035 教える魔法少女。
――翌朝、約束の時間は昨日と同じ時間だが、あえて私は早く出た。
歩きながら、修業の内容を考えたかったのだ。
(基礎的なことなんて2週間でどうにかなるものじゃないし……。かといって流派なんてないしなぁ)
そもそも私自身、修行なんてしたことがない。
……うん、大事なのは心だよ。
昨日と同じ場所に着くと、すでに向こうは待機していた。
「師匠、お待ちしておりました」
「あっ、うん……早いんだね。ところで……」
隣にもう一人、カップルの男側まで来ている。
修行に同伴か……見せつけてくれるわ。
「お前……師ができたっていうから様子を見に来てみれば、あの時の嬢ちゃんじゃねぇか。無事だったんだな。つか、やっぱあの後の変な格好の子と同一人物だったか」
またしても秒でバレた。
もっとガッツリ変装した方がいいのかな……。
「しっかし、改めて見ても強そうには見えないんだけどなぁ……」
「おいガロード、失礼だぞ」
「だってよぉ、間近で見たらただのチンチクリンなガキだぜ?」
「だがお前も見たはずだろう。あの圧倒的な強さを」
「ってもなぁ……」
自分の前で自分の話をされるのって、どうしてこんなに居心地悪いんだろう。
「……わかった。師匠、良ければ修行の前に少し手合せをお願いしてもいいだろうか」
「私は別にいいけど」
断るとお互いモヤッとして良いことないよね。
つまり、選択肢があるようでないのだ。
「そうと決まれば、修練場だな」
ニッとガロードは笑みを浮かべた。
昨日の一件があったにも関わらず、修練場にはけっこうな数の兵士がいた。
「なんだなんだ?」
「ヴァネッサ隊長とガロード隊長が修練場に?」
「なんか手合せとか聞こえたぞ……あの小さいのと」
それなりに人がいるように見えるが、これでも空いているらしい。
「ほれ」
ガロードは無造作に木剣を投げた。
「なにこれ」
「修練用の木剣だよ。斬れはしないが、当たれば痛いぜ」
使えということらしい。
……持ち手がちょっと臭う。
「ばっちぃからいらない」
「おいおい……まぁそっちがいいなら構わねぇが、ヴァネッサが教えを乞うぐらいだ、最初から全力で行かせてもらうぜ」
ガロードは木剣を2本構えた。
二刀流……ちょっとかっこいいじゃん。
私も今度ステッキ二刀流とかやってみようかな。
「はぁ……じゃあ私が開始の合図を――」
「えーっと、ヴァネッサだっけ? あなたも構えなよ」
一人ずつは効率悪いと思ったのだけど、周りはざわついた。
「隊長二人を相手に……」
「あの子が何者が知らんけど、さすがに無茶がすぎるだろ」
「ヴァネッサ隊長怒るんじゃねーの?」
しかし、ヴァネッサは静かに木剣を手に取った。
「あの化物との戦いを再現しようってのか?」
「気を抜くなよガロード。これはきっと試されているのだ」
開始の合図を告げる者がいなくなり、修練場が徐々に静寂に支配されていく。
戦いが始まったのは、早く来ればいいのに……と紅葉が痺れを切らし、前に一歩踏み出した時だった。
「――シッ!」
ガロードは瞬時に紅葉の背後に回り、双剣で斜め十字に斬りつける。
「ほっ」
紅葉は振り返ることもなく、最低限の高さに跳んで回避した。
――そこに神速の一撃が迫る。
「獲ったッ!」
ヴァネッサの突きは、空中で身動きの取れない紅葉を捉える――――はずだった。
木剣が触れるよりも速く、くるりと紅葉は空中で身を捻って躱す。
「――んなッ!?」
「マジかよ」
これは二人の王道といえる戦法だった。
バウアー相手では威力的に通用しなかっただろうが、おそらく攻撃を当てるだけなら問題ない連携のはず。
まさか躱されるとは思っていなかった。
「防がれる覚悟はしていたが、まさか躱されるとは……」
「あぁ、これは俺も弟子入り志願しねぇとな」
納得する二人に対して、紅葉焦りを覚え始める。
(……教えること何もなくない?)
回避はけっこうギリギリだった。
思った以上に二人の戦闘力が高い。
(いっそのこと、魔法少女になりたい、って言われた方が楽だったな)
基礎体力なんて教えるようなものじゃないし、剣術はむしろ私が教えて欲しいぐらいだ。
(そもそも修行ってどんなことすんの)
紅葉は頭をフル回転させて考えた。
しかし、出てくるのは漫画の知識ばかりだった。
それも断片的でしかない。
(……修行編って、私飛ばしがちなんだよね)
しかも修行するのは自分じゃなく、昨日今日出会ったような人たちだ。
せめて内容は派手にしたいところ。
「んで、どんな修行内容なんだ?」
「うーん……どうしようかな」
あれやこれやと案を考えていると、先程から見ていた他の兵士も興味を持ち始めた。
「あの子の動き見えたか?」
「見るだけなら……多分」
「隊長二人はあの一瞬で納得したようだけど……」
「修行がどうとか聞こえたぞ」
「俺も試しに志願してみようかな」
この分だと、修練場にいる兵士全員の面倒を見ることになりそうだ。
どうせあと2週間もすれば旅立つ身、この際正体を隠すとかは気にしなくていいだろう。
その上で修行っぽい内容か……。
紅葉は三つの選択肢が思い浮かんだ。
一つ目は、無難な修行内容。
ただ内容的には一番面白味に欠ける。
これは却下だ。
二つ目は、よくある意味深な修行内容。
やっている本人たちは、後から成果を実感するタイプだ。
でも失敗すると何の成果もなく、ただただ虚しい時間を過ごすことになる。
というかその可能性が高いので却下しよう。
三つ目は、実戦形式の修行内容。
修行というよりは、習うより慣れろということだ。
結局これが無難か。
いろんなタイプのかっこいい剣術を見れるかもしれないという期待もある。
「……よし、じゃあ誰でも好きなタイミングで仕掛けてきていいよ」
変装する必要もないので、紅葉は伊達眼鏡をはずす。
そして、いつでもかかってこいと手招きした。
「これは警備隊の意地がかかってるかもしれないな……」
修行内容を察したヴァネッサを台頭に、兵士たちは木剣を構え始めるのだった……。
◇ ◇ ◇ ◇
「ここがモラトリア公国か……」
健吾たち一行は、ようやくDランク冒険者となって国境を越えることができた。
皆装備も一新され、どこからどう見ても若手冒険者にしか見えないだろう。
「んじゃ、これからどうする? 他の街を目指すにもこの国の情報ってあんまりないよな。俺が街中ひとっ走りしてくるか?」
隼人は準備運動し始めるが、誠はそれを止める。
「止めといたほうがいいかもね」
皆の視線が誠に集まる。
ただ、健吾は少し直視するのが辛かった。
(……やっぱ似合ってるよなぁ)
今の誠は、あきらかに女性物の服を着ている。
サイズの合う装備がそれしかったので仕方がない。
そう……仕方のないことなんだ。
「なんでだ誠」
「多分……監視されてる」
全員に緊張が走る。
まさか異世界から召喚された人間だと気づかれたのか?
「大丈夫、僕らだけってわけじゃなさそうだから」
「もしかして、国境を越えたら漏れなく監視されるのか?」
「確証はないけどね」
言われてみると視線を感じる。
ボロが出る前に街を出た方がいいか。
「あまり長居はしたくないな」
「そうだね。必要最低限の情報を得たら乗合馬車でも使おうか。今なら金銭的にも余裕があるし」
誠の案に、皆頷いた。
逃げるように国境を越えた6人だったが、ここからが本当の冒険の始まり……なのかもしれない。




