034 悪魔VS手品師。
たとえ相手がただの少女に見えても、確実に一撃で仕留めるつもりで仕掛けたはずだった。
しかし――――悪魔の攻撃は虚しくも空を切る。
「残像……ではないな。幻術の類か?」
「残念、光の屈折を使った手品だよ」
少女は先程と同じ姿勢のまま、別の位置に立っていた。
それほど強い魔力は感じないというのに、どうにも不気味なものを感じる。
「さすがは俺の策を見破っただけのことはあるということか」
「それは勝手に自白してたじゃん」
「……誘導されたのだ」
「マジかー、あーし超有能だね」
少女にはどこか緊張感がなかった。
単純な魔力量だけでも大きな差があるというのに、まるで悪魔に対しての恐怖心がない。
(こちらが試されているような気分だ)
悪魔は攻め方を変えることにした。
「魔王様に次ぐ魔力量に慄くがいい」
膨大な魔力による力業……どこぞの筋肉馬鹿のようであまり好きではない。
しかし、シンプルであるが故に強力だった。
属性も何もない、ただただ魔力をぶつける魔力砲――――
「あっ、ごめん。足元に気を付けてね」
「は?」
悪魔の足元から、膨大な魔力が放たれる。
「これは……俺の魔力だと?」
正面に放ったはずの、自身の魔力砲は悪魔の身を貫いた。
「ぐっ……まさか、悪魔である俺が……ちくしょぉぉぉッ!」
悪魔は悲痛な叫びをあげる。
華蓮はそれを冷めた瞳で見ていた。
「いや、それ効いてないっしょ?」
「なんちゃっ……おい、そこはちゃんとぬか喜びしてくれないと困るぞ」
悪魔は魔力の扱いに長けている。
元々それが自身の魔力だった故に、ダメージを受けることはなかった。
(しかし、なんだったのだ今のは……)
足元を確認するも、何かの術式が施された痕跡はない。
「できればさー、おとなしく手を引いてほしいんだよね。気兼ねなく旅を続けたいし、平和的解決ってやつ?」
「ふむ……悪魔に要求を飲ませたいなら、それ相応の対価を用意するのだな」
どうせそんなものは用意できないだろうと、悪魔はゆっくりと歩みを進め華蓮との距離を詰めていく。
「んー、これじゃダメ?」
華蓮は何もない空間から小さな魔石を一つ取り出した。
「はぁ……困った小娘だ。その程度でこの俺が――――」
悪魔の表情は凍り付く。
その魔石からは、ひどく懐かしい気配を感じた。
「な、なぜそれを……」
「その反応だと当たりかー、あの国には困ったもんだね。でもごめん、そうなるとこれは渡せないわ」
魔石は再び何もない空間へと姿を消す。
同時に悪魔から目に見えるほどの魔力が溢れ始めた。
「それを……こちらによこせッ!」
予備動作もなく、一瞬で悪魔は華蓮との距離を詰める。
その表情はあまりにも必死だった。
しかし、先程同様華蓮はまた離れた地点に姿を現す。
「あーしも半信半疑だったんだけどさー、今ので確信したっていうかー」
「それは人間如きが持っていていいものではない!」
なおも悪魔は追撃する。
だが華蓮を捉えるには至らない。
それはもはや光の屈折で説明できるような光景ではなかった。
「もういい、これならばどうだ!」
業を煮やした悪魔は両手を左右に大きく広げた。
「あっ、それはちょっとまずくね?」
「全て消し去ってくれる! アルティメット・ヘル・フレア――ッ!」
悪魔を中心に、全方位に地獄の業火が広がる。
逃げ場などなく、生きとし生ける者全てを焼き尽くす炎だった。
「ふぅ……少し大人げなかったか」
炎が収まっていくと、少女の姿はどこにもなかった。
それもそのはずだ。
この炎は骨すら焼き尽くすのだから……。
「それにしても、なぜあのような少女が魔王様の核を……」
謎ではあるが、今はこの出会いに感謝しよう。
もはや水の都などどうでもいい。
核を持ち帰ることが最優先だ。
「しまった……核はどこだ」
必殺技を放ったとはいえ、魔王様の核はこの程度では傷一つつかないはず。
少女の遺体は残らずとも、核はどこかに転がって……
「ここにあるけど?」
「なんだ、そんなところに……」
振り返った悪魔は言葉を失った。
そこには、焼き尽くしたはずの少女の姿があった。
「いやーすごい攻撃だったね。あーしもちょっとズルしちゃった」
華蓮は傷一つ負っていない。
それどころか、今はどこか異質な魔力を感じる。
「なぜ……生きている」
「んー、まぁ奥の手みたいな感じ? 使わずに済めばそのほうが良かったんだけどねぇ」
オリビアから聞いた話では、この少女の情報はほとんどなかった。
そもそも警戒する必要がなかったからなのだろうが、今はわかる。
――――この少女は危険だ。
「……わかった。この場は引くとしよう」
「お、わかってくれたんだ」
「あぁ……だが、それに関しては諦めるわけにもいかん。いずれまた相まみえることになるだろう」
そう言い残し、悪魔は姿を消した。
「んじゃ、あーしも帰ろうかな」
華蓮は踵を返し、ジュネーバに戻ろうとした――――その時だった。
「――などと言うわけがなかろう!」
姿を消したはずの悪魔は、完全に華蓮の不意を突いた。
凡そ人が反応できない速度で、背後から最速の一撃を放つ。
「ま、だろうと思ってたけどねー」
「ひょ……?」
悪魔は華蓮を目前にして躓いた。
膝から下の感覚がない。
恐る恐る視線を向けると、綺麗に切断されていた。
「いつの間に……」
少女からの攻撃など、一度たりともなかったはずだ。
「ま、見えないようにやるのが手品だからねー」
「くっ……だとしても、これぐらいならすぐに再生して……」
しかし、悪魔の足は再生する兆しを見せなかった。
「無駄だよ。そうならないように切断したんだから」
「なんだと……? それではまるで――――
悪魔の言葉を遮るように、華蓮の放ったトランプはその身を切り刻む。
一瞬の出来事に、もはや断末魔すら許されていなかった。
「ふぅ、これ使うと疲れるんよねぇ」
目的を達した華蓮は、一人来た道を戻って行く……。
◇ ◇ ◇ ◇
「……で、正体がバレたどころか弟子ができたってどういうことかな?」
帰宅早々、紅葉の話を聞いたグリ公は呆れていた。
「私も不本意なんだよ? でもこれも人助けみたいなものでしょ」
「どうするのさ、出発までもうそんなに日数はないのに」
「滞在期間を延ばせばいいだけじゃん」
「くっ、やっぱり早く出発するべきだったんだ」
二人の言い合いは平行線である。
「華蓮はどう思う? 私としてはやっぱり二週間はほしいとこだけど」
「長すぎるよね? ボクは今からでも無視して出発を急ぐべきだと思うんだ」
二人の問いに、華蓮はベッドに寝っ転がったまま答える。
「んー、あーしもちょっと疲れたからノンビリしたいなー」
「これが多数決の力だ!」
「なんてこった……」
グリ公はガクリと項垂れた。
「疲れたって、華蓮は今日なにしてたん?」
華蓮がここまでベッドでダラダラしてるのも珍しい。
そんなに盗品の処理が面倒だったのだろうか。
「ちょっと面倒な後処理をねー」
やはり盗品の問題か。
私は知りません、おまわりさんこいつです。




