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033 弟子ができた魔法少女。

復興が進むジュネーバだったが、水路は資材の運搬作業優先でとても観光に使える状態ではなかった。

仕方がないので、歩いて街並を見て回っている。

しかも一人でだ。

これには理由がある。


『ごめんねー、あーしは今の内に荷物整理しとくよ。王国からパクッた物もあるから処分に困っててさー』


華蓮からは犯罪臭がしたので宿に置いてきた。

私は知らない聞いてない。

だからもらったお小遣いの金貨10枚は、気兼ねなく使わせてもらう。


『ボクは森の方を見て回るよ。昨日の残党がいるかもしれないしね』


グリ公はグリ公っぽいことをしている。

そっちが森を見て回るなら、こちらは都市内を……つまり適材適所なのだ。



(おっ、あの時計塔なんか丁度いいな)


スッと跳んで時計塔の屋根に登った。

ここからなら街並が良く見渡せる。


「んー、中心部以外も修繕中のとこあるんだね」


被害はそれほど大きくないようだが、石積みとなると復旧作業も大変だろう。

もうちょっとだけ近くで見てみてもいいな。


(どれどれ……なんか見覚えがあるような気が……?)


初めて来たはずなのに……これがデジャブか。


「なぁ、何でここまで被害が出てんだ?」

「何でも人が飛んできたらしいぜ」

「魔物の仕業じゃなくて?」

「俺は女の子だったって聞いたけどな」


作業員たちの会話が耳に入ると、記憶がはっきりと蘇ってきた。


(……うん、既視感じゃなくて既視だったよ)


でも私は悪くない。

悪いのは私を吹っ飛ばしたパワーのおっちゃんだ。


「女の子って……んなわけねぇだろ」

「いやいや、それが本当らしいんだよ。何でも昨晩、死んだその子の霊が――」

「やめろよ。それが本当なら、その辺にその子の遺体があるかもしれねぇだろ」


……こうやって心霊スポットは誕生するのだろうか。

今まさに五体満足でうろついているのは黙っておこう。



次は、吹っ飛んだ軌跡をなぞるように中心部へと向かった。

この辺りはさすがに復旧作業もかなりの日数を要するだろう。


「ま、当然立ち入り禁止だよね」


至る所にロープが張ってあり、警備兵らしき人が立っていた。

特段用があるわけでもないので、もちろんそのまま別の場所へ――


「――ん? キミはひょっとして昨日の……」


「昨日?」


聞き覚えある声につい振り返ってしまう。

そこには、昨日会ったカップルの女が立っていた。

でも問題ない。

私は今、魔法少女ルージュではないのだから――――


「昨日は助かったよ。ところで、キミの名前は魔法少女ルージュで合ってるかな?」


――――バレとる。


「ワタシ、マホウショウジョルージュ違う。吹っ飛ばされたただの少女ネ」


「なぜカタコトなんだ? というかそうか……やはり最初の子と同一人物だったのだな」


おかしい……元の世界では全然バレたことないのに。

変装パターンをもっと増やすべきだろうか。

華蓮みたいなギャルバージョンとかいいかもしれない。

スーツ姿のOLバージョンは……もう少し背が伸びたら考えよう。


否定しない紅葉に、ヴァネッサはその場で剣を抜く。


「勘違いだったらすまんッ!」


神速の刃が、紅葉の頬を切り裂いた――――かのように見えた。


「ちょっと、すまんで済んだら魔法少女はいらないよ」


「……」


ヴァネッサの剣は、寸止めするよりも速く、紅葉の指で摘ままれている。

軽く摘まんでいる程度にしか見えないのに、剣を引くことすら敵わなかった。

すると、ヴァネッサは剣を手放し、その場で膝を付いた。


「その強さ……やはり本物か。頼む、私を弟子にしてくれないか!」


「弟子……?」


紅葉は困惑した。


魔法少女の弟子……?

おそらく20代後半ぐらいだと思うが、この人は魔法少女になりたいってことかな……?

それはちょっと年齢的な問題があると思うんです。


「いやぁ、ちょっと厳しいと思うよ? 私でもギリギリなのに」


「厳しいのは覚悟の上だ」


マジかぁ、単なるコスプレなら私も止めはしないんだけどさ。

本物になりたいとなると、ちょっと痛い感じになっちゃうよ。


「痛々しいのは見てるこっちも辛いし……」


「痛みが伴うのは当然だろう」


周りの目は気にしないタイプの人か。

ある意味無敵の人だった。


「なるほど……そこまで言うなら私は止めないよ」


「おぉ、恩に着る」


この人が立派な魔法少女になった暁には他人のフリをしよう。


「でもこの場合少女じゃないしな。魔法……淑女? んーそうなるとそもそも魔法少女じゃないのか」


「その魔法少女? というのは重要なのか?」


「え?」


「ん?」


二人の間に静寂が訪れる。

なんかちょっと認識のズレが発生している気がした。


「魔法少女になりたいんだよね?」


「私は少女なんて歳じゃないぞ」


なんだ、自覚はあったんだ。


「魔法少女になりたいわけじゃないけど、弟子になりたいと?」


「最初からそう言っている」


そうだったのか……この人が魔法少女になった痛々しい姿まで想像したのに。

しかし純粋な弟子か……。

これといって教えられることなんてなさそうだけど。

でも弟子か……そして私は師匠……。


紅葉はまんざらでもなかった。


「……私の教えは厳しいよ?」


「覚悟はできている」


ついそれっぽいことを言ってみたものの、私も何かの格闘技を習ったりしているわけじゃない。

……総合格闘技は好きでよく見てるけど。


「そう……じゃあまた明日、同じ時間にここにいらっしゃい」


「……! あぁ、いや……はい、師匠!」


紅葉の中で、それはとても甘美な響きだった。


(師匠……ししょう……ししょー…………へへっ)


紅葉は、3日後に出発ということをすっかり忘れているのだった。



◇   ◇   ◇   ◇



華蓮は一人、バウアーの部下が掘った地下空洞を歩いていた。

今は魔物一匹すら残っていないこともあり、一人分の足音のみが響き渡っている。


「どう考えても、策を弄するタイプじゃないよねー」


穴を掘って都市の地下から侵入、そして魔石の奪取……あまりにもシンプルな作戦だが、そこに華蓮は違和感を感じていた。


都市と中心部を繋ぐ地下空洞の中腹辺りで足を止める。

この辺りだけ灯りがある上に、広い空間が広がっていた。


「……こういうのあーしのキャラじゃないし、すんなり出て来てくれると嬉しいんだけど?」


独り言ともとれる言葉に応えるように、黒い人型の何かが姿を現した。


「ほう、この俺に気づくとは……貴様何者だ?」


言葉を発した存在は、まるで影をそのまま立体化したような真っ黒な肉体に、針のような尾をつけていた。


「んー、ここで自己紹介することに意味ってあるかな?」


「ふむ、意味はないな。だが俺は名乗る!」


「えっ……」


「俺は魔王軍四天王が一人、悪魔のアスモデウス・サタン・バフォメット・ベリアルだ!」


そう名乗った悪魔は、どこか満足そうだった。


「……長くね?」


「ふん、矮小な人間にこの名前の崇高さは理解できんだろう」


「欲張りすぎなのはわかるよ」


「言っている意味が……そうか、くくくっ、恐怖のあまり混乱しているようだな」


悪魔はさらに上機嫌になった。


「まぁ怖いだろうな。何せあの筋肉馬鹿に知恵を授け、当て馬として使う……しかしその裏では、狡猾な俺の準備が着々と進んでいたのだからな!」


「そーなんだ?」


「あぁそうとも、気づいた時にはもう遅い。その頃には、俺の完璧な謀略が全てを飲み込む時だ」


「ただ広い空間があるだけに見えるけど、準備終わってるの?」


「いや、まだだ」


「…………」


華蓮はどうリアクションしていいかわからなくなった。


「ちなどんな策なん?」


「水路に毒を流そうと思ってたんだがな。なぜか魔石が元に戻ってしまったので、このままでは浄化されてしまうのだ。だからちょっと今は予定変更中……」


そこまで話したところで、悪魔は冷や汗が止まらなくなった。

おそらく、ここまで話すつもりはなかったのだろう。


「……俺がなぜここまで素直に話したかわかるか?」


「うっかり口が滑ったから?」


「正解……ではない。貴様を生かして帰すつもりがないからだ!」


悪魔は一瞬で複数体の分身を作り出し、華蓮へと迫った――――

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