第19話 一万文字でも良いんじゃない
「ただいまぁ……」
「あぁ、お帰りぃ。今日は遅かったねぇ」
「うん。友達とスーパー銭湯行って来たぁ」
「あらそう。珍しいわねぇ。友達って紬ちゃん?」
「……そう」
「もうすぐ晩御飯できるから、早く着替えてらっしゃい」
「はぁぁい」
はぁぁ……。
なんか……辛っ。
なんであの時、怒っちゃったんだろう。
別に怒る必要なんて無かったのに。
突然の事で驚いちゃって。
それで、何となくパニックになっちゃっただけなんだよな。
だってさ、いきなり首筋舐められたら、誰だって驚くよね。
そうよね。
だってそうだもの。
そうに決まってるもの。
あぁぁ……それにさぁ。
私、紬に面と向かって、汚いって言っちゃったからなぁ。
あれ、絶対に誤解してるよねぇ。
別に紬の事が汚いって訳じゃなくってさ。
私の汗が汚いって話なのに。
あぁぁ……。
ちゃんと説明せずに帰って来ちゃったからなぁ。
どうしようかなぁ。
電話してみようかなぁ。
でもなぁ、電話で何て言ったら良いんだろう?
いきなりさぁ……さっき汚いって言ったのは紬の事じゃ無いんだよっ! ……って?
ムリ無理。
全然むり。
そんな事言えるぐらいだったら、さっき言ってるって。
そんなこと今さら言えないよぉ。
なんだか、取って付けたみたいだもん。
はぁぁ……やっぱりさっきちゃんと話しておくべきだったなぁ。
「……」
よしっ、電話は無理だけど、LIMEのメッセージで謝ろう。
そうだ、そうしよう。
電話だとちゃんと言えないかもしれないけど、文書だったら大丈夫かも。
――ポチ、ポチ……
――ポチ、ポチ、ポチ
――ポチポチポチポチポチポチ、ポチポチポチポチポチポチ……
「はぁ、はぁっ……っはぁ……出来……た」
くっ!
これ……完全に千文字は超えてるっ!
良く考えたら……って言うか、良く考えなくても紬がこんなに長い文章を読む訳が無いっ!
仕方が無い。
これをベースに文章を推敲しながら減らして行くか。
できるだけやわらかな表現に変えて、難しい言い回しは普段使いの言葉に置き換えてっと。
――ポチ、ポチ……
――ポチ、ポチ、ポチ
――ポチポチポチポチポチポチ、ポチポチポチポチポチポチ……
「はうはうはうっ!」
なぜだっ!
何故か文章が前より長くなってるっ!
これでは軽く二千文字は越えているに違いないッ!
不覚っ!
一生の不覚っ!
はっ!
待てまて。
このLIMEと言うのは、一体何文字まで書けるんだ?
特に警告は出なかった様だが、某ツイ〇ターでさえ百四十文字しか入力できないのだぞっ! にもかかわらず、LIMEでいきなり数千文字と言うのは非現実的なのではないのか?
えぇっと。
ググって、ぐぐって……っと。
おぉ、昔は五百文字までだったみたいだけど、いまは一万文字まで対応している様じゃないか?
何という僥倖。
所詮、私の様な小娘の心配など杞憂であると言う事だな。
うむうむ。
世の大人たちもなかなかにやりよる。
また一つ賢になってしまったぞ。ホホホ。
さて、思いの丈を文章に……っと。
――ポチ、ポチ、ポチ
――ポチポチポチポチポチポチ、ポチポチポチポチポチポチ……
ムフー!
出来たぁぁ。
これはまた、結構な傑作が出来上がりましたぞいっ!
「って、おぉぉい! ちょっと待てっ!」
いやいやいや。
いかんいかん。
思わず声に出ちゃった。
結構デカい声で独りごと言っちゃった!
ちがう、違ぁぁうっ!
もともとは紬がこんなに長い文章を読めないから短くするつもりだったのに、更に輪をかけて長い文書にするなんて一体どう言うつもりだっ!
しかも、文書の最後に“紬……愛してるよっ!”って、何コレ。
なにこれもぉぉ! 完全にラブレターじゃぁぁん!
ホント、何これ、なにコレぇぇぇぇ!
こんなもの出せる訳ないでしょっ!
とっ、とにかく一旦ぜんぶ消してっと。
――ピッ
「……あ」




