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049 魔王城と魔王。

ケアレン城が魔王城……もっと北にあるものだと思っていた。

しかし、魔王軍四天王がここに集結している以上、それは真実味のある話だった。


「ちっ、バレちゃあしょうがないわね」


オリビアは身構える。

戦う力を失ったバウアーとアスモデウスは慌て始め、コウカクは身を隠した。


「何でアンタは隠れるのよ!」


「我は勝てぬ戦いはせぬ主義だからの」


健吾たちは武器を構え、周囲を警戒する。


「……魔王城なのに魔物がいないな」


ここは召喚された英傑たちの目指す場所……の割には静かな城である。

何なら正面扉もないので風通しも良い。


……そういえばもう一つ大きな扉があるな。

構造的に玉座とか広い部屋だろうか。


こちらの視線に気づいたのか、オリビアは跳躍し扉を背に魔力の鞭で威嚇する。


「ここから先だけは絶対に行かせないよ!」


絶対と言われると気になってしまう。


「ねぇ華蓮、あの先って何があるのかな?」


「んー、まぁ魔王でもいるんじゃない?」


なるほど、魔王城なんだから魔王がいるよねそりゃ。


「ってことであってる?」


「……んなわけないでしょ」


オリビアはそう答えながらも目を逸らした。

なんてわかりやすい。


「そういえば魔王に用があって旅してたんだよね」


紅葉は話しながら足を進めた。

オリビアは少しずつ後退っていく。


「来るな……来るなぁッ!」


「魔王が協力的だったら嬉しいんだけど、そもそもこれで帰る手段わからなかったらどうしようかな」


気にせず足を進める紅葉だったが、その横を目にも止まらぬ速度で何かが通過していった。


「華蓮……?」


通過したのは、何かではなく華蓮だった。

身構えるオリビアが反応するよりも早く、背後の扉に触れる。


「――なっ、いつの間に!?」


「めんご、ちょっち通るねー」


「させるか――って体が動かない!?」


オリビアは金縛りにあったように身動きがとれないでいた。


「ちょっとだけ我慢してねオリビアたん」


「た、たん……?」


扉は重厚な音を立てながら、ゆっくりと開いていく。


「……ここは一番状態が悪いね」


その先に見えたものは、光の差し込まぬ年季の入った玉座の間だった。

華蓮がその先に足を踏み入れると、紅葉もそれに続く。

さらに、健吾たちとカイザーも恐る恐るオリビアの横を通り抜けた。


「ここは研究者さえ入ることの叶わなかった開かずの間だったはずだが……」


カイザーはここまで連れてこられた状況に困惑していたものの、今は好奇心の方が勝っていた。

それは誠も同じで、そっと傷だらけの壁に触れる。


「これ傷んでるっていうより……戦いの跡?」


エントランスは割とキレイだったにも関わらず、ここは鋭利な切り傷や煤けている箇所が多く見られた。


「まこっちの言ってることは間違ってないよ。ここは過去に魔王と勇者が戦った場所だから」


「……随分詳しいんだね」


「まーね」


軽く流した華蓮に、誠は疑惑の眼差しを向ける。

それに対し紅葉は、別のところに疑問を覚えた。


「過去ってことは、今魔王はどこに……?」


「あの玉座に座ってるのがそうじゃない?」


座っている……と表現していいのか、石像が玉座にもたれかかっていた。

あまりにも自然に存在しているので気づかなかったが、出来の良い石像だ。

経年劣化は見られるものの、造形が非常に凝っている。


「……魔王って女だったんだね」


しかも……くっ、スタイルがすごくいい。


「魔王様に……それ以上近づくな……」


オリビアは動かなくなった体を、抵抗に逆らうように強引に動かし始める。


「そんなこと言われても……石じゃん」


「今はまだ……眠られているだけだ」


魔王って寝るとき石になるんだ……すごい寝相だ。


「でも私たちも用があるし、起こしていいよね?」


紅葉は足元にあった小石程度の瓦礫を拾い、華蓮に判断を仰いだ。


「一応聞くけど、それでどうやって起こすのくれたん」


「こうすんのッ!」



紅葉は、親指を弾いて瓦礫を飛ばす――――



脳裏に過った効果音は「コツン」だった。

実際に聞こえたのは、ピシッと何かが弾け、「ゴロゴロ」という岩が崩れるような音だった。


「あっ……」


紅葉は恐る恐る背後を振り返る。

オリビアは起きた事態が信じられないのか硬直していた。

グリ公はジトッとした目でこちらを見ている。

他のみんなは……私が見ると目を逸らした。


「……やっちまったなぁ!」


「あははははっ、くれたん遠慮なさすぎー」


華蓮だけが腹を抱えて笑っている。

紅葉は少し罪悪感が薄れた。


「そんな……魔王様が……ケアレン様が……」


オリビアは膝から崩れ落ち、紅葉をギロリと睨みつけた。

再び罪悪感が紅葉を襲う。


「……いやいや、魔王があの程度でやられるわけがないじゃん」


今にきっと元通りに…………うん、粉々のままだね。

そもそもホントはただの石像だったんじゃないの。


「華蓮はどう思う?」


「うん、魔王なのは間違いないよ」


そう言って、華蓮は玉座へと足を進める。

そして破片を軽く払い、腰を下ろした。


(華蓮すげぇ……)


よくこの状況でそんなことできるなと、紅葉はただただ感心していた。

しかし、オリビアの敵意は華蓮へと向く。


「そこはお前のような小娘が座っていい場所ではないぞ!」


その手から伸びた魔力の鞭が華蓮へと迫った。



――――本当にそう思う?



ゾッとする重圧感が、オリビアに重くのしかかる。


(な、なんだこのプレッシャーは……)


止めた覚えもない魔力の鞭は、いつのまにか霧散している。

異様な気配に、他の四天王もざわつくものを感じ玉座の間を覗いていた。


「おいおい、どうなってんだこりゃぁ」

「魔王様が砕けちまったのに、魔王様の気配がする……?」

「ぬぅ、理解が追い付かん」


気にはなるものの、身の危険を感じそれ以上先には進まない。

ただ――オリビアだけは違った。


「そうだ……そこは魔王様にのみ許された……」


なおも食い下がり、鬼気迫る表情をしている。

それに対し、華蓮は少し困った顔をしていた。


「うーん、言いづらいんだけど、あーしがその魔王なんだよね」


「ふざけ……そ、その手に持っているのはまさか!?」


華蓮の手には、赤黒い拳ほどの大きさの石が握られていた。


「そ、魔王の核だよ。いやぁ抜け殻とはいえ、あーしの肉体が残ってると上手く取り込めなくて困ってたんだよね。壊してくれてありがとねくれたん」


「どういたしまして」


とりあえず感謝されたので返事はした。

理解はしていない。


オリビアは華蓮の言葉を素直に信じてはいなかった。


「取り込むって、そんなことできるはずが……」


「できるよ。だってこれはあーしの魔力の塊だから……!」



――――核が漆黒の炎で溶け出すと、華蓮の肉体へ浸透するように飲み込まれていく。



その肉体に変化はなく、場はシンと静まり返る。


「……うん、ようやく履きなれた靴を履いた気分だね」


声も普段の華蓮である。

しかし気配の変化に、紅葉以外は金縛りにあったように動けなくなっていた。


「つまり……どういうこと?」


「改めて自己紹介したほうがいいのかな。あーしの名はケアレン・チェリーブロッサム。……でもめんどいから華蓮でいいよ」


そう言って、華蓮はウィンクしながら笑顔を浮かべた。

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