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015 目撃した魔法少女。

「宿の確保は無理っぽいね」


シルバーラッシュには、かつて多くの宿が存在した。

それも今ではただの空き家か、浮浪者のたまり場になっている。


「かといって空き家を使うのは気が引けるよねぇ」


「そだね、あーしがテントでも作ろうか?」


テントというワードに、紅葉は少しテンションが上がった。


「え、じゃあバーベキューやる? それともカレー?」


「キャンプじゃないよ? っていうかそこまで食材用意してないし」


私が持ってるのは……ポケットに飴ちゃんが入ってる程度か。

でも魔物を狩って食べる気にはなれない。


「それでも……それでも華蓮ならきっと何とかしてくれる」


「あーしは未来から来たロボットじゃないからね?」


「あぁそっか、異世界からだもんね」


「もっと大事な部分を訂正してほしかったなー」


………………


…………


……


雑談しながら歩いていると、二人は鉱山の入口らしき場所へと辿り着いた。


「町そのものはそこまで大きくなかったね」


「まぁ鉱山がメインっしょ」


そのメインも、砂埃がひどくて長いこと人が立ち入った様子はない。


「あ、でもあそこだけ備品が残ってる」


複数ある入口の中でも、一か所だけ他とは様子が違っていた。


「って言ってもけっこうボロボロか」


これが夜だったら心霊スポットにでもなってそうだ。


「ボロボロで悪かったな」


「うおわぁ――ッ!」


突然な背後からの声に、紅葉の裏拳が空を切る。


「な、なんじゃぁ!? ワシを殺す気かッ!」


老人は尻餅をついたことで偶々一撃を回避していた。

その背後……数メートル先で木がスパッと斬れる。


くれたん、殺人未遂はさすがに笑えないよ」


華蓮は綺麗な切り口の木を見て後退りした。


「ち、違うもん! 過失致死未遂に罪状はないもん!」


「殺しかけたことは否定しないんだね」


急に背後から声をかけられたので、つい拳が勝手に動いてしまった。


「じ、実は……私にはつい本能的に後ろに立つ人を排除しちゃう癖があって」


「言ってることがどこぞの殺し屋じゃん」


「いやいや、私如きがあの方と同じだなんて、失礼にあたりますよ」


「尊敬しちゃってるし……」


人生の教えに対し敬う気持ちを忘れない、これ大事。


「ワシを放置して何の話をしとるんじゃ。はよ手を貸さんかい」


腰が抜けて起き上がれないのか、老人はこちらに向かって手を伸ばす。

そこで私はふと考えた。

このまま手を貸さなかったら、この老人はずっと起き上がれないのだろうかと……。


「な、なんじゃ……なぜそんな目でワシを見る」


「あぁごめん、貸すけどちゃんと返してね」


「なんなのこの子……」


言われた通り手を貸してあげたのにすごく警戒された。


「おじいさんさー、ひょっとしてドーザーさん?」


華蓮がそう尋ねると、老人は軽く舌打ちする。


「チッ……いかにもワシがドーザーじゃ。誰に聞いたか知らんが、どうせお前らもワシを笑いに来たのじゃろう」


この人が一人だけ銀鉱を諦めていないドーザーさんか……。


「おじいさんの人生はちょっと笑えないでしょ」


「……なんか言い方が引っかかるぞ?」


出もしない銀鉱をずっと掘り当てようとしてる可哀想な人……という印象だったが違っただろうか。


「ごめんねぇ、くれたんはちょーっと自分に素直すぎるだけだから」


「クレタン? 変わった名前じゃな。いつつ……これじゃ今日の作業は進みそうにないな」


腰を抑えるドーザーさんは、急激に老け込んで見えた。


「作業って、やっぱり銀鉱を?」


「当たり前じゃ、この鉱山はまだ死んでおらん」


ドーザーは丁度良い高さの岩に座ると、ツルハシを磨き始める。

作業が進まないなら明日のための準備、ということらしい。


「でも閉鎖するんでしょ?」


「ふん、ワシはそれでも諦めん」


誰が何と言おうと、銀の息吹とやらを信じて掘り続ける気のようだ。


「ふーん……まぁがんばってね。あ、この辺にテント設営してもいい?」


「物好きじゃな、好きにしろ」


町から少し外れたこの辺りは、テントで一夜を過ごすのに申し分ない。


「んじゃ華蓮、テント建てよー」


くれたん鉱山にはあまり興味なさげ?」


「んー、金の息吹だったら感じてみたかったけどね」


銀ってちょっと微妙だし。

もしそれが金だったら、持てるだけ持って元の世界に帰りたい。

……密輸にはならないよね?


「ところでさ華蓮、妙に豪華なテントだけどこれどうしたの?」


「ふふふっ、種も仕掛けもありません」


「手品ってすげー……」


もはや説明になっていないが、紅葉は納得していた。





その夜、紅葉たちの元へ戻って来たグリ公は地図を広げた。


「今ボクたちがいるのはこの辺りだね。まさか王都を挟んで反対側に来てるとは思いもしなかったよ。ここからなら国境もすぐ側だ」


「グリ公がちゃんと仕事してる……」


「どういう意味かな?」


今までただ空飛んでるだけだったからね。


「それにしてもひどい町……いや、町とも呼べない所だね。宿どころかお店らしいお店がなかったよ」


「そだねーっと、はい二人とも晩御飯できたよー」


テントを建てたのは華蓮。

火を起こしたのも華蓮。

そして晩御飯も華蓮が用意してくれた。


「紅葉、同じ女性として何か思うところはないのかい?」


「働かずに食う飯も美味い」


「何もしてない自覚はあったんだね……」


「あーしは全然構わないよー。家でもたまに料理してたしね」


華蓮は見た目の印象と違って、案外家庭的だった。


――――――


――――


――


深夜、快適なテントの中で寝静まった頃にそれは起こった。


「それは……」

「……しなくても」

「いや……徹底的に……」


ふと目を覚ました紅葉は、複数人の会話する声が耳に入った。


(これは……鉱山の方かな)


足音はこちらには向かっていないようだ。

隣で寝息を立てる華蓮とグリ公が起きる様子はない。


「…………」


起こすと悪いので、紅葉は静かにテントの外に出た。

そして足音を殺し、鉱山の方へと向かう。


……良い子はマネしちゃダメだぞ。



ランタンの灯りをはっきりと捉えると、紅葉は物陰に身を潜める。


「無駄に手入れの行き届いたツルハシだったな」

「ったく、余計なことばかりしやがる」

「少しもったいないが、これも仕方がない」


灯りの隅に、薄らと持ち手のないツルハシが転がっている。


(あー……そういうことね)


状況を察した紅葉は、少しだけ苛立ちを覚えた。


「んじゃ、後はこいつを使うだけだな」

「それ大丈夫か? 俺らも巻き込まれたり……」

「安心しろ。ちゃんとした正規品だから威力はわかっている」


一人の男が手にしていたのは真っ黒な玉だった。

見た目だけならボーリング玉のように見える。


「威力って具体的には?」


「そりゃお前、掘削用だからそれなりに……って誰だ!?」


堂々と姿を現した紅葉に、3人の男は一瞬だけ慌てた表情を見せる。

しかしランタンの灯りを向けて紅葉の姿を確認すると、すぐにホッと安堵していた。


「なんだ、昼間のガキかよ」

「しかし見られたぞ?」

「聞かれた可能性もあるな……やるか?」


やる……殺る……犯る……?


「そっか、可愛いって罪だもんね……」


まいったな、可愛い子が夜道を歩けばそうなるか。


「なんか急に照れ始めたぞ」

「最近の子はよくわからんな」

「おい、ところでこれどうやって起動するんだ?」


一人が黒い玉をこねくり回す。

綺麗な球体のようなので、何もボタンらしきものがないのはこちらからもわかった。


「刺激を加えたらいいんじゃないか?」

「とりあえず投げてみろよ」

「お、おぉ……」


投げられた玉は、紅葉の頭上を目指し放物線を描いた。


「え、こっちに投げんの……?」


次の瞬間、夜とは思えないほどに周囲は眩い光に包まれた――――

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