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023 推理したい魔法少女。

長い馬車での旅路には、護衛がつきものである。

私たちも今回は護衛される側だ。

御者に雇われた冒険者たちが、普段の護衛から夜間の警備まで担っていた。


「私たちも一応冒険者なんだよね?」


「一応ね。でもあーしらは客としてお金払ってるから」


安い馬車だと護衛まで雇っていなかったりするらしい。

こんなお尻痛くなる馬車でも、一応は高級プランなのだ。


「今日はこの辺りにしておきましょう」


御者は道から少しはずれたところで馬車を止めた。

こうして野営をするのも5日目である。

予定ではさらにここから5日ほどかかる予定なので、ようやく半分といったところだ。


「ぶっちゃけ飽きたよね」


昼間はゆっくり流れる景色を眺めるだけ。

野営も最初こそ少しワクワクしたものの、特に何かが起こるわけもなく……。


「だよねー。あーしもスマホが使えたらいくらでも暇を……いや、ネットもないから無理か」


華蓮も割と飽きがきていたようだ。



「――っと、テント設置完了」


私も手慣れたものだ。

後はテントの中にグリ公を放り投げて、晩御飯を待つだけである。


「……ボクの扱い雑じゃない?」


「大人しくしてないと、冒険者に魔物扱いされちゃうよ?」


実際捕獲されたこともあるので、グリ公は基本大人しかった。

夜中起きてるのは冒険者だけだからね。

テントの中でぬいぐるみのように過ごしてもらわないと。


………………


…………


……


――翌朝、これまで何事もなかった平和で退屈な旅は終わりを告げる。


「キャアァァァァァッ!」


朝日が昇り始めた頃、女性の悲鳴で皆起こされた。


「な、何事!?」


グリ公は染みついた習慣から飛び起きるものの、魔物扱いされるのを警戒して外に出られないでいる。


「ふあぁ……朝から騒がしいよぉ……」


華蓮は眠そうにゆっくりと体を起こした。

紅葉も一瞬で意識が覚醒していたが、二度寝したい欲求のほうが勝り寝返りを打つ。


「どうせ発声練習とかだって」


「なんて雑な予想だ……」


だって朝だもの。

グリ公と違って、私は決めた時間より早く起きたくないのだ。

この気持ち、華蓮ならきっとわかってくれるはず。


「んー、なんか外が騒がしいね。あーしちょっと様子見てくるよ」


そう言い残して、華蓮はテントから出て行ってしまった。


「……」


残ったグリ公の視線が突き刺さる。

言いたいことがあるなら言えばいいのに。

これじゃあ寝たくても寝られないじゃないか。

……仕方がないので起きるとしよう。


「……ふぅ、これでしょうもない事案だったら罪深いよ」


二度寝の邪魔をするのはそれほど重い罪なのだ。



紅葉が出て行き、残されたグリ公は呟いた。


「……ボクも行きたかったなぁ」


紅葉のペット扱いで一緒に行けるかと思ったが、まさか一人で行ってしまうとは思わなかった。

目で訴えるというのは難しい……。




事件があったのは、冒険者たちのテントだった。

夜は交代で火の番と周囲の警戒を担当している彼らだったが、仮眠用のテントの一つに人が集まっている。


「一体誰がこんな……」

「魔物の仕業か?」

「その痕跡は見当たらないな」


冒険者の大半が集まっているようだ。

その中に、華蓮の姿もあった。


「何があったの?」


「あっ、くれたんも来たんだね。あーしもくわしくは知らないんだけど、冒険者の一人が襲われたっぽいよ」


「さっきの悲鳴は?」


「第一発見者だってさー」


華蓮が指差したテントには、おびただしい量の血が飛び散っていた。


(血……第一発見者の悲鳴……)


そうか……つまりこれは――――


「殺人事件!?」


これは様子を見に来て正解だった。

伊達に眼鏡をかけているわけではない。

見せてあげよう、私の推理力を――……伊達眼鏡だけど。


「いや、誰も死んでないよ」


こちらの会話が聞こえていたのか、隣にいた冒険者の一人がそう答えた。


「え? だってこの血の量はさすがに……」


こういう模様のテントだとしたら悪趣味だ。


「これは塗料だよ。派手にぶちまけちゃってるよねぇ。発見した女の人も、血だと思ってビックリしたらしいよ」


「じゃあ被害者は……?」


「さっきまで気を失っていたけど、今は馬車の方で治療を受けてるよ。本人曰く、後ろから何かで殴られたらしい」


「……なるほど」


誰かに殴られ気を失った冒険者。

そして飛び散った赤い塗料……まぁ殺人現場に見えるよね。


「ところで、一応二人にも聞いておきたいんだけど、昨晩から今朝までどこに?」


「普通にテントで寝てたけど?」


「そっか、まぁキミたち二人は大丈夫だろう。それじゃあ俺はちょっと調べたいことがあるからこれで」


そう言って、冒険者の男はその場を去って行った。


念のためアリバイを確認してきたのかな。

……あの冒険者が今一番探偵っぽいことやってる気がする。

このままじゃいけない。

私の活躍の場がなくなってしまう。


「モタモタしてたら先を越されちゃうかも……行くよ華蓮」


「どこに?」


「もちろん被害者のところにだよ」



本来乗客用である馬車では、頭に包帯を巻いた男が横になっている。

御者としては不本意だが、今の状況で出発するのも危険だと判断していた。


「冒険者の問題なんて本来こちらには関係ないんだけど、魔物の仕業ではないって話になってるし、誰が犯人かわからないまま出発するのは乗客も不安だろうからね」


ということで、遅れた分はしっかり冒険者の報酬から差し引くらしい。

この分だと、犯人は全員に恨まれることになるね。


さて、まずは被害者から事の経緯を聞くことにしよう。


「それで、被害に遭った……被害者の人は夜中テントで何してたの?」


「まず名前から聞いてくれないか?」


男は横になったまま不機嫌そうな顔をしていた。


「じゃあ興味はないけど、まずは名前からお聞きします」


「ちょっと、この子すごく失礼なんだけど」


「ごめんねー、くれたんに悪気はないから」


はぁ、とため息をついて、男は話をし始めた。


「俺の名前はメルソン。【不滅のエターナル】ってパーティで斥候をしている者だ」


名前を聞いたら余計な情報までついてきた。

パーティ名は考え直したほうが良いと思うよ。


「なるほど……それで、被害者の人は夜中テントで何してたの?」


「名乗った意味が秒で消えた?」


聞かなかったことにしてあげたんだから感謝してほしい。


「まぁまぁ、おじ……お兄さん、昨晩は何してたの?」


「……一応まだ25だからね。自信を持ってお兄さんと呼んで欲しかったよ」


華蓮の気遣いも虚しく、メルソンは少し凹んでいた。

そして、諦めたように昨晩の出来事を話し始めた。


「昨晩……というか明け方なんだけどね。その時間が俺の仮眠時間だったんだ……」



メルソンは、仮眠を取る前に自身の外套に赤い塗料を塗っていた。

あの塗料には雨を弾く性質がある。

色は単なる自分の趣味だが、冒険者としては必須ともいえる塗料だった。



「――で、塗ってる最中に後ろから殴られたんだ」


「ふむふむ……」


あの赤い塗料はそういうことだったのか。


「……それで?」


「目が覚めたらこの馬車にいたよ」


なるほどなるほど、目が覚めたら馬車にいたと……。


「直前に何か物音なんかは……?」


「眠かったから憶えてないよ」


「つまりこれ以上の情報は……?」


「ないね」


被害者への聞き込みは、あまりにもあっさりと終わってしまった……。

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