036 冒険する6人。
健吾たち一行は、馬車に乗って移動中だった。
ただ予定と違うのは、客としてではなく護衛として、という辺りだろうか。
「金に余裕はあったんじゃなかったのか誠?」
「言わないでよ健吾くん……」
理由としては、予定より遠い地を目指すことになり、軍資金が心許なくなったのが原因だった。
本来なら近場の街でも目指せば良かったのだが、今向かっているのは三大都市の一つである。
「やっぱりあの像って、魔法少女ルージュだよな」
「だろうね。兵士の人の目撃証言でも名前が出てたし」
聞けば竜を一撃で屠ったとか……その話が本当なら、今この異世界においてこれほど頼もしい味方はいないはずだ。
できることなら合流したい。
「でも二人組って話じゃなかったか?」
馬車には乗らずに走っていた隼人が話に混ざる。
本人曰く、走っていたほうが感覚が鋭くなって、魔物の存在を察知しやすいらしい。
「同じタイミングで城から姿を消したのは……桜田か」
「可能性は一番高いだろうね」
健吾はそれほど華蓮と親しかったわけではない。
こういうのは女子の方がよく知っているだろう。
「桜田と親しかったのって……」
健吾は女子3人に視線を向けた。
「話したことはあるけど、普通にクラスメイトとして……ぐらいかなぁ」
一番期待していた若菜でさえ、それほど親しかったわけじゃないようだ。
そうなると、実家の手伝いで放課後すぐに帰宅する陽子も似たようなものか。
「数えるほどしか話したことないね」
俺も陽子と同じようなものだ。
こちらから話しかけたこともない。
この分だと恵は絶望的か。
「陽の者とは住む世界が違うんです」
「陽て……」
言わんとすることはわかるけど。
「まぁこのメンツの中に仲良かったやつはいないか」
いるとしたら、城に残っているクラスメイトの中にいるか。
例えば……えーっと……誰だっけ。
勇人は分け隔てなく誰とでも話すタイプだし……。
「……そもそも桜田って誰と仲良かったんだっけ?」
なんとなく、いつもクラスの中心付近にはいた気がする。
でも特別仲の良い人物に心当たりがない。
似たような派手なタイプも他にはいないし。
「誰も心当たりはなし……か。他のクラスとかか?」
「んー、でも大体教室にはいた気がする」
若菜にそう言われると、たしかにそんな気がする。
クラスでも目立つタイプなのに、誰もよくは知らないわけか……。
「む、複数の魔物の気配……囲まれてるぞ!」
走っていた隼人が声を荒げると、御者が馬車を止めた。
「街道を通るならもう少し安全だと思ったのに……」
なお、護衛は健吾たちのパーティしかいない。
おそらく費用を浮かせたかったのだろう。
「若菜さん、正確な位置はわかる?」
「ちょっと待ってね誠くん……うん、背後にはいない。左右の森と、正面からだよ」
それを聞いた誠が陽子に目配せすると、森の中に花火が飛ぶ。
「火事になっちゃうといけないから、火力控え目だよー」
控え目と言う割に派手な花火が飛び散ると、左右の森から図体の大きい魔物が数匹姿を現した。
――が、動きが遅いのでその都度若菜の弓矢が眉間を貫いていく。
「この分だと本隊は正面かな。健吾くん!」
「こっちは俺一人で十分だ」
正面から、豚鼻の魔物が雄叫びを上げながら走り寄ってくる。
(オークが6匹……問題ない)
鞘から剣を抜くと、間合いに入るギリギリまで引き付ける。
20m……15……ここ――ッ!
ほとんどの者には、健吾の姿が消えたように錯覚したことだろう。
数が6匹のオークに対して、横薙ぎの一閃が静かに空間をなぞる。
次に聞こえてきたのは、剣を鞘に納める音だった。
「……ふぅ、こんなもんかな」
健吾が振り返ると、オークの体が力なく二等分に崩れた。
仲間は誰も驚きはしない。
彼はすでに剣豪として恥じない力を得ていた。
ただ、御者にとっては意外な結果だった。
「え、あれ……? キミたちDランクなんだよね?」
護衛として雇っておきながら、仕事をしたら疑われるとは思わなんだ。
「間違いなくDランクですよ。それも昇格したばかりの」
「そ、そうなんだ……護衛代ケチったけど結果オーライだったな」
御者に多分悪気はないんだろうけど、費用ケチった結果が自分たちだったことは聞きたくなかったな。
こっちとしても、馬車に乗せてもらえるし悪くない条件ではあったけど。
「おーい誠、オークの死体どうする? 俺の能力でも2体が限度だぜ」
「食材にもなるし、収納しちゃっていいよ。残りは仕方ないから諦めよう」
「あいよー」
隼人がオークに触れると、音もなく死体が消える。
これは隼人の飛脚としての能力だ。
サイズや重量的な制限はあるものの、手ぶらで馬車一台分ぐらいの荷物を持ち運べる。
旅をする上で非常に便利だった。
「見たことない魔法まで……これは専属契約も視野に入れないと……」
御者は商人の顔になった。
悪いけど、そこまで長い付き合いにするつもりはない。
「よし、今日はこの辺で野営しよう」
日が暮れるよりも早く、少し開けた場所で馬車は停止した。
御者は馬車で寝泊まりするので、それを挟むように男女で別れてテントを張る。
「焚火は私に任せてねー」
陽子は手から火花を散らし、ナイフで細かく刻んだクズ薪に火をつけた。
攻撃手段としては弱々しい能力だが、花火がメインの彼女にとっては十分な火力だ。
「んげっ、車輪がけっこう痛んでるな。途中で交換できるような街あったかなぁ……」
御者がまだ明るい内に馬車の点検をしていると、予定が変わりそうな事案が発生した。
護衛代をケチるぐらいだし、馬車のメンテナンスを怠っていても不思議ではない。
「ちょっと見せてもらっていいですか?」
恵は車輪に触れ、痛んでいる部分を指でなぞる。
すると、瞬く間に車輪は新品のように変化した。
「うん、修繕完了です」
「いや、これもう修繕っていうか……」
御者の人の言いたいことはわかる。
何気に恵の能力が一番すごい。
治すと直す、どちらも修繕の一言で済ませるには納得のいかない能力だ。
ただ、当然限度はあるので万能というではない。
「なんか……キミたちすごいパーティだね。リーダーの彼もあっという間にオークをまとめて倒しちゃうし」
「リーダー……? あぁ、健吾くんはリーダーじゃないですよ。その隣にいるのがパーティリーダーです」
「隣? あの女の子が……ちょっと意外だ」
「ま、まぁ色々と誤解されがちですね。色々と」
恵と御者の会話が聞こえてくるので、誠と少し気まずい感じになった。
「やっぱり健吾くんがリーダーをしたほうが良い気がするよ」
「俺より司令塔の誠が適任、ってみんなで決めただろ」
実際ここまでこれたのは誠のおかげと言っていいだろう。
全会一致だったし、本人も快く引き受けたものだと思っていた。
「俺としては、性別誤解されるのをもっと気にするかと思ったけど」
「あー……そっちは慣れてるからね」
慣れてる……だと?
俺の聞き間違いか?
たしかに髪は長いし華奢だけど、少なくとも俺は女と勘違いしたことはないぞ。
「あ、といっても小学生の頃の話だけどね。中学から制服になって、間違われることはなくなったよ」
「そ、そういうことか」
……つまり、小学生の頃は誤解されるような服装だったともとれる。
小学校は別だったし、どんな感じだったんだろうな……。
(――って、何で俺はそんなこと気にしてんだ!?)
女の子みたいでかわいいね、みたいな小学生なんてそんな珍しくもないだろ。
それこそ低学年だったら…………じゃあ高学年でも似合ってたら?
(――って、だからそうじゃないだろッ!)
「ど、どうしたの健吾くん。そんな頭抱えて……」
異世界に来て、明らかに雑念が増えた気がする。
それも不本意な雑念だ……。
そんな健吾を見て、恵は一人ほくそ笑んでいた。
「…………ふひっ」




