014 山に登った魔法少女。
「まずい……これはまずいぞ」
王は頭を抱えていた。
謁見の間が破壊された……これはまだいい。
問題は宝物庫のほうだ。
「まさか封印された魔王の核までなくなっているとは……」
単体で封印がどうこうなるわけではないが、何者かに持ち出されたというのが問題だった。
もしあれが魔王の肉体と融合しようものなら……
「……勇者の育成を急ぐべきか」
本当に魔物の脅威が迫ってしまっては計画が台無しだ。
そのためなら多少の犠牲は仕方あるまい。
「仲間の死に覚醒する勇者……仲間の想いに覚醒する勇者……誰かを守る為に覚醒する勇者……まぁいくらでもやりようはあるな」
後は舞台を整えるだけ。
少し寒いシナリオになるだろうが、あの勇者には良く効くだろうと王は思惑を巡らせるのだった……。
………………
…………
……
【勇者】の職業を賜った相川勇人は、一人だけ別メニューで鍛錬をしていることに疑問を感じていなかった。
自分が勇者なのだ、自分が皆を引っ張って行かないと……という使命感がそうさせていた。
そして今日、ようやく皆と合流する。
(いよいよ本物の魔物との戦いか)
まずは城下町で凱旋があるらしい。
ちょっと恥ずかしいけど、これで皆が笑顔になれるのならお安いものだ。
そしてそのまま魔物討伐の旅に出ることになっている。
僕とクラスメイト、それに数十名の騎士が同行するのだとか。
かなり大所帯な旅になるようだ。
城門の前に行くと、すでに待機していたクラスメイトと合流した。
夏休みの長さに比べると、それほど久しぶりというわけでもないのだが、クラスメイトの顔を見るとすごく懐かしい感じがする。
「みんな久しぶり! ってほどでもないか」
ちょっとした照れ隠しを混ぜて声をかけるも、どこかクラスメイトたちの表情は暗かった。
「お、おう……勇人は元気そうだな」
「相川くんは……ううん、何でもない」
みんな緊張しているのか、声に力がない。
ここは自分が緊張を解さないと、そう思った矢先、異変に気づく。
「あれ? なんか人数少ないような……健吾や桜田さんは?」
他にも何人かいない気がする。
それに魔法少女ルージュの姿もなかった。
そんな中、女子の中心人物である南さんと目が合う。
「南さん、何かあったの?」
「あ、あのね相川くん、実は……」
南さんに聞かされた話は衝撃的だった。
魔法少女ルージュが城の一部を破壊して逃亡。
桜田さんもいつの間にか姿を消していて、おそらくこの二人のどちらかが宝物庫から国宝を盗んだのではないかと思われている。
それと、訓練が嫌で逃げ出した生徒が6名……。
「訓練が嫌で逃げ出した……? 健吾が?」
ちょっと信じられないことだ。
健吾とは中学からの付き合いだが、ちょっとやそっとの訓練で逃げ出すとは思えない。
魔法少女ルージュのことはよくわからないけど、桜田さんは万引きとかするタイプではなかったはず……多分。
困惑する勇人に、一際大柄な騎士が駆け寄ってくる。
「勇者殿」
「勇人です」
「此度の指揮を執る第4騎士団長のズラーダです。以後お見知りおきを」
「よろしくお願いします、ズラーダさん」
正直自分より強そうに見える。
でも騎士の人数はちょっと少なめかな。
そして、旅にはさすがに同行できないのか、リリーナ王女が暗い表情で姿を現した。
「勇者さま……」
「勇人です」
「必ず……必ず私の元に帰ってきてくださいね」
「できれば元の世界に帰りたいです」
王女は少し辛そうな笑顔で見送った。
最後まで名前では呼んでくれなかったな……。
凱旋が始まると、城下町に歓声が湧く。
これが自分が救うべき世界……それを今初めて見るというのも変な感じがする。
(とりあえず手を振っておけばいいのかな)
こうして、勇者である僕の冒険は始まったのだ。
最後に王都で見たものは、門が修繕されている光景だった。
◇ ◇ ◇ ◇
「何だか寂れた町に来ちゃったね……」
紅葉たちが辿り着いた町は、山の中腹に位置していた。
景色はいいし、空気……の味はわからないけど、もう少し活気があっても良さそうな気がする。
「華蓮、これはどこに瞬間移動したんだい?」
グリ公の問いに華蓮は胸を張って答える。
「山!」
「見ればわかるよ」
「それ以上答えられることないけど?」
「一文字しか情報がなかったよ……」
グリ公は不満のようだ。
たしかに見晴らしの良い所から周囲を見渡しても、今自分たちがどこにいるのかサッパリわからない。
さすがに国境までは越えてないと思うけど……。
「ま、どうせ右も左もわからない異世界だし、どこでも良い気はする」
「さすが紅たん、よくわかってるぅ」
「はぁ……周辺の地理情報をまた一から取得する身にもなってよね」
二人のやり取りに呆れながら、グリ公は飛翔していった。
「んじゃ、あーしらは町の中でも散策しよっか」
「なんか観光にでも来たような気分」
町の入口には、銀の都シルバーラッシュと書かれている。
一応は塀に囲われているが、門番らしき姿はなかった。
「魔物とか入ってこないのかな」
「魔物よりやばいの入っちゃってるよねぇ」
「……?」
「紅たんは気にしなくていいよー」
魔物よりやばいの……私だったら怪人より過激なファンのほうが怖い。
私の知らないところで私が炎上してるなんて恐怖でしかないよ。
「昔は銀鉱がたくさん採れてた系かな」
「今は採れなくなって寂れちゃったってことか」
二人はそんな話をしていると、背後に人の気配を感じた。
「いーや! まだ鉱山は死んでおらん! ワシにはわかる、銀の息吹を感じるのだ!」
怒鳴るように言いたい事だけ言って、老人はツルハシを肩に担ぎ去って行く。
「怒られちゃったよ……」
「紅たんが寂れたとか言うから」
「閑静なゴーストタウンって言った方が良かったのかな」
「オブラートからはみ出てるよー」
たしかにゴーストタウンは言い過ぎか。
一応人はいることにはいるし。
今もこちらに近づいて来るおじさんがいるぐらいだ。
「嬢ちゃんたち、さっきの爺さんのことなら気にしなくていいぞ。この鉱山はもう閉鎖が決まってんだ」
おじさんは老人が去って行った方向を睨みつけている。
「じゃあもう銀は採れないの?」
「とっくに終わった鉱山なんだよここは」
「つまり銀の息吹は感じられないと」
「あの爺さんは変わり者なんだよ、一人だけ諦めてねぇ。諦めて町を出て行った奴が多いってのに……ま、ここ以上の鉱山なんてないんだけどな」
人が少ないのはそういうことね。
「初めはあの爺さん……ドーザーさんを信じてたんだがな。下手に夢を見せられたせいで町を出るタイミングを逃しちまった。おかげで俺は女房に愛想尽かれたよ」
さらに中年男性が多いように感じたのはそういうことか。
早々に見切りをつけた者は町を出て、そうしなかった者はこうして浮浪者のように町に残ってるようだ。
「なるほどねー、それで自分を被害者だと思わなきゃやってられないわけだ」
「あ?」
「ご、ごめんねおじさん、あーしらちょーっと用事があるからもう行くね!」
華蓮は慌てて紅葉の手を引いて走り出した。
そしておじさんの姿が見えなくなった辺りで立ち止まる。
「ダメだよ紅たん、あれぐらいのおじさんは核心突かれると怒るんだから」
「華蓮もけっこう言うねー」
華蓮のこういうところは割と気に入っている。
「でもそっかー、この規模の鉱山で銀が採れないとなると、この国は色々危ないかもねー」
「どういうこと華蓮?」
「ここで問題です。世界史において、銀が不足した国はどうしたでしょうか」
「急に問題出すじゃん……」
でもそんなのは簡単だ。
「銀不足が起こった!」
「問題を解答欄に書かないでねー」
ちょっと違ったか。
「うーん、ないなら他所から奪うとか? 私ならそうする」
「あ、うん……正解なんだけど、私ならって付け足すと間違えたほうが良かったかもね」
正解したのに微妙な空気になってしまった……。




