017 感謝される魔法少女。
シルバーラッシュの山は、一晩にしてただの丘になった。
しかし、朝を迎えると先日までと違って活気に溢れていた。
「みんな昨日まで死んだ魚みたいな目をしてたのに……」
今では地表に落ちたシルバーワームの破片から、忙しなく銀を採取している。
ただそれはあくまでも一時的なもの。
本命はあの抉れてしまった山のほうだろう。
「地表にあんな鉱石が露出してんの初めて見たよ」
「あの分だとまだまだ地下に眠ってそうだなー」
「くそがッ! なんでツルハシが壊れてんだよ!」
「お主らが壊したんじゃろ」
ドーザーを中心に、町に残っていた男たちは再び鉱夫として活動し始めていた。
鉱山の町シルバーラッシュは、再び息を吹き返したのだ。
「…………」
そんな光景を、冷めた目でみる魔法少女が一人……。
「爆弾を投げられ、魔物を倒し、鉱山を復活させた……全部私の功績のはず」
鉱石だけに、と言えるほど今の私に余裕はない。
なんだろうね、この何とも言えない気持ち。
いいよ? 別にいいんだよ?
でもね……何か納得いかないんだよね。
「ルージュっち変身解かないのー?」
別に謝ってほしいわけではないし、感謝してほしいわけでもないけど、何か一言ぐらいあってもいいんじゃないかな。
怪人討伐もそうなんだよね。
魔法少女が倒すのが当たり前、みたいになってて感謝が薄いっていうか……なんだかなぁって思うよ。
「聞こえてないっぽい? 目つき怖いけど大丈夫かなグリっち」
「多分だけど、全部台無しにしてやりたい気分なんだと思うよ」
「それで変身解かないのはヤバない?」
「まぁ実際にどうこうするほど落ちぶれてはいないから、放っておいて大丈夫だよ」
やっぱり感謝の気持ちっていうの? 忘れちゃダメだよね。
救いとは当たり前に存在するものじゃないんだ。
それを思い出してもらうためにも、多少の犠牲は致し方ないか。
「全部ぶっ壊してやるってばよ、ルージュ・インパク――
「ボクの信頼を秒で裏切らないでよ!」
グリ公はルージュの顔面にしがみついた。
「ちょっ、羽毛が暑苦しいってば! 冗談に決まってんじゃん!」
「いいや嘘だね! もうぶっ放す寸前だったでしょ! 引き金引いた後だったでしょ!」
「引き金引いた後ならまだセーフでしょ」
「キミのアウト判定は随分崖っぷちにありそうだね」
銃なら引き金を引いた後でも、まだ弾を止められるからセーフだと思ったんだけど……まぁたしかに私も変身してないと確実に止められる自信はないかもしれない。
「はいはい、変身解けばいいんでしょ」
「……クレハ・インパクト、とか使わないよね?」
「そんなん使えない……っていうか人を何だと思ってるのさ」
「いや、紅葉ならありえる気がして」
……一考の余地はあるな、今度こっそり練習してみよ。
でも技名まで同じような感じにするのはナンセンスだよね。
「ふむ……」
「可能性を模索しないでね」
「そ、そげんことしとらんばい!」
「急に訛るじゃん」
紅葉魔導衝撃拳とかどうでしょうかね。
「ふーん、あれが国境なんだ」
「紅たんが山を抉ってくれたおかげで、良く見えるようになったね」
国境沿いには、そこそこ大き目の街が隣接していた。
この国だと私は指名手配犯だし、次に目指すとしたらあそこだろう。
「でも国境は封鎖されてるんじゃなかった?」
「ボクが王都の城下町で調べた情報だとそうだね」
んーそうなるとちょっと面倒だな。
かといって、強引に通って隣の国でも指名手配されるのは不本意である。
「あーそれなんだけどさ、あーしの考えでは多分封鎖まではされてないと思うよ」
「グリ公の情報が間違ってる、ヨシ!」
「そんな指差し呼称は初めて見たよ」
間違いなくグリ公が間違ってると思う、理由は特にない。
「まぁ推測でしかないんだけどさ、手配書がまだこの地域まで行き届いてないのに、紅たんが脱走した翌日には国境封鎖ってちょっとおかしいと思わない?」
「そう言われるとたしかに……ボクはひょっとして、ブラフを掴まされたのかな」
グリ公はちょっと落ち込んでいた。
たまには相棒として慰めてあげるのもやぶさかではない。
「ドンマイドンマイ、ミスなんて一度や二度じゃないんだから今更でしょ」
「慰めはいらないよ……いや、慰めてないね」
ふむ、日本語は難しい。
「んじゃ、とりまこの町を離れようか。何もやり残したことはないよね?」
活気が戻りつつあるとはいえ、この町には何もない。
さっさと国境沿いまで移動したいところだ。
「さようなら……なんとかラッシュ」
「一番の特徴を忘れてるじゃないか」
あまり良い思い出もないし、さっさと次に行こう。
そう思い、二人と一匹が町に背を向けた、その時だった。
「待てそこの小娘」
振り返ると、ツルハシを杖代わりにしたドーザーさんが立っていた。
「これを持っていけ」
そう言って、一通の手紙を差し出した。
「これは……?」
「お前さんら、国境を越えるのだろう? 国境警備隊にワシの知り合いがおる。もし困ったことがあれば、それを見せるといい。多少は便宜を図ってくれるじゃろう」
そんな話をドーザーさんにした覚えはないけど……もらえるものはもらっておこう。
「困ったことになる予定はないんだけどな」
「必要ないならそれでもいい。どの道それで恩を返せたとは思っておらんからな」
それだけ言い残すと、ドーザーさんは再び銀鉱掘りへと戻って行った。
「感謝されてて良かったじゃん紅たん。でも何書いてあるんだろうね」
「……開けてみる?」
「やめときなよ。そういうの、無粋っていうんだよ」
グリ公は呆れていたが、そう言われると益々中身が気になるというもの。
「不幸の手紙とかだったらどうするのさ」
「どこからそんな発想が出てくるの……」
「もちろん実体験だよ」
子供の頃って、みんな残酷なんだよね。
ちょっとした出来心が瞬く間に広まっていくんだ。
「紅たんなら出所とか突き止めちゃいそうだね」
「さすがにそんなマッチポンプはしないよ」
でも悪気はなかったのに、みんな律儀に他の人に送ってて焦ったよ。
「出す側だったんだね……」
「紅葉キミは……いや、今更か」
呆れるのはいいけど、何かを諦めたような目で見るのはやめてほしい。
若気の至りじゃん……。
………………
…………
……
歩きで国境沿いの街を目指す道中、国境越えについて具体的な話していた。
「瞬間移動で国境の向こうに行くのはダメなの?」
旅の醍醐味はないけど楽がしたい。
「んーそれなんだけどさ、あーし的には止めといたほうが無難、みたいな考えなんだよね」
「それに関してはボクも同じ考えだね。今後のことを考えると、堂々と越えておきたいよ」
華蓮とグリ公は「だよね」とわかり合っていた。
「……?」
「紅葉にもわかるように説明すると、街の警備と国境の警備じゃさすがに違うだろうから、魔法的な手法で国境を越えるのは察知される可能性があるかもしれないんだ」
「……??」
「わかるように説明できなくてごめん」
謝られることがちょっとむかつくのって何なんだろう。
「ま、あーしの作った冒険者カードを信じろってことだよ」
「なるほどね!」
さすが華蓮、説明がわかりやすい。
「それで納得するのはちょっと納得がいかない……」
こうして二人と一匹は、国境沿いの街リリンガルへと歩みを進めた……。




