039 見つかった魔法少女。
――ここは紅葉と華蓮が泊まっている宿の一室。
(私は壁……私は壁だから……)
紅葉は部屋の隅っこで小さく体育座りしていた。
グリ公は窓際で石のように固まっている。
というのも、次から次へと華蓮のクラスメイトが増えていったのが原因だった。
何でわざわざこっちの部屋で話すんだろう。
関わりたくなくてそそくさと私は退散してあげたのに。
そもそもここは私の空間でもあるんだよ。
「へー、それで6人で冒険者やってんだ」
「そうそう、飛脚の俺が囮役をやって」
「私の花火で魔物を攪乱して」
「混乱して出てきたところを私が射貫く」
「そして怪我人は私が治す……っていうのが誠くんの考えた基本戦術なんだよ」
よし、みんな久しぶりの再会で話すのに夢中だ。
悪いねグリ公、私は少しずつこの場を離脱するよ。
「へー……まこっち髪切った? その格好似合ってるね」
「そ、そこは触れないでほしいな」
大丈夫、ゆっくり移動するんだ。
そうすれば、この地味眼鏡モードの私の存在を認識できる者などいない。
「ってあれ? 6人ってことは……」
「あぁ、もう一人は健吾くんだよ。彼だけは戦術の枠に収まらない強さを持ってて、すごく頼りになるんだ」
……ケンゴくん?
はて、つい最近聞いた名前ですね。
「ふーん……んで、その健吾っちはどこに?」
今この場にいるのは、華蓮、誠、隼人、若菜、陽子、恵、それと部屋の隅でじわじわと出口を目指している紅葉の7人である。
(一人足りないじゃん、皆で捜しに行きなよ)
しかし、紅葉の願いは届かなかった。
「んー合流地点にまだ健吾くんは来てないっぽいよ」
「若菜っちわかるんだ?」
「ここからなら割と近いからスキルでわかるんだー」
ほらほら、迷子なら尚更捜しに行かないと。
「ま、健吾なら大丈夫じゃね?」
「そだね、一番心配いらないかも」
「健吾くんは別次元の強さだもんね」
他の三人も捜しに行くことはなかった。
何て薄情な人たちだろう。
一番小柄な……まこっちちゃん、キミから何とか言ってくれたまえよ。
紅葉がそう視線で訴えると、誠と目が合った。
「……ところで桜田さん、その人は?」
――紅葉に、全員の視線が突き刺さる。
「あー……やっぱり気になっちゃう感じ?」
五人は無言で頷いた。
この瞬間、紅葉と華蓮の鋭い視線が交差する――――
(今の私はただの地味眼鏡。それでいて高校の制服を着ている……つまり、別ルートで召喚された先輩ってことでいけるのでは……?)
(魔法少女ってことを隠したいなら、この世界の人間ってことにしたほうが、まだごまかせる可能性は…………いや、無理っしょ)
お互い考えていることはそう遠くないと思い、二人は無言で頷いた。
紅葉は堂々と立ち上がる。
そして制服を強調するように胸を張った。
「私は赤峰紅葉、あなたたちの先輩だよ。私もちょっとした事情からこの世界に召喚されちゃったの」
「こんな小さいのに先輩?」
「ぅごふッ!」
隼人の心無い言葉は、一瞬で紅葉の自信を叩き潰した。
(小さい……小さいかぁ……)
だってしょうがないじゃないか。
伸びないんだもの!
(あちゃー、紅たん墓穴掘ったねぇ)
華蓮がフォローしようとした矢先、誠が口を開いた。
「桜田さんも同じ制服を着ているという状況から、おそらくそれはこの世界に来てから手に入れたものと推測できます」
えっ、そういう推測ができるの?
ていうかこの子、大人しそうな割りによく喋るね。
「じゃあなぜ先程のような嘘をついたのか……それは、隠したい何かがあるからですよね?」
誠の視線が一際鋭くなる。
「すげー、探偵みたい」
「紅たんが感心してどうするの」
ただのその推理には一つ穴がある。
ここからは私の論破力が試されるところだ。
「ふふっ、中々面白い推理だけど……まだまだだね、まこっちちゃん」
「江戸川誠、男です」
「その推理は、そもそも私が嘘をついているという不確かな前提が…………男?」
紅葉はまじまじと誠を眺めた。
確かに中性的な顔立ちだが……。
「……それこそ嘘なのでは?」
「ちょっとショックです」
うーん、魔法少女の衣装が良く似合いそうだ。
「気を取り直して……隠したい何か、それはあなたが僕たちと一緒に召喚されたということ……そうですね?」
「はん、何を言いだすかと思えば」
この程度で私を論破しようだなんて、冗談は性別だけにしてほしいよ。
「私が魔法少女ルージュだなんて、そんなことあるわけないじゃん。第一、証拠すらないただの憶測じゃないの」
魔法少女に変身道具なんてものが存在しない以上、証拠が出てくるわけがないのだ。
つまり……私の勝利は約束されている!
「あれ? 僕は魔法少女なんて一言も言ってませんけど……」
「……そうだっけ?」
皆無言で頷いた。
グリ公は呆れた目でこちらを見ている。
華蓮は申し訳なさそうに口を開いた。
「まぁ状況的にほぼ確だもんね。あーしが誰かと一緒にいたら、それが……って感じ?」
なるほど、つまり私は初めから魔法少女だと疑われていたわけか。
約束は反故される運命なんだ。
「…………ねぇグリ公、今から入れる保険ってあるかな?」
「魔法の国に保険制度なんてないよ」
◇ ◇ ◇ ◇
ひたすら北に向かっていた勇人たち一行だったが、王城からのとある通達により行き先が変更となった。
「えっ、隣国に向かうんですか……?」
「何でも魔王軍四天王を名乗る者が現れたとかで、モラトリア公国へ向かってほしいそうです」
早馬でやってきた兵士は、騎士団長ズラーダと勇人にそれだけ言い残すと去って行った。
ズラーダは地図を確認すると、少し表情が曇っているように感じる。
(モラトリア公国……ここからならそんなに遠くないみたいだな)
目的地がはっきりしたのは良いことだ。
しかし、クラスメイト達の士気はかなり低かった。
このまままた再戦したとして、まともに戦えるのは自分と南さんぐらいだろう。
「ねぇ相川くん、魔王軍四天王って……」
「うん、多分バウアーのことだと思う」
思ったより早くリベンジの機会が来てしまった。
ただ、勝てる自信があるかと言えば……イメージがまったく湧かない。
「……戦わないとダメなのかな」
南さんは、小さな声でそう漏らした。
避けられる戦いなら是非ともそうしたい。
でも――――僕はもう覚悟を決めたんだ。
「それが、力を持つ者の宿命なんだろうね」
負のイメージを払拭するには、きっと大きな勝利が必要だろう。
それが、クラスメイトたちの士気にも大きく関わってくる。
「……うん、私も逃げない。相川くん一人に戦わせたりしないから」
「えっ、あ……うん、ありがとう?」
南さんは最初から頭数に入ってたんだけどね……。
………………
…………
……
その日の夜、今後の事を伝えるため全員を集めた。
しかし、騎士団長ズラーダの一言によって、暗雲が立ち込める結果となる。
「モラトリア公国となると、我々はついていくことができません。申し訳ない」
「えっ……?」
勇者である勇人でさえ、このことは初耳だった。
クラスメイトたちは当然混乱し始める。
「じゃあ俺たちだけで魔王討伐の旅を……?」
「もしまたあんな化物が現れたらどうするんだよ」
「無責任すぎるだろそんなの!」
深く頭を下げるズラーダに、皆抗議の声を上げ始める。
「皆、一旦落ち着いて!」
勇人が仲裁に入るが、中には物を投げ始める者まで出てきた。
(皆一体どこにそんな投げる物を持ってたんだ……)
どれもゴミだけど、皆普段から持ち歩いているのだろうか。
そんな悠長なことを考えていると、急激にその場が静まり返る。
皆騎士団長を見つめたまま固まっている。
「……?」
視線を追うと、そこには真剣な眼差しで頭を上げた騎士団長ズラーダの姿があった。
そして無言でその場を去っていく。
誰もそれを引き留めることはしなかった。
そこにある真実に衝撃を受けてしまったのだ。
(ヅラだったのか……)




