024 推理したかった魔法少女。
「ま、被害者の証言は鼻から期待してなかったからいいか」
もしこれが殺人事件だったなら、そもそも被害者から話を聞くこと自体ができないんだ。
死神と呼ばれる探偵はそんな状況からでも推理している……つまり被害者の証言は必要ないはず!
「紅たん次は誰に話を聞くの?」
「んー……まぁ第一発見者が無難か」
無難すぎて面白味に欠ける。
でもそろそろ私の周囲で、それっぽいヒントを口走る人物が出てくるはずだ。
なぜなら推理物によくある展開だからだ!
第一発見者の女性は、最初こそ気が動転していたものの、倒れていた男が生きていたと知り、今は落ち着きを取り戻していた。
(……いや、落ち着きすぎでしょ)
テーブルを設置して、優雅にティータイムと洒落こんでいる。
まぁ馬車が出発できないんなら仕方がないか。
「えっと、あなたが第一発見者の……オリビアさんですか?」
「第一発見者なのは間違いないけど、私はエマよ。誰よオリビアって……間違えるにしても違いすぎでしょ」
そういえば第一発見者の名前はまだ知らなかった。
はて、オリビアって名前はどこで聞いたんだったかな。
「ねぇねぇ、エマさんって冒険者だよね?」
私が思い出そうと記憶を探っていると、先に華蓮が質問を始めた。
「そうだけど……それがどうかしたの?」
「被害者のメルソンさんと面識は?」
「ないわね。一緒に仕事するのもこの護衛依頼が初めてよ」
「なるほど、つまりあまり接点はないと」
護衛には複数のパーティが参加しているので、それ自体はおかしなことではなかった。
(なんだろう……華蓮の方が聞き込みっぽいことできてる気がする)
ギャルの癖に何かがおかしい。
「どうしたの紅たん、あーしの後ろに何かあんの?」
「何かっていうか、誰かが声をあててるのかと思って」
ちゃんと意識はあるようだし、それはないか。
「……? まぁいいや。それでエマさん、今朝の様子を聞きたいんだけど」
「あなたたちもなの? 別にいいけど……」
第一発見者のエマが倒れているメルソンを発見したのは、夜間警備を担当している時のことだった。
基本的に火の番はあまりその場から動かないが、周辺を警戒する者はその限りではない。
眠気覚ましに巡回をする者もいれば、夜目が利く者は木の上のような見渡せる場所から周囲を警戒したりもする。
「私は交代したばかりで眠かったからさ、ちょっと周辺を歩いてたんだ」
冒険者の数が多く、細かく担当時間を分散してあったので、夜間警備の順番的には一番最後。
すでに周囲は明るくなり始めていた時間だ。
この時間帯を担当する者は、皆の朝食時間中も周辺を警戒していないといけない。
そんな中、エマはとあるテントの異変に気が付いた。
何か水滴の滴るような音が聞こえ、それが変わった模様のテントに見えたものだから気になってしまったのだ。
「他のパーティの仮眠用テントを覗くなんてマナー違反だけど、入口が少し開いてたからちょっとだけ覗いちゃったのよ」
日が昇り始めた時間とはいえ、まだ薄暗かったので赤い塗料と血の区別は難しかったらしい。
結果、血塗れの男が倒れているように見え悲鳴を上げてしまった。
「冒険者なんてやってるけど、血はちょっと苦手でさ。後衛職だし、未だに魔物の解体とかも苦手なのよねぇ」
後は人が集まってきて、被害者の容態を確認すると命に別状はなかった……という流れだそうだ。
「できる話ってこれぐらいだけど、満足した?」
「うん、ありがとエマさん」
華蓮は普通のことだけを聞いて終わってしまった。
(もっとこう……何気ない質問だけど、核心に迫るようなことを聞きたいよね)
そう、そしてそれは伏線として後に活かされるのだ。
「ちょっと待って、私からも一つだけいいかな?」
何気ない質問だけど、後に活かされるようなこと…………ってなんだろう。
どうしよう、間が持たない。
とりあえず何か聞いておかないと……。
「……冒険者歴、何年目っすか?」
「6年目だけど、それがどうかした?」
「いえ、ちょっと気になっただけです……」
嘘です、全然そんなこと興味ないです。
やっぱり捜査の基本は現地調査だ。
ということで、再びテントの前に戻って来た。
「勝手に中見てもいいのかな?」
「入口開いてるしいいんじゃない?」
しかし入口が開放されているので、すでに見えてしまった。
「ていうか、中何もないじゃん」
テントの中には物が何もなかった。
不自然に塗料が付着していない部分があるので、後から動かしたのだろう。
「他のパーティメンバーの私物もあったからね。今塗料を落とすのに必死なようだよ」
そう答えたのは、私と華蓮のアリバイを確認してきた冒険者だった。
「他のって、たしか……【不潔はエターナル】の?」
「そ、それはすごく嫌なパーティ名だね」
だよね、考えた人のセンスを疑う。
「まぁパーティ名はともかく、犯人の目星は大体ついたかな」
苦笑いした冒険者は、テントの塗料に触れた後こちらに指を見せた。
そこには赤い塗料がベットリとついている。
私は特にそれに対して思うことはなかったが、華蓮は違うようだった。
「まだ乾いてないんだ。それって……」
「あぁ、そういうことだね」
華蓮と冒険者は、何かに納得しているようだった。
(二人だけで納得しないでほしい……)
塗料が手についたから何だというのだろうか。
……乾いてないから気を付けてね?
たしかに服についたら大変かもなぁ。
紅葉は何気なく、冒険者が触れた部分を見ていた……。
………………
…………
……
馬車周辺に、乗客と冒険者が全員集められる。
招集をかけたのは、事件を捜査していた冒険者だった。
「皆に集まってもらったのは他でもない。【不滅のエターナル】のメルソンが襲われた件についてだ」
すんなり人が集まった辺り、この冒険者はそれなりに人望でもあるのだろうか。
「このまま犯人が誰かわからない状態だと、残りの旅路、皆落ち着かないことだろう。だからはっきりさせておく必要がある」
「まぁおちおち寝てられないよな」
「旅の安全を考えるなら、はっきりさせたほうがいいわね」
「でも目撃者はいないんだろ?」
「早く捕まえてほしいものだわ」
ざわつき始める冒険者たち。
乗客たちも不安な顔をしていた。
そして私は焦り始めた。
(こ、この場合私はどんな立ち位置なの……?)
まず乗客なので、容疑者側ではないだろう。
じゃあ一緒に推理をする側……?
でも私はまだ犯人が特定できてないし、そもそもあの冒険者と一緒にやる理由がない。
となるとありえるのは……
(何か困った場面でのお助けキャラとか?)
これしかない気がする。
じゃないと残された道はただのモブだ。
魔法少女がモブキャラなんて許されていいはずがない!
「紅たん、もうクライマックスだけどいいの?」
「え?」
私が悩んでいる間に、いつの間にか推理ショーは決定的場面へと進んでいた。
「犯人は……エマさん、あなただ!」
ズビシッと効果音でも聞こえてきそうな勢いで、冒険者の男は第一発見者の女性を指差した。
(第一発見者が犯人か……)
つまり悲鳴は演技だったわけだ。
それはちょっと面白くない。
だってトリックとか絡む要素がないじゃん。
「まーそうなるよねぇ」
華蓮もあの女性が犯人だと思っていたようだ。
しかし女性も、何やら感情的になって反論している。
さて、どんな証拠を突き付けるのやら。
「わざわざ椅子とテーブルで休んでいたのは、見えない位置で落とそうとしていたんでしょう……塗料を」
男は女の足元を指差していた。
「中を覗いただけのあなたの靴下に、塗料がついているのはおかしいですからね!」
「くっ……」
女性はどこか悔しそうな顔をしている。
(いやいや、まさかそんな簡単な内容じゃないでしょ)
まだまだ言い訳できる余地も残ってそうだし、きっとそろそろ私の出番かな。
お助けキャラは『もっと早い段階でわかってたけどね』的な雰囲気を出せるから、悪くないポジションだと思っている。
「……私が、やりました……」
エマはガクリと脱力した。
「……は?」
「やっぱりねー、あーしもそうだと思ったよ」
もはや華蓮の言葉は耳に入って来ない。
認めちゃったよ……推理ショー終わりじゃん。
(やばいよ……これはまずいってば……)
このままではモブどころか画面外の存在だ。
「悪いけど、街につくまで縛らせてもらうぞ」
「すごいなクロイド、本当に犯人を突き止めちまったよ」
「理由はメルソンの持ってた魔道具か……」
「これで一安心だわ」
すでに場の雰囲気はエンディング一直線だった。
犯人はあっさり自白。
クロイドと呼ばれた冒険者は評価が上がり、全ての謎は解決したかのように見えた。
そして私は蚊帳の外……彼らの中で、私はモブですらなく背景以下なのだ。
(駄目だこいつら…早くなんとかしないと……)
変身してないとはいえ、そんなことを許しては魔法少女の沽券に関わる……!
「ちょっと待ったッ!」
私は声を張った。
皆が私に注目する。
さぁ――――賽は投げられたぞ。
「急に大きな声出して、どうしたの紅たん」
「……まだ事件は終わってないわ」
とりあえずそれっぽいことを言ってみた。
あれ……? 冷や汗が止まらないな。
もっと他に方法はあったんじゃなかろうか。
皆に賞賛されていたクロイドが、紅葉の元へと歩み寄る。
「彼女は罪を認めているけど、事件が終わってないってどういうことだい?」
「そ、それは……」
どうしよう……笑い者にされるのは嫌だけど、こんな真面目に対応されるとは思わなかった。
でも――――引き返すべき道はいらない……というかない!
「は……犯人はもう一人いる!」
真実が二つ以上あったらいいなと、この時の私は切に願った……。




