異議あり!」
紅葉は和んでいた場の空気を一蹴した。
今の話を認めるわけにはいかなかったのだ。
「どしたの紅たん」
「今の話が本当なら、まるで私に魔法少女願望があるみたいじゃない!」
来年はもう高校生なのに、ノリノリで魔法少女やってるなんて生き恥でしょ。
そんなの認めるわけにはいかないよ。
「まぁまぁ落ち着いて紅たん。そもそも魔法少女って召喚される前からある力っしょ」
「オフコース」
「だから多分、強すぎる力に召喚特典が弾かれちゃったんじゃないかなー。あの時職業診断に使った水晶って、一番強く発現してる力を読み取るだけだから」
「へぇ……」
つまり魔法少女じゃなければ、私も何か職業を得られたのか。
……何かちょっと損した気分。
「さて、魔王として復活しちゃったし、やることやらないとね」
華蓮は足を組み、こちらを見下すような視線を向けた。
「よく来たな勇者たちよ」
「勇者じゃないけど」
「……そうだったね。じゃあ……英傑たちよ?」
「私は魔法少女だよ」
華蓮は困った顔をしていた。
「やっぱ昔みたいにはいかないもんだねー。っていうかさ、皆大事なこと忘れてない?」
大事なこと……はて、何かあったかな?
紅葉はチラリとグリ公のほうを見た。
何やら身振り手振りしている。
まったく意図が伝わってこないので見るだけ無駄だった。
こうなったら自分の胸に聞いてみるしかない。
(思い……出せない!)
つまり大事なことじゃないってことだ。
紅葉が一人で何か納得していると、健吾はスッと手を挙げた。
「桜田さんが魔王ってのには驚いたけど、それならもしかして勇人たちのことを止められるのか?」
健吾以外も同じ内容だったのか、華蓮の顔色を窺っている。
それに対し「誰それ」と紅葉は一人首を傾げていた。
「もちろんあーしなら止められるよ。ただね、勇人っち達に真実を話す覚悟はある?」
健吾たちは頷きあうと、勇ましい表情に変わる。
「もちろんだ」
「おっけー、んじゃ早速行こっか」
パチンと華蓮が指を鳴らすと、周囲の光景が暗転した。




