↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/59

026 魔法少女が生まれた日 前編。

エマとクロイドは手を縛られ、馬車の旅も今日で8日目となった。


理想的な推理ショーではなかったものの、ああいったイベントが起きないと本当に退屈だ。

二人目の犯人を推理した私は多少ちやほやされたが、それも3日も経てば飽きてくる。

時折現れる魔物の相手も、冒険者の仕事なので邪魔するわけにもいかない。


あれ以降何事もないまま、今日も今日とてテントの中で晩御飯を食べていた。


「今日の晩御飯もカレーか……」


華蓮の作るカレーは美味い。

あんな凶器のような爪で調理したとは思えない出来である。

でも連日続くと飽きちゃうよね。


「まぁあーしも飽きてるけどね。でもこればっかりはしょうがないっしょ」


ちょっと遅れてはいるみたいだけど、一応明後日には到着できる。

……ん? 明後日に着くということは、けっこう近くまで来ているわけだ。


「そうだ、ここからならもう街まで瞬間移動できるんじゃないの?」


「急にあーしらいなくなったら不自然じゃね?」


「まぁそこはほら、神隠しってことで」


「それ解決になってないよ」


違う意味でお尋ね者になってしまうか。


「暇だなー……ねぇ華蓮、何か面白い話ない?」


「あーしは特にないなー。逆にくれたんの話を聞かせてよ」


「私の話……?」


はて、何か面白い話なんてあっただろうか。

普段から目立たないように、地味に徹してるからな……。


「体育館の天井に挟まったボールを、定期的に移動させた話とか?」


「随分愉快なことしてたんだね」


学校の新しい七不思議になると思ったんだけど、皆割とすぐ忘れちゃうんだよね。


「後は男子のリコーダーをシャッフルした話とかかな」


「知らない内に悲しい濃厚接触が起きてそうだね……」


あの時は私のリコーダーがなくなってて、ムシャクシャしてついやってしまった。

まぁ……後日家の冷蔵庫の中で見つけたけど。

うっかり食べちゃった晩御飯用のちくわを、偽装しようとして入れたんだったかな。


「そういうのじゃなくて……そだ、魔法少女になったきっかけとか、その辺のエピソード的なの聞きたいなー」


「えー? そんなの別に面白い話じゃないよ?」


魔法少女になったきっかけ……それはグリ公との出会いの物語でもある。


「たしか胡散臭い使い魔に騙されて……」


「それボクのことじゃないよね?」


グリ公はジトッとした目でこちらを睨んでいた。


「華蓮にはホントのことを話しておきたいんだ」


「真面目な顔してボクを貶めようとしてもダメだからね」


さすがに本人の前じゃダメだったか。


「魔法少女になったきっかけ、グリ公との出会いかぁ……」


そう、あれはたしか1年ぐらい前の事だったかな――――


――――――


――――


――


一限目の授業が始まったころ、紅葉は通学路をゆっくりと歩いていた。


「寝坊って、中途半端にするより盛大にやったほうがノンビリできるんだよねぇ」


見慣れた光景のはずなのに、いつもと違う時間帯に登校すると、どこか非日常感があってワクワクする。

そんな日は、普段なら気にも留めない自販機が目に留まったりするものだ。


「優雅な朝の一杯……アリだと思います」


紅葉は少し背伸びして、ブラックコーヒーのボタンを……押さなかった。


「やっぱカフェオレだよねー」


押したのはその隣、スッキリした甘さが評判のカフェオレである。

しかしその手に取った缶はなぜか真っ黒だった。


「まごうことなきブラック……私が何したっていうのさ」


思い出しても悪い事した記憶なんて……ないこともないか。

でもこの仕打ちはあんまりだよ。


「はー……テンション下がるわぁ」


ブラックコーヒーなんて飲む気にはなれないが、捨てるのももったいない。

仕方がない……これを使って先生のお機嫌取りでもするか。

どうせ怒ってるだろうし。


そう思い紅葉は、渋々学校へと向かい始める。


その時だった――――


ズシンと大地が揺れ、先ほどの自販機がボロボロの状態で紅葉の目の前に落ちる。


「……ひょっとして呪いの自販機だった?」


この先ずっと目の前に落下してくるのかもしれない。

だとしたら貴重な体験だ。


などと呑気に観察していると、自販機は真っ黒な人型の何かに踏み潰された。


「は? なにこれ……」


「グギャァァァッ!」


黒い人型は叫び声を上げる。

その声は街中に響き渡った。




時を同じくして、一匹のフクロウが地上を眺めながら空を飛んでいた。


「んー、この辺にいそうなんだけどなぁ」


使い魔としての使命を果たすため、魔法少女に適性のある少女を探している最中だった。

怪人を倒すためには、魔法の国の力が必要なのだ。

一見平和に見えるこの街も、一体いつ怪人の脅威に脅かされるか――


「――ッ!?」


突如、野太い雄叫びがフクロウの耳に届く。


「こ、この声は……!」


怪人の存在を察知し、まるで弾丸のように声の発せられた方へ向かった。


「思ったより近い。あそこか――って、まずい! 民間人が――ッ!」


悲鳴を上げることすらできずに佇む少女。

振り下ろされる怪人の巨大な拳。



脳裏に、最悪の結末がよぎる――――



「うるさい、目の前で叫ぶな」


少女の平手打ちは、怪人の体を捻じった。


「……へ?」


そのまま膝を付いて倒れる怪人を見て、フクロウは元々丸い目をますます丸くする。

何が起こったのか理解が追いついていなかった。


「あれ? 怪人で間違いないよね……?」


フクロウは倒れた怪人に近寄って確認する。


「間違いない、怪人だ」


「フクロウが喋ってる……」


「あっ……」


振り返ると、そこには凝視している少女。

目にも止まらぬ速さで鷲掴みされるフクロウ。



紅葉の脳裏に、最高の結末がよぎる――――



「売ったらいくらになるかな」


いっそのこと自分で調教して見世物に……いや、それはめんどくさいな。

やっぱり売って即金が一番良い。

遠くの大金より目先の小金だ。


「勝手にボクを売ろうとしないでよ!」


「えー? もう百万円の使い道まで決めちゃったのに……」


「ボク百万円なんだ……」


フクロウはわかりやすく落ち込んでいた。

けっこう現実的な価格設定のはずなのに。



「ぐっ……ガァ……」


紅葉がフクロウに気を取られていると、怪人は捻じれた体を元に戻し始める。

――そして、人の言葉を発し始めた。


「ガァ、ハァ……人間の分際で舐めたマネをしてくれたな」


これには紅葉も驚き、大きく後方へ跳んで距離をとる。

一瞬で10メートルほど跳び退く姿を見て、フクロウは反応に困っていた。


「……キミ、すごい身体能力だね」


「そんなことより、アレって喋るの?」


紅葉が指差した先で、怪人の肉体は元通りになった。

それどころか、前より強固な存在感を放っている。


「フェーズ2に進化しちゃったか……ああなると、先程までとは比べ物にならないぐらい強い。早くこの場から逃げるんだ!」


「逃げろって言われてもどこに――――


――紅葉の言葉を遮るように、黒い残像が横切った。


「くっ、速すぎる……あっ、あぁ…そんな……」


フクロウはその場でへたり込む。


「ボクは守れなかったんだ……ちくしょうッ!」


その場に少女の姿はなく、学生鞄だけが取り残されていた……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。