046 ケアレン城と魔法少女。
「さて、本来アポイントもない来客の対応をするほど、局長というのも暇ではないのだが、今回は興味のほうが勝ってしまってね」
6人に緊張が走る。
先程局長であるカイザーは、「異世界の英傑」と口にしたのだ。
つまりここに通されたのは、冒険者としてではない。
健吾は、6人を代表して尋ねた。
「失礼ですが、なぜ俺らを異世界の英傑だと……?」
「ん? そこのお嬢ちゃんから聞いたが?」
「うん、あーしが言ったけど?」
健吾はガクリと倒れそうになる。
まさかそんなあっさり素性をバラされるとは思わなかった。
「さ、桜田さん……俺らの状況わかってる?」
宣戦布告をした国に召喚された存在なんて、即牢獄行きだってありえる。
せめて交渉できる材料がないと……そのためにも、ここは慎重に事を運ばないといけないはずだ。
「わかってないのは皆のほうだと思うよ?」
何を、と言いかけたところで、健吾は言葉を呑み込んだ。
(何だ……桜田さん、いつもと雰囲気が違う……?)
口調はいつもと変わらないはずなのに、目が笑っていない……。
「皆は表向きただの冒険者。そんな中でさぁ、何かを得たいならそれなりにリスクを負わないと」
「それはたしかにそうなんだけど……」
健吾は誠をチラリと見る。
こういう時、一番頼りになるのは誠だ。
「……少し気になるところはあるけど、概ね僕も桜田さんと同意見だよ」
「さすがまこっち、わかってんね」
気づけば、桜田さんの雰囲気がいつも通りに戻っていた。
「そ、そうか……まぁ誠がそう言うなら」
俺も冷静に考えよう。
もしリスクが大きいなら、誠だってここまで落ち着いているわけがない。
それにわざわざ局長が出てきたんだ。
ここからは交渉次第……まずは知ることから。
それから自分たちにできることを考えないと。
健吾は、無言で誠以外の4人に目配せした。
どうやらみんな腹はくくったようだ。
「そちらの話は終わったかな?」
「えぇ、それで早速なんですが、俺たちが知りたいのは――――」
「まぁまぁ落ち着いて、物事には順序というものがある。まずはキミたちの話を聞かせてくれないか」
「俺たちの話……?」
カイザーさんの言葉に、俺は誠に判断を仰ぐ。
すると、誠はコクリと頷いてこれまでの経緯を話し始めた……。
◇ ◇ ◇ ◇
紅葉は、北の都の街並を一人で歩いていた。
ただし、肩にはグリ公が乗っている。
「それで? わざわざ別行動までして、紅葉はどこかに用でもあるの?」
「え? 別にないけど?」
「……ま、そんな気はしてたけどね」
「向こうには華蓮がいるから大丈夫でしょ」
大体のことは上手くやってくれるよ。
「ところでさ、ボクってこんな堂々と外に出て大丈夫なのかな?」
「私もそれは思ったけどさー、アレを見る感じ大丈夫じゃない?」
指差した先には、箒に跨って飛ぶ少女と猫が見えた。
他にもカラスとか、ネズミを連れている人を見かける。
「多分、使い魔とかそういう類のでしょ」
じゃなかったらただの動物虐待だよ。
「なるほどねー、なんだか魔法の国に雰囲気が似てるなぁ」
「へぇ……」
「なんかあまり興味なさそうだね」
「だってないもん」
どうせなら科学の国とかに行きたい。
近未来映画みたいな世界とか興味ある。
「魔法少女の力の源なんだけどな……」
「なんか存在が嘘くさいんだよね」
「とても魔法少女当人の言葉とは思えないよ」
だって行ったことないし。
街中をブラついていると、気づけば城の近くまで来ていた。
この辺りには箒に跨って飛んでいる人は見かけない。
「ねぇグリ公、何でこの辺だけ誰も飛んでないんだろうね」
「うーん……まぁ普通に考えたら、お城の近くを飛ぶのは不敬に当たるんじゃない?」
なるほどね、そういうのはたしかにありそうだ。
「じゃあそもそも城の近くに人がいないのは?」
「それは……なんだろうね」
城の周囲はまったく人通りがない。
これはもしかすると……
「城壁近くを通るのも不敬だったり……?」
「そこまで厳しくはないでしょ……多分」
なんだか心霊スポットにでも来たような気分になってきた。
「……あそこに門があるね」
「うん、あるね」
「門番すらいないように見えるんだけど」
「奇遇だね、ボクにもそう見えるよ」
さらに門の正面で立ち止まってみるも、誰かに見られているような気配はしなかった。
どうやら監視すらされていないらしい。
――その時、紅葉の中で疑惑は確信に至る。
「……っ! やっぱりこの城おかしいよグリ公」
「そうだね、この城は何か異様なものを感じる」
「インターホンがない!」
「それが決定打だったの!?」
これは大問題だ。
ノックするしかないのだろうか。
(……格子状の門ってどうやってノックすればいいの?)
とりあえず紅葉はソッと門に触れる。
すると、ギィ……と音を立てて門がゆっくりと開いた。
「開いたよ……」
「……まるで空き家みたいだね」
「入っても大丈夫かな?」
「ボクに聞かれてもわかんないよ」
城には蔦も伸びており、かなり年季が入っているのがわかる。
放置しているあたり本当に空き家なのかもしれない。
「よし、もしダメだったら迷子のフリをしよう」
「随分堂々とした迷子だね」
「大丈夫、こう見えて私は迷子センターに連れていかれるの慣れてるから」
「どこに安心要素が……?」
紅葉は、周囲を気にせず堂々と敷地内へと入っていく。
こういう時は、こそこそするから悪いことしている気分になるのだ。
知らない場所でも自信を持って進むべし。
自分は何も間違っていない、という気持ちが大事なのである。
「不思議な場所だけど、好奇心で入っていい場所なのかな……」
「ダメだと思うよ」
「自覚はあったんだね」
「でもグリ公だって止めないじゃん」
「そりゃまぁ、ボクだってちょっと興味あるし……」
よしよし、これで共犯だ。
門から真っすぐ歩いていると、正面に大きな扉が見える。
かなり年季は入っているものの、重厚な造りで丈夫そうだった。
「でっかい扉だねぇ」
「さすがに施錠ぐらいしてあるんじゃない?」
「どれどれ……」
扉をグッと押してみると、一瞬ミシッと音がしただけで開きはしなかった。
「ほら、さすがにこれは壊したら言い訳できないからね?」
「失敬な、それは最終手段だよ」
「選択肢にはあるんだね……」
以前門に腕がはまっちゃったことがあるからね。
私だって学習する。
紅葉は、1本の針金を取り出した。
「ちゃんと開ければいいんでしょ」
「ちゃんと……?」
華蓮とか器用だしこういうの得意そうだけど、私だってこう見えて手先は器用なのだ。
テレビとかでも見たことあるし、まずは鍵穴を覗いて……
「……穴ないじゃん」
「あー……多分、反対側に閂があるのかな」
針金をギュッと握りしめて放り投げた。
やっぱりズルは良くないってことだね。
「よし、堂々と行こう!」
「それってまさか……」
「押してダメなら引く……のは前にもやったから、今度は押す!」
「最終手段早すぎ!」
グリ公の言葉を無視し、紅葉は身を捻って思い切り後ろ回し蹴りを扉へと放った――――




