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037 辿り着いた6人。

モラトリア公国の最北端に位置する魔王城では、機嫌の悪いオリビアが呆れ果てていた。


「ったく! どいつもこいつも、何で単独で動くかね」


テーブルには四つの席が設けられているが、今は二つしか埋まっていない。

一つは【女帝】のオリビア、もう一つには【愚者】のコウカクが座っている。


「まったくだ。我は一目見て無理だと確信したぞ」


二人はテーブルの上で正座する小さな人型の存在に呆れるしかなかった。


「こんなはずではなかったのだ……」


「俺は例の少女にやられたわけではないのだが……」


言い訳をしている二人は、姿形は【力】のバウアーと、【悪魔】のアスモデウス(以下略)そのものだった。

ただ、サイズは20cm程度しかない。


「舐めた結果が情けない姿じゃないのさバウアー」


「ふん、本来なら肉体の欠損なぞ簡単に修復できるのだがな。どうもうまくいかんのだ」


辛うじて核が残っていたバウアーは、修復を試みるもこのサイズが限界だった。

現状ではゴブリンにも勝てるか怪しい状態である。


「こっちの悪魔の何とかに至っては別人にやられる始末だし」


「アスモデウス・サタン・バフォメット・ベリアルだ!」


「長いのよ」


「ちなみにどんな手法でやられたかは覚えとらん。どうにも記憶の欠落がみられる」


もはや呆れてものも言えない。


「して、どうするのだオリビア。もはや四天王と呼べる状態ではないぞ」


「そうなのよね。この2匹は戦力外だし」


「こうなった以上、早急に考えねばならんな」


「えぇ、おそらく時間もそれほどないわ」


コウカクとオリビアは、戦力外の2匹を無視して今後のことを考えていた。

ここまで来ると考えていることは同じなのだろう。

二人は無言で頷き合い、ほぼ同時に口を開いた。


「二人なら二天王か? ちょっとしっくりこないんだが」


「あの少女への対策を…………は?」


唖然とするオリビアだったが、コウカクは気にせずに続けた。


「せめて三人なら三人衆とか名乗れたのにのぉ。二人か……難しいな」


本人は至って真面目に悩んでいる。

おかげでオリビアは頭が痛くなる思いだった。


「はぁ……実質私一人だけみたいなものか」



◇   ◇   ◇   ◇



健吾たち一行は護衛なので、夜は交代で見張りをすることになる。

男子と女子に分かれたテントから各1名ずつ、二人で火の番をしていた。


そして今、男子のテントでは隼人と健吾が休んでいる。


「俺さ、タイム伸び悩んでたし、走る意味を見失ってたんだよね。でもこの世界に来てから変わったよ。また走ることへの渇望っていうの? そういうの、思い出した気がするんだ」


「あぁ……うん、そうなのか」


まだ寝るには少し早い時間なのか、妙に隼人が話しかけてくる。

ただ……急にそんなことを語られてもリアクションに困る。

こいつそんなこと語るようなタイプだったのか。


「今だったら、フルマラソンで世界記録も――――」


隼人の話はまだまだ続く。

初めてのテントでテンションでも上がっているのだろうか。


(寝たいんだけどな……)


健吾の思いも虚しく、隼人の話はいびきに変化するまで続いた……。


………………


…………


……


(……ってお前が先に寝るのかよ!)


一人で語って満足したら寝る。

悪い奴じゃないんだが、この世界に慣れたことで気持ちに余裕が出てきたのだろうか。

元々クラスでも仲が良かったわけではないし、本来けっこうなお調子者だったのかもしれない。


(城に残った奴らは、今頃どうしてるだろうな……)


遅れて、健吾の意識も微睡んでいった……。




「隼人くん、交代の時間だよ」


「んぁ……? あ、あぁ……もうそんな時間か」


朧気な意識の中、会話する声が耳に入った。

どうやら誠と隼人が見張りを交代する時間のようだ。


(俺は最後だから……まだ寝てられる……)


異世界に来ても、二度寝の幸福感というのは変わらない。

特に程良い疲労感がある時は――――


(……!)


微かに開いてしまった瞳に映った光景に、健吾は一瞬で意識が覚醒した。


(女子がテントを間違えてこちらに……ってわけじゃないよな)


よくよく見ればそれは誠だ。

間違いなく誠なんだ。


(大丈夫、隣で寝てるのは同じ男。そして俺はノーマル……のはず!)


今までだって宿では同室だったんだ。

今更変に意識する必要はない。

その証拠に、俺は隣の小さな寝息なんて一切気にせずに眠ることが――――


――――――


――――


――


「健吾くん眠そうだね。あまり眠れなかったの?」


――眠れませんでした!


「いや、まぁ……恵はぐっすり眠れたのか?」


「私どこでも寝付けるタイプだから。元の世界でもパソコンの前でよく寝落ちしてたし」


最後の火の番は、健吾と恵が担当だった。

結局あの後眠れなかった健吾は眠そうにしている。


「それで? 眠れなかったのには何か原因が……?」


恵は期待の眼差しを向けていた。


「べ、別に……テントで寝るのに慣れてないだけだよ」


「ちっ」


舌打ちされた……?





十日間続いた馬車の旅も、終わってみれば短く感じた。

結局最初に出くわしたオーク以上の魔物が現れなかったのも大きいだろう。


「ほら、あの湖の中心にあるのが水の都ジュネーバだよ」


湖には大きな橋が掛けられ、その先には高い外壁に覆われた都市が見えた。

召喚された城のあった王都より、こちらのほうがさらに大きく立派な気がする。


「いやー無事に辿り着けて良かった。隣国との雰囲気も怪しいし、商売するならこういう守りの堅い都市に移るのが一番だよ」


「雰囲気が怪しい……?」


隣国ってのは多分、俺たちを召喚した国のことだろう。


「あぁ、まぁ噂だけどね」


御者は門番に通行証らしきものを見せる。


「よし、通っていいぞ」


門をくぐると、そこはたしかに水の都と呼ぶに相応しい造りをしていた。

ただ、水の流れていない水路らしきものも見かける。

それに、都市の中心に近づくほど、修繕中らしき建物が目立つ。


「守りの堅い都市……?」


「そのはずなんだけど……」


御者も事情はよくわかっていないらしい。


「健吾くん、あれ見て」


「ん? あれは……」


誠が馬車から身を乗り出して指差した場所には、警備と思われる兵士が立っていた。

おそらく立哨だと思うが……妙にボロボロというか、くたびれているような?


「でも……強いな」


「マジかよ、健吾そういうのわかんの?」


「隼人はわかんないのか?」


「俺にはわからん。でもあの兵士、足は速いと思うぜ」


これもこの世界で得た職業によるものだろうか。


「なんか眠そうにしてるな……あ、見てみろよ健吾、交代に来たっぽい人に怒られてるぜ」


「特別立場が上なわけじゃないのか……」


ただの一兵卒であの強さ……軍事力は高いようだ。

でも何であそこまでボロボロなんだろうか。



「よし、この辺までくれば落ち着いてるな。ここまで助かったよ、ありがとう」


証書にサインをもらい、護衛の仕事はこれで終わりになる。

この都市で商売を始めるようだし、また会うこともあるだろう。


「水気が多くて花火職人には辛い所かも」


「じゃあ物資の補充手伝ってくれよ。俺だけじゃ必要な物よくわかんねぇし」


「弓を新調……はちょっと予算的に厳しいから、私は矢を補充に行こうかな」


陽子と隼人は物資補充に、若菜は武具店に用があるとのこと。


「じゃあ僕が宿を確保しておくよ。みんな夕方までには都市の中心部に集合でいいかな」


「なら私もついて行くよ。誠くんにも少し用があるし」


「え、僕に……?」


「まぁまぁそんな構えずに。介入はご法度だから、ちょーっと手心を加えるだけだよ」


「……?」


恵は不敵な笑みを浮かべ、誠と共に宿の確保へと向かった。

相変らず何を考えているのかよくわからん。


「さて……俺はどうするかな」


近くにある都市内の案内板らしき物を眺める。

今いる場所は中心部から少し外れた所だ。

夕方までに大体この辺に戻ってくればいいわけか。


(……広いな)


変な所へ行くと戻って来れる保証がない。

行くなら分かりやすい場所がいいだろう。


「修練場……そういうのもあるのか」


そういえば立哨していた兵士、ただの警備なのに強そうに思えた。

冒険者が中に入れてもらえるかはわからないが、少し興味がある。

一体どんな鍛錬をしているのだろうか……。

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