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044 暴風の魔法少女。

再び夢の世界へと旅立った隼人は、男性陣に馬車へと運び込まれていった。


「んで、急ぐ手段ってなんなの?」


「もち瞬間移動っしょ」


やっぱりね、と紅葉は納得していた。

話を聞いていたグリ公は、器用に地図を広げる。


「でも華蓮、距離が遠いと無理なんじゃなかったの? 北の都までけっこうあるよ?」


「そだよー。だから場所は雑になっちゃうかもね」


「雑……?」


「んー……やってみてのお楽しみ?」


「大丈夫なのかな……」


………………


…………


……


「ってことで、人数多いから馬車ごと包んでみたよ」


いつの間にこんな物を用意したのか、華蓮は大きな布で馬車の荷台ごと全員を包み込む。


「これは一体何を……」

「桜田さんの職業って、たしか手品師だったよね?」

「これが急ぐ手段なの?」

「手品っぽくはあるよね」

「ふむふむ、2人は自然と距離が近い……っと」


気絶したままの隼人と、まったく別のところに気を取られている恵を除いて、皆華蓮の手品に注目していた。


うんうん、初々しい反応だね。

きっとこの後もっと驚くことになるよ。


「これはみんなビックリするだろうね」


「そりゃね……場所が雑になる、というのが気になるけど」


グリ公は細かい事を気にしていた。


「まぁ地中に瞬間移動とかじゃない限り大丈夫でしょ」


「……嫌な事言わないでよ。さすがにそんなことはないよね華蓮」


グリ公の疑問に、華蓮は少し考える素振りを見せる。


「…………多分」


「そこは自信を持ってほしかった」


「じゃあ地中に飛ぶかもしんない」


「そっちの多分だったのか……」


しかしグリ公は逃げない。

それどころか、紅葉の体にしがみついた。


「モサモサして鬱陶しい」


「我慢して。ボクの生存確率を大幅に上げるためだから」


グリ公は大袈裟だなぁ。


「それじゃー行くよー。ワン…トゥー……スリー!」


全員を包み込んでいた黒い布が、勢いよく取り払われる。

視界が開け、日差しが眩しかった。


――――同時に、謎の浮遊感が襲う。


「まぁ地中じゃないし、これならグリ公は問題ないね」


「そだね……」


瞬間移動した先は空だった。

浮遊感があったのも最初だけで、すぐに重力に引っ張られ体は大地を目指し落ちていく。

それは当の本人である華蓮も同様だった。


「めんご、けっこうズレちゃった」


「まぁまぁ高いねー」


落ちながらも、2人は普段通りに会話していた。


「2人共呑気だね。あの子たちは放っておいていいの?」


グリ公が指し示したのは、瞬間移動初体験の6人だった。

その反応は皆違っている。


まるで絶叫マシンにでも乗っているかのように絶叫する者。

現実逃避し、何か独り言を呟いている者。

後は妙に静かな……あれは気絶してるだけか。

いろんな反応があって見てる分には面白い。


「お楽しみの時間を邪魔するのは私の理念に反するよ」


「見てるキミが楽しいだけでしょ」


「あっ、あそこに見えるのが北の都じゃない?」


「楽しそうなのを隠そうともしないね」


北の都はそう遠くない位置に見えた。

位置がズレるってこういうことなんだ。


グリ公は紅葉に頼るのを諦め、華蓮に6人を助けるよう促した。


「ねぇ華蓮、この状況は予想できてたんだろうし、もちろん対策は……?」


「もち」


「だよね。さすがにあの6人を見捨てるわけないよね」


「もちろんしてないって意味だよー。あと、あーしもう魔力切れちった」


「あぁ……うん、まぁ……華蓮は悪くないよ」


会話を聞いていたであろう数人は、顔が青ざめていた。

こうなると、頼れる相手は紅葉だけである。

皆の視線は当然紅葉に集まっていく。

期待……というよりは縋るような眼をしている。


「え、なに? 私が何かしたほうがいいの?」


「この状況で何もしない選択肢があることに驚きだよ」


「私壊す以外は専門外なんだけど……」


「とても魔法少女のセリフとは思えないね」


実際そうなんだから仕方がない。

大体私が使える魔法なんてグリ公は把握してるだろうに。


「んー……とりあえず簡略変身!」


紅葉の体が一瞬だけ発光し、魔法少女ルージュの姿へと変化する。


(さて、ここからどうしようかな)


殴る蹴るで解決できるなら簡単なんだけどな。

これがゴールドなら、空を飛べるからみんなを回収できるかもしれない。

これがアクアなら、ゼリー状の水でも作ってクッションにでもするかもしれない。

なら私は……


「ま、やるだけやってみますか」


空気を蹴って移動するときの応用だ。

あれを手で……ただし蹴るわけではない。

空気を面で捉え、掴む……のはさすがに無理か。

なら誘導し、小さな暴風を――――


「――ルージュ・タイフーン!」


収束した空気は圧迫され、行き場を求め暴れまわる。

ほら、後は上空に解放してあげるだけだ。


ここでルージュは後悔した。


「ルージュ・トルネードにすれば良かったな」


ちょっと格好悪くなってしまった。

せっかく狙い通りにみんなを助け……


(あー……まぁ突然上昇気流にぶつかるとそうなるか)


みんなすごい顔になっていた、ウケル。





「いやールージュっちのおかげで何とかなったね」


着地に失敗して尻もちをつく者が多い中、華蓮は優雅に着地していた。


「人助けも魔法少女の使命だからね」


「渋々だった癖によく言うよ」


遅れてグリ公は肩に乗ってきた。

羽がボサボサになってて鬱陶しい。


さてあの6人は……意識があるのは半分だけか。


「はぁ…はぁ……死ぬかと思った」

「ま、まだ手の震えが止まらないよ……」

「……ちょっと漏れたかもしんない」


そんな中、誠は震えながらも立ち上がり、ルージュたちへと歩み寄る。


「ほ、本当に魔法少女なんだ……疑ってたわけじゃないけど、実際に変身するとちょっと緊張するね」


「纏ってるオーラが違うからね、楽にしていいよ」


「オーラはちょっとよくわかんないけど、これ以上頼もしい存在はないよ」


うんうん、まこっち君はよくわかってるね。

震えてる姿もヒロイン枠にしか見えないし、もし悲鳴を上げたら助けてあげないこともないよ。


「でも……」


誠は鋭い視線を華蓮に向ける。


「桜田さんの職業って手品師だよね?」


「うん、そーだよ」


「じゃあ何か仕掛けがあるんだよね? 一体どんな……」


「あー、やっぱ気になっちゃう感じ?」


困り顔の華蓮の代わりに、ルージュが口を開いた。


「ダメだよまこっち君、種明かしは手品師にとってタブーなんだから」


(キミがそれを言うかね)


なぜか得意気だったルージュを見て、グリ公は無言のまま呆れている。


「タブー……いやでも――


「タネも仕掛けもございません。これはそういう能力だよ?」


食い下がる誠に、ルージュはウィンクした。

ここで誠の頭脳は高速回転し、一つの結論に至る。


(あの瞬間移動はどう考えても手品の領分ではない。きっとそれは魔法少女ルージュだってわかっているはず。つまり、これ以上は踏み込むなという警告……!?)


誠は苦笑いで無理矢理自分を納得させた。


「な、なるほど、そういう能力なんだね」


「さすがまこっち君、理解が早くて助かるよ」


こうして、誰も華蓮の能力については触れなくなった。


「んー……そろそろ話してもいいかと思ったけど、納得してくれてるみたいだし……また今度でいっか」


そんな華蓮の独り言は、誰の耳にも届いていなかった……。

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