025 推理した魔法少女。
「は……犯人はもう一人いる!」
なぜ私はそんなことを口走ったのか……。
当然皆ざわつき始める。
「犯人がもう一人……?」
「あの子の妄想だろ」
「推理ごっこをしたいお年頃か」
推理ごっこ……やめろ、その言葉は私に効く。
「まぁまぁ皆、一応話ぐらいは聞いてあげようじゃないか」
勝者の余裕なのか、クロイドは大人の対応だった。
今この場の主導権は彼にある。
おかげで私の話を聞く体制がすんなり整った。
(と、とりあえずアレで時間を稼ぐか……)
それは、唯一この場で私だけが気づいていた違和感である。
「じゃ、じゃあ説明したいから、ちょっとテントの所まで来てもらっていいかな」
私は皆に背を向け歩き始める。
その隣に、心配そうな表情をした華蓮が並んだ。
「紅たん大丈夫なん?」
「……ふふっ、ピンチが私を強くする」
追い込まれた魔法少女に待っているのは、絶対勝利というハッピーエンドなのだ。
「……ひょっとしてノープランだったり?」
「まったくないわけじゃないよ? とりあえず一つ気になる所があるから、そこにきっと突破口があるはず」
なくてもこじ開ける。
「一つって……手札一枚で勝負に出るとか紅たんかっこよー。それだけで犯人がもう一人いることもわかったんだ?」
「…………うん」
「何の間だったの?」
そっか、そこに繋げないといけないのか……。
………………
…………
……
テントの前に皆が集まると、再び視線は紅葉に集中する。
なお、すでに自白したエマは手を拘束されていた。
そして皆を代表するような形で、クロイドが私に詰め寄った。
「さ、テントの前についたよ。それじゃあ聞かせてもらおうじゃないか。犯人がもう一人いるってどういうことなんだい?」
まずはとあることを確認するため、私は無言でテントにそっと触れた。
(よし、まだ乾いてない)
乾きにくいのか、赤い塗料は指にベットリとつく。
これならわかりやすくていい。
「被害者は後頭部を殴られた拍子に、赤い塗料をテント内にぶちまけてしまった……それで合ってるよね?」
「そ、それで間違いないです……」
これにはすでに罪を認めたエマが答えた。
「じゃあもう一つ、これは冒険者の人たちに確認。この塗料って、そんなに乾きにくいものなの?」
私は指についた赤い塗料を見せた。
今度は頭に包帯を巻いた被害者が答える。
「たしかにちょっと乾きが遅いかな……でも環境によるものだから、乾いてなくてもそれほど不思議なことではないよ」
「ふーん……それじゃあさ」
私は、今さっき指で触れた部分を皆に見せる。
「塗料が2層になっているのは、なんでなのかな?」
その部分は、表面はまだ乾いてないが、その下には乾いた赤い生地が見えていた。
このテントは元々赤いわけではない。
だとしたらこれは塗料によるものだろう。
この疑問に、クロイドは笑顔で答えた。
「なんだそんなことか。塗料の量が多かったことで、乾いている部分とそうじゃない部分があるんだろう。何もおかしいことじゃないよ」
彼の答えは間違っていると、自信を持って言える。
おかげで安心した。
間違っているということは、新しい展開を生むことができる。
「華蓮はどう思う? もし塗料が多かったとしたら、どんな乾き方をすると思う?」
「え? うーんそうだなー……表面だけ乾いて、その下は乾いてない……あっ」
そこで華蓮も違和感に気づいた。
そう、単純に量の問題ならそうなってないとおかしいのだ。
「……つまり、キミは何が言いたいんだい?」
「えーっと、つまり私が言いたいのは……」
なんだか急にクロイドの察しが悪くなった。
ダメじゃないか。
ちゃんと良い感じに繋いでくれないと。
「塗料が一度乾いた後に、もう一度塗料がぶちまけられたってことだよね、紅たん」
「そ、そうそう、そういうことだよ。つまり塗料は2回ぶちまけられたってことだよ!」
私はズビシという効果音が聞こえてきそうな勢いで、クロイドに人差し指を向けた。
……これじゃあ彼を追い詰めてるみたいでおかしいな。
かといってテントを指差すのは変だし……うん、これは不可抗力だ。
「そ、それは……殴られる前に被害者がこぼしていたとかじゃないのかな」
その可能性はもちろん捨てきれない。
なので直接被害者に聞くとしよう。
「だそうだけど、どうなのワトソンさん」
「俺メルソンね」
「……どうなのメルソンさん」
「何事もなかったかのように言い直したね……」
そんな一度話しただけの人の名前なんて、一々覚えてるわけないじゃないか。
「まぁいいや。塗料に関しては、俺も今見ておかしいと思ったんだ。だってこれ原液だろ? こんなの使ったことないよ」
「原液……?」
「あぁ、通常は水で薄めて使うんだ。そうしないと乾くのも遅いんだよ」
「へぇ……」
これは面白い新情報が出てきた。
周囲の者の反応も変わる。
「塗料は2層になっていた……?」
「そしてメルソンが扱っていた塗料と、今表面にぶちまけられている塗料は別物なのか」
「じゃあその塗料は一体どこから……」
よしよし、ここでもう一度あのセリフを使わせてもらおう。
「だから言ったでしょ……犯人はもう一人いる!」
今度は誰も馬鹿にしたりはしない。
張り詰めた空気がその場を支配する――――
あぁ……最高に気持ち良い。
(さて、目的は達したけど、ここからどうしようかな)
少し情報を整理してみよう。
メルソンがエマに殴られた拍子にぶちまけた塗料は、水で薄められた乾きやすいもの……?
そして今テントを染め上げているのは、原液で乾くのに時間がかかる。
さらにこの原液の出所は不明……まぁ二人目の犯人の物と考えていいだろう。
だとしたら、それはどのタイミングで使ったのか……何のために使ったのか……。
「……ねぇ華蓮、エマさんが落とそうとしてた塗料はどっちなのかな?」
「あ、それね。実はさっき縛るときに確認させてもらったんだけど……」
そっと華蓮は私に耳打ちした。
「……なるほど、そういうことか」
その内容に、私はピンときてしまった。
どうしよう……今日の私は超冴えてる。
「そう、犯人はもう一人いる。ではその犯人がわざわざ塗料を使ったのはなぜか……」
私は皆の注目の中を歩きながら、推理の続きを話す。
「それは……エマさんに全ての罪を被せるためよ!」
そうすることで、自分に容疑が向かないようにした人物がいる。
これにはエマも前のめりになった。
「ど、どういうことなの?」
「エマさん、あなたの靴下についていた塗料だけど……乾いた部分とそうじゃない部分の差が顕著だったそうね」
「じゃ、じゃあまさか……!?」
「えぇ、あなたが殴った時にテントにぶちまけられた塗料は原液の方……そして、すでにその時には、本来メルソンさんが扱っていた塗料はテントに付着している状態だった」
ここからわかること……それは――――
「つまり、あなたが殴った時にはすでに被害者の意識はなかった!」
…っと思う……多分。
「たしかに……それだと辻褄が合う気がする」
「背後から殴ったという話だしな」
「何かで支えておけば、起きて作業しているようにも見える……か」
「一体誰がそんなことを……」
皆ざわつき始めるが、私もまだ誰がもう一人の犯人なのかはわかっていない。
でもここまで展開させればもう大丈夫だろう。
後は賢そうな人がそれっぽく推理していくでしょ。
でも忘れちゃダメだよ。
私のおかげで真相に辿り着けたということを……!
(さてさて、がんばってねクロイドくん。キミが華麗な推理をすればするほど、私という存在は一目置かれることになるんだ)
私はソッと、探偵冒険者くんの様子を窺った。
「…………」
彼は無言だった。
これが思考を巡らせてことなら安心したのだが……。
「……すっごい汗だね」
「え? そ、そうかい? い、いやぁ熱でもあるのかなぁハハハッ」
彼はすごく挙動不審だった。
「……クロイドさん、やりましたね?」
「ち、違う! 俺はやってない!」
……なんだか推理がどうとか一気に馬鹿らしくなってしまった。
「華蓮、ちょっとこいつ縛ってくんない?」
「あいよー」
華蓮は理由も聞かずに、何もない空間からロープを取り出した
当然これにはクロイドも構え、抵抗の意志を見せるが……
「くっ、かくなる上は……ってなにぃ!?」
ロープはまるで生き物のように、クロイドの体へと巻き付いた。
やっぱ手品ってパネェ。
「えーっと、このバッグに証拠品とか入ってないかな」
私は、クロイドの腰ベルトに付いている、一際高そうな革製の小袋に目を付けた。
「あれ? 開かない……」
「ふはははっ、残念だったな。それは俺以外には開けられないように魔法が掛けてある。さらにそれはドラゴンの革製だ。強引に開けることだってできやしないさ!」
もはや残念なぐらい悪役なセリフだった。
絶対これに何か隠してるじゃん。
「もし何もなかったらごめんね」
「へっ……?」
私は強引に小袋を引き裂いた。
クロイドは目が点になっている。
そんなに驚くようなことだろうか。
人の手で作った物なのだから、人の手で壊せないはずがないのだ。
「さて、中には何が……ガラス玉? いや、宝石かな?」
「そ、それってもしかして……!?」
宝石を見たエマは驚きの声を上げた。
これは当たりかな。
「ワト……メルソンさん、これに見覚えは?」
「俺が持っていた魔道具の動力源である魔石だね。実は魔道具その物より、その魔石のほうが貴重なんだよ」
ゲーム本体より課金アイテムの方が高い、みたいな感じかな。
「じゃ、じゃあ私は、魔石の入ってない魔道具を盗まされていたのね」
皆の視線がクロイドに突き刺さる。
「……俺が、やりました……」
クロイドはガクリと脱力した。




