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たびゆめ ~何度でも追い求め続けよう~  作者: 幸明沙夜
OUTSIDE WORLD
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21 ねてるわね

ピッ

セキュリティを解除する音が響く。

カチンッ


ガチャ

資料室のドアを開けた先には、部下の桜雅(おうが)と零係一班の東条が膨大な資料を集めていた。

「主任遅いっすよー。 意外に多かったんすからね。 動物虐待とかー」

「お疲れさま。 追加でその中から、能力者が関わっていた事件ないかしら。 あ。 ついでに虐待現場に花丸みたいな落書きがされてないか、各署に連絡して現場の現状を報告して貰って欲しいの。 あ! 25年前に調査済みって言われても今の現状を調べるように言うのよ」


「へいへい。 こき使ってくれて、ありがとうございまーすっ」

 朝から、苦手な事務作業をさせられて不機嫌な桜雅。

「大丈夫か?」

 東条が一言だけ声を掛けてくれた。


 同期である以上、私から家族の事件を口に出して伝えていなくとも当時の事件に関わった捜査員が現役で働いているのだから、どこかで耳にしても可笑しくはない。

 何に対してのことを言っているのか、あえて口にしていないのだろう。

 暁澄君のことと私のことをひっくるめて、両方の意味で聞いていそうだ。


 東条になら、話しておいてもいいかもしれない。

 最近、そんなことを思えるようになっていた。

「ええ。 とりあえず、東条もこの25年の間で能力発現した人の資料を集めてくれないかしら? 私は、桜雅を手伝っているわ」

「25年か…。 わかった」

 何か言いたそうな東条と視線が合う。


「急な連絡だったのにありがとう」

「お互い様だろう。 いつでも頼れ」

 東条が寿に優しく微笑んで仕事へ戻る。


 一班の能力者を借りたくて連絡したのに非番の東条まで力を貸してくれた。

 たまに過剰に反応することもあるが、頼りになる。


「よし! 桜雅どこまで連絡している?」



――――――――――――



チリリン

「こんにちは。 (とき)さん」

 白髪の紳士が帽子を脱ぎながら、少し低いドアに頭をぶつけないよう入ってくる。

「おや。 早かったのぅ京志郎」

 小さくても相変わらずの足腰の強さで狭いカウンター内をチャキチャキ移動している。

 外は、相変わらず占い待ちの行列であるが看板にはCLOSE“13迄”と張り紙されていた。

 いつもの如く、来るのが分かっていたかもしれないが、訪問することを連絡しておいた。


「おにぎりと味噌汁で良いかい? 食後にはコーヒーじゃろ」

「嬉しいな。 朝食べ損ねちゃってさ。 昆布もあるかな?」


「そういうと思ったわい」

 遠慮のない会話から、付き合いの長さが分かる。


 占いをしているのにレトロな喫茶店を思わせる店内で落ち着く。

 激動に目まぐるしく色んな事が変わっていった時代を思い出す。

(れい)、怒っておったじゃろう?」

「仕方ないよ。 時さんのこと大好きだからね」

 京志郎が微笑みながら、手を合わせて“いただきます”の仕草をする。


「そうかい。 澪に話していなくて未来が変わったんじゃから、どんなに怒られようと、これで良かったんじゃ。 京志郎の判断は間違ってなかったと思っちょるよ」

 おにぎりを頬張る京志郎を見ながら、笑顔でほうじ茶をすすり始める時子。

「ありがとう。 時さん。 何か欲しい物あるかな?」


「おや。 京志郎は太っ腹じゃな」

「お金は、生きているうちに使わないとね」

 不死身の身体を持つ京志郎が笑顔で答える。


「どんだけ貯め込んどるんだか。 そうじゃ、旅立つ計画は本気で実行するんかい?」

「しないとね。 人は死ぬものでしょ」

 “ご馳走様”の仕草をしながら、コーヒーを嗜み始める京志郎。


「さぁ。 まずはどこから見るんだい?」

「以前も見てるんじゃが。 変装して捜査網を抜けていったって、澪が言っとったのが気になってな。 見落とすことがあるとするなら、そこじゃろ」

 利き手ではない左手を時子に差し出す京志郎。

 腕が疲れないように色んな形の小さいクッションが多様にある。

 京志郎は、一番大きなビーズがいっぱい入っていて触り心地の良い物を選んでいた。


 人のプライバシーを勝手に侵害する人ではないことを知っている。

 欲しい情報だけ見て帰ってくる性格で見たものは、正直に全て語ってくれるから、信頼している。


 京志郎の手を両手で触れてから、動かなくなる時子。

 京志郎は、慣れている光景で利き手でコーヒーを飲み始める。


「いってらっしゃい。 時さん」



   … … … … …   



25年前夏へ

 京志郎が見てきたものを見えないくらい早く、行きたい年号へ飛ぶ。

 写真のフォルダーを一気にスライドする感覚に近い。


「堤部長。 そこも撮影しておきますか?」

「ああ。 頼む。 それにしても、このメッセージからして、明らかに焚きつけていたとしか思えないが、その理由が分からないな」

 山の上の田舎で半田(はんだ)家所有の倉庫内壁面を仁王立ちで腕組みし、悩んでいる堤京志郎。

 完全な白髪ではなく、グレーの髪色でシワも少ないせいか若々しく感じる。


「動物を殺して“Good job”なんて、サイコキラーを育てて楽しんでいるのか…」

「他にも動物虐待とかで同様の事件ないか調べるよう言っときます」


「ああ。 ありがとう」

 壁面の大きな花丸と“Good job”を見ながら、後ろで仕事をしている部下が声を掛けてくる。

「堤部長の定年最後の事件だから、主犯捕まえたいですね」


「しかし、この主犯の狙いが分からない。 サイコキラーを育てるだけなら、私を撃つ必要はないし、わざわざ危険を冒してまで病院にきて助言する必要もないだろう?」

 京志郎は、主犯が描いた大きな花丸を見ながら主犯のことを考えていた。

「あの女の子の知ってる人じゃなかったんですか?」


「そうなんだよね。 あんな事件の直後だし、忘れてしまっている可能性もあるけどね」

「そういえば、あの腕を治した力で蘇生とか出来ないんですか?」

 身体能力向上系の(ちから)でも寿澪の能力は、複雑なことが出来る能力だった。

 あれは、治癒ではなく元に戻しただけだ。


「出来ていたら、どんなに良かったか…」

「そうですよね。 家族が蘇生されてますよね」

ちっ

 舌打ちが聞こえた気がして、振り向く京志郎。


「あれ? 澤田君、髪型変えたかい?」

「いや。 寝坊です。 ここ電波悪いんで、あっちで資料捜査連絡入れてきます」

 そういって、携帯の電波を確認しながら、出ていく澤田。


   … … … … …   



「なんだい? この男は、諜報員経験でもあるのかね」

 急に動き始めた時子がお茶を飲み始める。

「諜報員か…。 それなら調べて出てこないのも頷ける」


「一応、京志郎は違和感を覚えて声を掛けておったぞ」

 半田家所有の倉庫内の何気ない会話のことを言われた。

「全く覚えてないよ。 そんなに近くにいたなんて…」

 深い溜息をつく京志郎。


「澪ちゃんがさっき連絡くれてね。 神前(かみまえ)あたるに亡くなった娘がいて、腐敗せずに保管されているって言っていたよ」

「じゃから、蘇生にこだわって聞いちょったのかい。 そんじゃ、あの花丸は、虐殺に対してではなく、能力発現に対しての花丸ってことかい?」

 25年前の記憶を見てきたばかりの時子が察しの良いとこをついてくる。


「まだ推測だよ。 まさか能力者を見つけるために発現させているなんて、誰が想像できる?」

 京志郎が拳を強く握りしめる。

「トラウマを作るために人を操作しちょるなんて、考えたくもないの」

 時子が悲しそうにお茶をすする。


 通常の思考では、理性が働く。

 何に変えてもどうにかしようという強い意志は、異常な思想を呼び起こしてしまう。

 それだけ、強く熱い想いがあったのだろう。


「それだけ娘に生きていて欲しいんじゃな…」


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