040 暴かれる魔法少女。
ごまかすことをあきらめた紅葉は、その後も部屋の隅で居心地の悪さを感じていた。
(おかしい……正体がバレたら、皆もっとグイグイ来るもんじゃないの?)
なんだか腫れ物にでもなった気分。
ひょっとして気を使われているのだろうか。
サインぐらいなら対応してあげるのに。
「なるほどねぇ、それで6人で結託して城から脱出したんだね」
「最初は大変だったけどね。誠くんが指揮を執ってくれなきゃ今頃どうなってたか」
華蓮はポニーテールの子と話している。
髪型が私と被っているので、あの子は要注意だ。
「へぇ、あのまこっちがねぇ……」
「僕なんてそんな……戦闘になったら基本役立たずだし」
まこっちちゃんは頭脳労働タイプか。
もしかすると私のライバルなのかもしれない。
「ところで、魔法少女ルージュに聞きたいことがあるんですが……」
「今は変身してないんだから、その名で呼ばれても困るよ。それにタメでしょ? 敬語はやめてよ」
「そ、そっか。じゃあ……赤峰さんに聞きたいんだけどいいかな?」
「今更隠すようなこともないし、何でもどうぞ」
とは言ったものの、魔法少女の正体を知った人が聞きたくなることってなんだろう。
華蓮はあれこれ聞いてこなかったしな……。
「赤峰さんは、僕らを召喚したあの国をどう思う?」
「どうって言われてもな……変な国?」
特に名前……チャタテムシ王国だっけ?
「そう……変なんだあの国は。僕の予想では、赤嶺さんはかなり早い段階であの国の異常性に気づき、反旗を翻した……だよね?」
「え? あー……うん、そうね」
軽い気持ちで外に出たらこうなっただけだけど。
……別にこのことは隠すわけじゃないよ?
ただねぇ、別に言わなくてもいいことだし?
だからグリ公、そんな目でこっちを見るな。
「やっぱりそうか……僕も確信を持てる何かがあるわけじゃないけど、あのまま城にいるのは嫌な予感がしたんだ」
「へぇ……」
この子やるじゃん。
みたいな雰囲気でとりあえず答えた。
あくまでも上から目線なのがポイントだ。
「桜田さんもそうだよね?」
「あーし? まぁ似たようなもんかな。ていうか、まこっちってそんな行動力あるタイプだったんだ?」
「……実は、最初に行動を起こしてくれたのは健吾くんなんだ」
また出たよケンゴくん。
行動力があって、一人だけ別次元の強さを持ってて、その場にいなくても話題に上がるほどの存在感……異世界物の主人公かな?
「健吾っち剣道部主将だったもんね。頼りになる感じ?」
「うん、ここまで来れたのは彼のおかげだよ」
「あいつすげーんだぜ? 剣の動きなんて速すぎて全然見えねーし」
剣を扱うケンゴくん……いやいやまさかねぇ。
たまたま特徴がちょっと被ってるだけだよ。
その時、若菜が何かに気づき立ち上がった。
「お、噂をすれば健吾くんの到着だよ。私ちょっと迎えに行って来るね」
部屋を出ていく若菜を見て、紅葉は気持ち部屋の隅に寄った。
「いやすまん、ちょっと警備隊の世話になってて……」
健吾は宿で仲間と合流すると、開口一番に謝罪していた。
「警備隊って、一体何やらかしたんだよ健吾」
「ちょっと修練場で腕試しをな……まぁ厳重注意で済んで良かったよ」
……やはり同じケンゴくんでしたか。
「腕試し……たしかにここの警備兵って妙に強そうだけど、今の健吾くんの敵じゃないんじゃない?」
若菜がそう聞くと、健吾はどこか気まずそうだった。
「いや、世界って広いよ。俺なんかまだまだだった」
いやいや、案外狭いと思うよ。
「そんな強い人がいたんだ?」
「そうなんだよ。しかも俺ワンパンで気絶しちゃって……って桜田さん!?」
「健吾っち気づくの遅くね?」
「な、なんかすっごい自然にいるもんだから気づかなかった……」
なるほど、自然体でいればいいのか。
木を隠すなら森の中、私を隠すなら同年代の中だ。
しかし、健吾の指先は俯く紅葉の方を向いた。
「あと、その小さい子は……?」
……いきなり身体的特徴を口にするなんて失礼だと思うんです。
「あーっと……まぁ健吾っちにだけ内緒にしててもしょうがないし、いいよね紅たん」
「……はぁ、しょうがないか」
紅葉は観念して顔を上げた。
健吾は顔を見るなり、驚きの表情に変わる。
「あっ、修練場の……!」
「その節はどうも」
「師匠さんが何でこんな所に!?」
「何でと言われても、ここは私と華蓮が泊まっている部屋だよ」
二人部屋なので今はちょっと手狭に感じる。
「紅たん師匠って呼ばれてるんだ?」
「向こうが勝手にそう呼んでるだけだけどね」
華蓮以外の6人は、何か聞きたそうにこちらを見ている。
なるほど……ちゃんと説明する必要があるようだね。
「ま、順を追って説明しようか。私たちがこの宿に泊まっているのは、高級すぎる宿よりこれぐらいのほうが落ち付けて――――」
「いや、それはいいから師匠に関して知りたいかな」
順を追う前の足踏みは、まこっちちゃんに却下された……。
………………
…………
……
「……てな感じで、修練場で師匠と呼ばれていた彼女に俺が挑んで、あっさりやられちまったんだ」
健吾は悪気なく、紅葉と修練場で会ったことを話した。
私としてはあまり知られたくなかった。
だって私は魔法少女だよ?
汗臭い修練場で、毎日のように兵士たちを殴り飛ばしてるなんて、私の可憐なイメージが壊れちゃう。
「健吾があっさり……?」
「なんかの間違いじゃないの?」
「いや、でも相手が魔法少女ルージュだと考えたら……」
「そんなにおかしい事じゃないのかもしれないね」
「たしかに……」
五人ともこちらを見ている。
あまり観察しないでほしい。
地味眼鏡を演出しつつそれが偽りであるのがバレてしまう。
「魔法少女ルージュ……?」
健吾は首を傾げていた。
「あ、そっか、健吾は知らなかったな。あの子が魔法少女ルージュなんだよ」
隼人の言葉を聞いて、健吾は少しだけ驚いた顔を見せた。
「魔法少女ルージュだって……?」
「そうなんだよー。ま、変身するとこ見てないからぶっちゃけ半信半疑なんだけど、健吾が負けるなら本物っぽいな」
うんうん、気持ちはわかるけど、あまり乙女をジロジロと観察するものじゃないよ。
でもそうか、半信半疑だったのか…………もうちょっとシラを切っても良かったな。
――しかしここで、誠はあることに気づく。
「ちょっと待って。健吾くんの反応を見るに、負けたのは魔法少女ルージュ相手じゃなくて、変身前の赤峰さんに……なのかな?」
「まぁそもそも俺は魔法少女だと思ってなかったしな」
またも視線が紅葉に集中する。
「魔法少女って変身しなくても強いんだ……」
「実体験の俺が保証する。間違いなく今まで見た中で最強だった」
よせやい、照れるじゃん。
まぁ健吾くんとやらも、良い線いってたと思うよ。
今度発声練習のコツでも教えてあげようかな。
そんな中、隼人がボソリと呟く。
「……やっぱりただのコスプレなんじゃ――んごッ!」
見えない何かに顎を弾かれ、隼人は膝から崩れ落ちた。
(コスプレ扱いには死あるのみ)
紅葉の指からは、微かに煙が出ていた。
指弾――――親指を高速で弾き、空気の弾丸を飛ばす力技である。
なお、射程は短く殺傷力もまったくない。
「ど、どうしたんだ隼人!?」
「何か当たったような音がしたけど……」
「……気絶してる」
健吾たちは気づいていなかったが、グリ公は呆れていた。
「……何してんのキミ」
「んー? 何の事?」
とぼける紅葉を、華蓮はフォローする。
「みんな今日到着したばかりっしょ? 隼人っちも疲れてたんじゃない?」
「たしかに隼人は馬車に乗らないでずっと走ってたけど……」
「まぁ今日はもう遅いし、続きは明日にしようか。話したいこともまだまだあることだし」
誠に背中を押され、どこか納得してない健吾が隼人を担ぎ、6人は部屋を出て行った。
「話すことまだまだあるんだ……」
「まこっちなんかキャラ変わったなぁ」
なんとなく、会話の主導権を向こうに握られているようで不安になった……。
6人が男女に分かれて部屋に戻る際、健吾はずっと聞きたかったことを口にする。
「……ところで、誠……だよな? その髪は……?」
「こ、これは恵さんが…………変かな?」
「いや、まぁ……似合ってると思う」
「そ、そっか……」
少し照れている二人を見て、恵は小さくガッツポーズをした。




