013 目的を定めた魔法少女。
魔法少女ゴールドは空を舞い、光線を縦横無尽に放っていた。
「あーもう、ルージュはどこで道草食ってるのよ!」
「わかりませんわ、いつもなら真っ先に怪人の元へ向かっているのに……」
魔法少女アクアは水流を放ち、怪人の攻撃を無効化する。
一見すると二人は健闘しているように見えたが、この戦いはすでに30分以上続いていた。
魔法少女ルージュ、ゴールド、アクア……本来3人で活動することの多い彼女達は、シグナルズの愛称で呼ばれている魔法少女である。
たまに信号機3人娘とも呼ばれている。
近接戦のルージュに、遠距離戦のゴールド、そして支援や防御に特化したアクアの3人は非常に相性が良かった。
ただし、性格的な相性は最悪で、今はルージュ抜きでの戦闘を強いられているのだった。
1時間の激闘の末、ようやく怪人は塵となって消えていった。
「はぁ……今回の怪人はけっこうな強敵だったかも」
「えぇ、おそらく幹部直属クラスですわね」
事実、その怪人は他とは一線を画す強さだった。
だからだろうか、二人は同じことを考えていた。
((でも多分、ルージュがいたらここまでの苦戦はしなかっただろうな))
自分たちは決定力に欠けている。
それを改めて思い知らされた。
「ルージュってば、この前わざと誤射したのまだ根に持ってるのかな……」
「ルージュだけ水の盾に入れてあげなかったの、根に持ってるのかしら……」
二人は同時にボソリと漏らした。
「アクアそんなことしてたんだ、陰湿ぅ」
「ゴールドこそ、わざとだったらもはや誤射ではありませんでしょ」
お互いを責めるものの、喧嘩には発展しない。
なぜならこの後の展開が読めていたからだ。
「やばいよこれ、次会ったら絶対殴られるやつじゃん」
「私、しばらく別荘で静養いたしますわ」
帰路につくアクアに、ゴールドは抱きついた。
「一人だけ逃げるとかずるい! 私も連れてって!」
「嫌ですわ! 発見が早まるではありませんか」
誰もいないと思い、二人は大声で揉め始める。
だから気づかなかったのかもしれない。
その光景を密かに覗く小さな……あまりにも小さな怪人が存在していたことに。
(あれがこの辺で最強の魔法少女か……ふふっ、これなら順調に計画を進められそうだ)
◇ ◇ ◇ ◇
朝起きると、紅葉は枕元に謎のカードが置かれていることに気が付いた。
「サンタさん……?」
「あーしが作ったこの世界の身分証だよ」
華蓮に一瞬で夢を壊された。
異世界ならありえると思ったのに。
「一番お手軽な冒険者カードにしてみたいんだけど、どうかな?」
「武道家って書いてある……」
魔法少女なのに。
「まー見様見真似で作った物だから我慢してよ」
「手品師ってこんな物も作れちゃうんだ……」
「へぇ、良くできてるね」
これにはグリ公も感心していた。
「これがあれば堂々と街を出ていけるっしょ」
「なるほどね、それじゃあ僕は一足先に街の外で待ってるよ」
グリ公が飛び立った後、サッと窓を閉じる。
「じゃあゆっくり身支度して行こうか」
「紅たんグリっちに何か恨みでもあるの?」
シンヤタイプの魔法少女が使い魔に気を付けろって言ってたからね、私は警戒してるんだ。
決して、小言がうるさいとか、常識人ぶっててうざいとか、そんなことは思っていない。
「魔法少女にも色々あるんだよ」
「あーしの魔法少女のイメージずっと更新されてるわ」
………………
…………
……
街の出口に近づくと、いかつい男から声がかかる。
「おう、嬢ちゃんたち、昨日は悪かったな」
山賊……が街中にいるわけもないか。
しかも門番がすぐそこにいるし。
「……どちら様?」
「俺だよ、昨日ギルドで嬢ちゃんに偉そうなこと言っちまったもんだ」
「紅たん、昨日かっこつけて出てった人だよ」
そういえばそんな人もいたな。
「やめてくれよ、今思い出すとちょっと恥ずかしいんだ」
思い出すと恥ずかしくなるのは私もよくわかる。
決めゼリフとはそういう宿命なのだ。
「私たちもう街を出るんだけど何か用?」
「いや、昨日のことを一言謝りたかっただけだ」
彼の中でどんな心境の変化があったのかは知らないが、昨日と違って妙に腰が低かった。
「実は昨日、嬢ちゃんたちぐらいの子に助けられてな。見た目で人を判断するのはよくないと思ってよ」
見た目と違って律儀な人だった。
「あの二人……特にトロールキングを一撃で仕留めた子は俺の憧れだ。いつか俺もああなりたいもんだ」
「えっ……」
このおっちゃんが魔法少女に……?
変身した姿を想像すると具合悪くなった。
見た目は大事だと思います。
「っと、昨日の魔物の解体を手伝わないといけないんだった。それじゃあな嬢ちゃんたち」
男は言いたい事だけ言って去って行った。
「憧れだってさ紅たん」
「異世界にまで大きなお友達が……」
薄い本だけは出ないようにと、紅葉は心から願った。
街の門番には特に怪しまれることもなく、堂々と街を出ることができた。
最後に振り返り、街にお別れを告げる。
「この街ともお別れか……さようならドロッドロ」
「ドロッセルだよ」
門番に真顔で指摘された。
そんなかっこいい名前だったのか。
「それで紅たん、これからどうする? また別の街に行ってみる?」
「それもいいんだけどねぇ……」
ただ放浪の旅をしても、いつまでたっても元の世界に帰れるとは思えない。
「魔法にくわしそうな人、ってのも何かいまいちピンとこないんだよね」
くわしい程度で異世界召喚のことがわかるなら、この世界は今頃異世界人だらけになってそうだ。
「とりあえず魔王とやらに会ってみようかな。受験も控えてるから早く帰りたいし」
「その心は?」
「どちらも征服(制服)が目的でしょう。なんちゃって」
もう制服は手に入れたじゃん、なんて野暮なことは言いっこなしだ。
「何を馬鹿なことを言ってるんだ。っていうか二人とも遅いよ」
外で待っていたグリ公が肩に着地する。
野暮ではなく馬鹿にされるとは思わなんだ。
「まぁでも、何も目的がないよりはいいかもね。魔王が友好的だったらいいんだけど」
「友好的な魔王とかグリ公平和ボケしすぎー」
紅葉とグリ公はくだらない言い合いを始める。
そんな中、華蓮は一人立ち止まっていた。
「……そだね、友好的だったらいいよね」
その声は、前を行く二人には届いていない。
しかし、紅葉は華蓮が遅れていることにすぐに気が付いた。
「どしたの華蓮、歩くのだるいんだから早く瞬間移動しようよー」
「キミはすぐそうやって楽しようとする」
紅葉とグリ公のやり取りに、華蓮は自然と足取りが軽くなる。
「っていうか、目的地決めないと瞬間移動しようがないよー」
「目的地は魔王がいる場所!」
「それがどこなのかってことだと思うよ」
3人は軽い足取りで街道を進んでいった。
その日、ドロッセル周辺ではあまり魔物が出なかったのだとか……。
街道を進む3人の背中を、オリビアは静かに眺めていた。
(街から出たらもう一度確認しようと思ったけど、魔物たちがすっかり怯えてしまっているわ)
これではけしかけるのも難しい。
しかし何かしらの成果はほしかった。
(魔王様が目覚めた時、私だけ何も成果がないというのは避けたいわね)
すると、突如二人の姿が黒い布切れと共に消える。
「……は?」
慌てて二人のいた場所を調べるオリビアだったが、微かに魔力反応が残っている程度で、他には何の痕跡も見つからなかった。
「うそでしょ……」
オリビアには紅葉と華蓮の居場所がわかっている。
だからこそ驚きだ。
「……随分遠くに移動したようね」
彼女達の着ている服は自分が作った特別製で、どこにいても居場所がわかる代物だった。
それでも別の問題が残っている。
「気が重いわ……」
そこまで追うのが大変だと、オリビアは心が折れそうになった。




