016 正攻法で戦う魔法少女。
掘削用魔力玉――――それは主に土木作業において、岩盤等を取り除くために用いられていた。
鉱山でも時折使われるが、威力が高すぎるため慎重を要する物である。
それが今、一人の少女の頭上で炸裂した――――
地響きは町だけでなく、山全体へと響き渡る。
「ちょっ、テント飛んでったんですけどー」
「それどころじゃないよ華蓮、一体何が――――」
寝ていた華蓮とグリ公は、爆音と爆風で飛び起きていた。
「ってあれ? 紅たんは……?」
「紅葉は……鉱山の方だ!」
華蓮は何もない空間からランタンを取り出すと、鉱山に向かって掲げた。
「うわー何これ、落盤?」
「いや、それにしてはさっきの衝撃は強すぎるよ」
砂煙が薄れてくると、穴というよりは爆心地のようなクレーターが広がっていた。
それと、少し離れた所で大きな岩の影から3人組が顔を覗かせている。
「すんげぇ威力……」
「つーかいきなり投げるなよ」
「あー……こりゃ跡形もないな」
3人はクレーターを眺めて青ざめる。
「さすがに殺すのはやりすぎだろ……」
「お前が投げろっていうから」
「いや、人に直接投げるとは思わねぇよ」
揉め始める3人は気づいていなかった。
上空から落下する赤い流星に……。
「ねぇグリっち、あれって……」
「うん、状況はよくわからないけど、巻き込まれたくないなら離れてたほうが良さそうだね」
流星は光を失うと同時に、クレーターの中心地に着地する。
「紅いルージュは血統書 魔法少女ルージュ 見参ッ!」
紅葉はポーズを決めながら満足気だった。
空中から落下しながらの変身……一度やってみたかったのだ。
「空から女の子が……?」
「さっきの子……とはちょっと雰囲気が違うか」
「どちらにしても変な格好だな」
……歓声がないのはいただけないな。
ま、でも閉鎖するなら正体云々は気にしなくていいか。
「悪いけどもう遠慮しないわよ。あどけない少女に爆弾を投げるなんて、神様が許しても私が許さないんだから!」
おまけに鉱山の入口も崩れてしまっている。
これではもう銀が掘れないではないか……いや、元々掘れてないのか。
「あどけない少女……?」
「そんな子いたか?」
「知らんなぁ」
あんなことをしておいて彼らはごまかせると思っているのだろうか。
さすがの私も焦ったものだ。
爆発自体は咄嗟に跳んで回避したものの、私の体は爆風でかなり上空に打ち上げられてしまった。
地上に灯りのない夜空ってちょっと怖かったよ。
「白を切ろうとしても無駄よ。どうしてこんなことをしたの」
正直理由なんて興味ないが、怪人や魔物相手と違って人間だと即殴るわけにもいかないから面倒だ。
「どうしてって、そりゃなぁ……」
「いつまでも諦めない奴がいるせいで、閉鎖が遅れてるんだよ!」
「そうだ、だから俺たちの手で終わらせてやっただけさ!」
うん、だとしたら私に向かって投げるのはおかしいでしょ。
しかも全然悪びれる様子もないし。
さて、どうやって地獄を見せてやろうか。
紅葉が3人の処遇を考えていると、ここまでの会話を聞いていた者が姿を現した。
「ふんっ、何事かと思えば、こんなことだろうと思ったわい」
「ど、ドーザー……」
「ちっ、もう様子を見に来やがったか」
「へっ、でもこれでさすがのあんたも諦めがつくだろ」
ドーザーは、崩れた鉱山の入口をチラリと見てため息をついた。
そこには持ち手のないツルハシも転がっている。
「はぁ……余計な作業を増やしおって」
そう言って入口を塞いだ岩にそっと触れた。
「ふむふむ……そうかそうか、奥の方は無事のようじゃな」
「は……?」
「まだ諦めてねぇのかよ……」
「くそっ、こうなったら直接やるしかねぇ」
一人がナイフを取り出し、ドーザーへと向けた。
それに気づいたドーザーと3人に緊張が走る。
もはや誰もルージュの存在を気にしていなかった。
「おかしい……」
私も間違いなく被害者のはず。
なのに、今この状況で蚊帳の外なんて一体どういうことだろうか。
しかしこの鉱山に、さらなる異変が発生する――――
(……ん?)
初めに違和感に気づいたのはルージュだった。
空気が、小刻みに揺れ始めている。
やがて大地が揺れ始め、他の者も異常に気付き始めた。
「な、なんだ……?」
「落盤だろ」
「いや、それにしちゃ揺れが大きい」
揺れは徐々に大きくなっていく。
そんな中、ドーザーは地面に耳を当てた。
「感じる……これじゃ、これが銀の息吹じゃ!」
違う……これは生き物だ。
ルージュは直感でそう感じ取ると、ステッキを正面に構えた。
「……来る!」
――その直後、ルージュの背後で大地が割れ、揺れの正体が姿を現した。
「……そっちか」
ルージュは何事もなかったように構え直す。
仕方ないじゃん、だって直感だもの。
「や、やべぇ、ロックワームだ!」
「しかもでけぇ……」
「さっきの爆発で刺激しちまったのか」
ロックワーム……主に岩を捕食して生きるワーム型の魔物である。
一見すると巨大なミミズだが、口を開くと顔のない蛇のような容貌をしている。
人も捕食対象ではあるが、水分が多いのであまり好みではない。
なお、元々はただのワームで、成虫になる過程で最も捕食した鉱石の影響を受ける。
「ロックワーム……違うな。あれはメタル……いや、シルバーワームじゃ!」
ドーザーは歓喜に震えていた。
シルバーワームがこの地にいるということは、まだ銀鉱が残っていることを意味していた。
「銀の息吹っていうか、魔物の息吹じゃん」
「……シルバーワームなんじゃから似たようなもんじゃろう」
そう言いつつもドーザーは目を逸らしていた。
なお当のシルバーワームは、けたたましい叫び声を上げている。
「何か怒ってない?」
「夜行性で基本的には人を襲うような魔物ではないんじゃが、食事中を邪魔されて腹が立っとるんじゃな」
二人の視線は、邪魔をしたであろう3人へと向いた。
「な、なんだよ……」
「俺らのせいだってのかよ」
「俺らは掘削用の魔力玉を、うっかり女の子に向かって投げちまっただけだぞ」
「免罪符が殺人未遂て」
まぁ直撃してもあの程度なら痛いぐらいで済んだかもしれないけど……私だからだよ?
「ところでさ、あのワームさん私の方を見てる気がするんだけど……気のせい?」
「あやつに目はないぞ。じゃが嗅覚は恐ろしく鋭い。何か銀製の物でも持っとるのか?」
はて、何か持ってたかな。
この間買った短剣はただの鉄だし、魔法のステッキに至っては素材すら不明だ。
「うーん制服も違うだろうし、後は華蓮にもらったコレかなぁ」
「なんじゃ、お主冒険者じゃったのか」
華蓮が作った偽の冒険者カードは金属製だった。
大きくBと書かれているが、もしかしてだけど、もしかするのだろうか。
「ちなみにBランクって……」
「銀製のカードじゃな」
なるほどね、っと納得したあたりで、シルバーワームは頭ごとこちらに突っ込んできた。
「うへぇ、どアップはキモィよ」
単純な動きなので躱すこと自体は造作もない。
何度突進されようが、全て華麗に回避していく。
「シルバーワームっていうだけあって、全身銀でできてんだね」
これがゴールドワームだったなら素敵な出会いになっていただろうに。
「ワーム系の魔物は総じて冷気に弱い。後は動きが鈍ったところで頭を潰すのが正攻法じゃ」
「頭……」
口しかないように見えるが、おそらくあそこが頭なのだろう。
「あんまり触りたくないけど、そういうことなら正攻法でやってあげるわ」
ルージュは大地を蹴って空高く跳ぶ。
すると、ワームは全身を露わにして頭ごと突っ込んで来た。
その口は、ルージュを丸呑みできるほどに大きく開かれている。
「そんなに食べたいならあげるわ――――ルージュ・インパクト!」
山が眩い光に赤く染まった。
音も、衝撃もなく、静かにワームの体が砕け散る。
それはまるで、ミュートした1シーンを切り取ったかのような映像だった。
皆その光景に目を奪われる。
そして――――時は動き出した。
思い出したかのように、衝撃が空気と大地を揺らす。
気づけば、ワームどころか山ごと半壊していた。
夜の静けさが戻ってくると、ベチャベチャと肉片が落ち始める。
その皮膚は銀でできているのだが、今ドーザーは別のことが気になってしまっていた。
「……正攻法?」
「ちゃんと頭は潰れてるようね、ヨシ!」
もはや肉片しか残っていないが、着地したルージュは指差し呼称で確認していた。
「冷気に弱いというのは何だったのかのぉ……」
夜空を見上げると、山に遮られることもなく星空が広がっていた……。




