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038 ものすごく強い少女。

「勝手に入って大丈夫なのか……?」


修練場に到着した健吾は、入口らしき場所に誰もいないので困惑していた。

石造りの塀に囲われているが、それほど高くはないので中を覗こうと思えば覗ける。


「妙に静かだな、誰もいないわけじゃないよな」


たくさんの兵士が素振りでもやってるのを想像したが、現実は違うのだろうか。


「よっと」


塀に登り、頭だけ出して中を覗いてみる。

修練場の中には、人の姿がそれなりにあった。


(なんだいるじゃん……って人が倒れてる!?)


それも一人や二人じゃない。

何十人もの兵士たちが地べたを這っている。

しかし、その会話が聞こえてきたので健吾は少しホッとした。


「もう無理……」

「俺も立てないわ」

「隊長たちすげぇ……」

「一撃でも当たったらアウトだもんなぁ」


どうやら彼らの命に別状はないらしい。

そして健吾は、その視線の先にあるものが気になった。


(ここからだと良く見えないな)


入口に誰もいないのが悪いんだ、と自分を納得させ、健吾は修練場の中へと跳ぶ。


それは――すぐに視界に入ってきた。

というよりも、目を奪われたと言った方が正しいかもしれない。


一人の少女に対し、二人の剣士が木剣を振るっている。


おそらく、この世界に来たばかりの頃の自分では、目で追うことすら難しかっただろう。


(剣士はどちらもかなりの達人級……多分、俺よりも強い)


しかし剣士の太刀筋は、どれも少女に紙一重で回避されている。

それどころか、時折反撃されていた。


(一撃でも当たったらアウトか……なるほど)


健吾は、それが少女の一撃だと瞬時に理解した。

あれに当たれば、きっと自分もただでは済まない。


「あの制服……どこかで見たことあるな」


自分と同じ世界から来た人間かもしれない。

ただ、あれは高校の制服だったはず。

でも見た目的には年下にしか見えない。


(2個下の妹と同じぐらいか? ……なんかデジャブだな)


というか誰かに似てる気がする。

思い出せないのが少し歯痒い。



「だーくそっ、もうダメだ」


2本の木剣を使っていた男が、先にその場で膝を付いた。

それに続くように、もう一人の女性も構えを解きしゃがみ込んだ。


「はぁ…はぁ……今日もダメだったか」


限界に達した二人に対し、少女は息すら切らしていなかった。


「まぁ今日はこんなところかな。といっても、修業つけてやれるのは明日までだけど」


まさかとは思うが、あの少女が修行をつける側なのか。


「未だに一撃も当てられていないけど、俺たち成長してるのか?」


「それは……どうなんですか師匠」


師匠と呼ばれた少女は、少しだけ考え込んでいた。


「うーん……ま、無駄な動きは減ってきたんじゃない? おっと、もうこんな時間だね。じゃあ明日で終わりだから、全部出し切れるようにがんばってね」


少女はそう言い残すと、修練場を後にしようとした。

それを、健吾はつい引き留めてしまう。


「ま、待ってくれ!」


「ん……?」


健吾は落ちていた木剣を拾い上げ、少女に向かって構える。


「俺にも一本付き合ってもらえないだろうか」


「え、誰?」


「部外者が図々しい事を言っているのは重々承知だが、その上で頼む」


「いや、だから誰?」


「……健吾、ただのDランク冒険者だ」


「ケンゴ……?」


少女は構えないどころか、首を傾げている。

それなら、勝手に行かせてもらう――ッ!


「――シッ!」


横薙ぎに最速の一撃を放つ。

今は威力よりも、とにかくスピードを求めた。


しかし、まるで手応えがない。


「ねぇねぇ、キミもしかしてさぁ――」


少女の声は背後から聞こえた。

健吾は反射的に身を捻り、自身の周囲に斬撃を放った。


「回天剣走ッ!」


これは自身を中心に、半径3m程度を無差別に切り刻む技だ。

それでも手応えがないというのもおかしな話だが、これで一旦距離を取れる。


――――そう思った健吾の腹部に、鈍い衝撃が走った。


「ぅ……ごぁっ……」


「技名が聞き取りづらかった、22点!」


薄れゆく意識の中で健吾は理解した。


あぁそうか……構えなかったんじゃない、構える必要がなかったんだ――……



◇   ◇   ◇   ◇



「ダメだよー。技の練習だけじゃなくて、発声練習もちゃんとやっておかなきゃ……って気絶してるし」


急に現れたにしてはそれなりに速かった。

技名の系統も嫌いじゃない。


「ていうか、この人誰かの知り合い?」


日本人っぽい名前だったけど、それだけで判断するのは早計である。

そもそも日本人だったらいきなり木剣で斬りかかっては来ないだろう。


「私たちは存じませんが……」


「Dランク冒険者って言ってなかったか?」


ヴァネッサとガロードも知らないようだ。


「ふーん……まいっか。この人の事頼んでいい?」


「もちろんです。この男の身柄は警備隊にお任せください」


ケンゴと名乗った冒険者の男はずるずると引き摺られていった。


うんうん、持つべきものはできた弟子だね。

……ずっと実戦形式で教えてる感はあまりないけど。


「とてもDランクとは思えない強さだったけどな。どう思うヴァネッサ」


「私もそこは同感だ。それに見たことのない剣技だった」


「剣技と言えばよう。師匠対策とか言って考えた新技、上手くいってなかったじゃねぇか」


「それはお前が上手く合わせられてなかっただけだろう。そもそも――――」


はぁ……とため息をついて、紅葉は修練場を後にしていく。


隙あらば痴話喧嘩するのやめてほしい。

本人たちにその自覚がないのもじれったい。

いっそのことやらしい雰囲気にしてやろうか。





宿に帰る途中、小舟の上で昼寝している華蓮を見かけた。


「なにあれ……超羨ましい」


穏やかな水の流れに浮く小舟の上なんて、さぞ寝心地が良いことだろう。

ただ昼寝をするには少し遅い時間だ。

そろそろ夕方になるし、ちょっと驚かしてやろう。


「ほっ」


小舟に向かって跳んだ紅葉は、一切の衝撃がいかないよう着地する。

後は耳元で大声を……と顔を近づけた所で、華蓮の瞼が開いた。


「あれ、くれたんじゃん。今帰り?」


「……うん、まぁ……」


おかしい……一体いつ気づかれたんだ。

まるで羽毛が舞い降りたかのような優しい着地だったはず。


「羽毛じゃダメだったか……」


次は埃レベルで着地するとしよう。


「羽毛……? 布団の話?」


「違うよ、でも羽毛布団はほしい」


「んじゃちょっと作ってみようか」


「さすが華蓮、サスカレだね」


これで次の旅はますます快適になるかもしれない。

北上するって話だし、寒い中でのフカフカのお布団なんて、幸せが待っていること間違いなしだ。

…………はて、そんな話だったっけ?



華蓮と一緒に宿に帰って来たものの、すでにこの宿の食事は飽きている。

変化があるとすれば他の宿泊客が変わる程度だ。


(お、あれは多分同年代かな)


二人組の女の子というのは初めて見た。

髪も黒いし、実は日本人だったりして――


「さ、桜田さん?」


「あれ? めぐっちじゃん、こんなところで奇遇だね」


華蓮は二人組へと駆け寄った。

私は、友達が自分の知らない友達に会った時のような、なんとも言えない気持ちになった。


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