22 てんねんじゃないもん ありのままだもん
ピカッ
雷の逆行で顔がはっきり見えないが自分より身長の高い男が至近距離から近づいてくる。
右腕は、背中に押さえつけられ、後ろは手摺りで身動きが出来ない。
横目で手すりの下に吹き抜けになっているリビングが見える。
首筋には、冷たい感触がある。
ゴロゴロゴロゴロッ
雷鳴と同時に耳元で何かを囁かれる。
「はぁ!!」
ごくんっ
ソファーで寝ていた万里華様が突然、飛び起きたのでダイニングで座っていたジャンがビクッと身体を揺らしたのを料理中でも見逃さなかった。
「万里華! お水が欲しいの~♡」
フライパンの火を止めて、水を持っていこうとしたら、方隆が動いてくれた。
「僕が持っていきますよ」
「…どうも」
遥絆が懐いているから、悪い人ではないのかもしれないが誘拐したことを許すことは出来ない。
どうしても態度が悪くなってしまう。
「ありがとう♡」
方隆から水を受け取る万里華様。
ソファーの上に長く細い足を出して、お腹周りにだけタオルケットを掛けている。
どうしても、見えそうで見えないところへ視線が行ってしまう。
視線をフライパンに戻し、昼食の準備をする。
「収穫ありましたか? 万里華さん」
「ん~っ。 あっ♡ 雨って降る予定あるかしら?」
寝起きのせいか、まだボーっとしているように感じる。
ジャンが確認してくれる。
「明日、晴れですが夕立から雷雨みたいデス」
「ヤだ~っ! 明日なのぉ?」
「「「!!!」」」
万里華様が突然の大きな声で驚く様子を見て、全員が万里華様を見る。
「…明日なんですか?」
「雨、今のとこ他にない…」
ジャンが手元の携帯を何度も再確認する。
「今日は、ゆっくり休めますね」
あっけらかんと、いつもの笑顔の方隆。
少し香ばしすぎる匂いがしてくる。
「あ!!」
危なかった…。
驚きすぎて、フライパンに火をかけていることを忘れて炒めていなかった。
遥絆がいないので辛い物にしたくて、夏野菜たっぷりの回鍋肉にしてみた。
豆板醬と豚肉を炒めていたところだったので、少し炒めすぎても丁度いい位だろう。
「居心地いいから~。 万里華もっと居たかったのになぁ♡」
「いなくていいですよー」
「やだ~んっ♡ 結城暁澄が冷たいよぅ」
「可哀想な万里華さん」
立っている方隆の足元に抱きついてきた万里華様の背中をよしよしという感じで撫でる方隆。
「そうそう! やっぱり結城暁澄って凄いと思うの♡」
「凄いってことは、変わったのですね」
勢いよく顔を上げて目を輝かせながら、方隆へ満面の笑みを見せる万里華様。
ジャンがご飯と中華風かき玉スープをよそってダイニングテーブルへ準備してくれる。
俺は、完成した回鍋肉をお皿へ盛り付けていく。
あとは、カクテキと大葉、みょうが、カリカリちりめんじゃこを冷ややっこの上に乗せた副菜を小鉢によそっていく。
テーブルに烏龍茶をおいて、昼食準備完了。
「銃じゃなくて、刃物になってたのよ♡」
「全然いい情報に聞こえませんよ」
エプロンを外しながら、ソファーの二人に声を掛ける。
「ヤだ♡ そうなの?」
万里華様がパタパタとダイニングテーブルへ嬉しそうに着席する。
とっても早く食べたそうに一人だけ手を合わせて、皆の着席を待っている。
方隆も万里華様の隣の椅子に腰掛ける。
「凶器増えていますしね」
「あ。 そっかぁ~♡」
「でもでも前に見たのとはぁ~。 上手く言えないけどぉ、状況が違ってるのぅ!♡」
エプロンを外しながら、暁澄が万里華様の前に着席する。
「場所は変わらず、ココなんでしょうか?」
「そうよ♡ いただきまぁす♡」
ジャンが座ったと同時に待ちきれなかった万里華様が一番に食べ始める。
「「「いただきます」」」
「問題は、どうやって入って来れたのか…」
「能力者ばかりのところに侵入するなんて、能力者の協力がないと難しくないかな?」
方隆が発言する。
確かに。
何か技術があったとしても人間離れの技を繰り出す人を相手にするのは無理がありそうだ。
「結城さん!! ウマすぎデス!」
「万里華も感動♡♡ 晩御飯も楽しみぃ♡」
「出ていかないなら、夜は、そちらが用意して下さい。 今夜は、こちらをお貸ししますので俺は、遥絆のとこに行ってきます」
「えぇ~っ!? 万里華、納得できな~いっ! ぶ~っ♡」
「なんとでも、どうぞ~」
「結城暁澄のイケず♡」
コップを持った万里華様が上目遣いに俺を見つめる。
うん。
可愛い!!
イヤイヤ。
気を取り直して…。
「食事中は、足を下ろして下さい!」
「は~い♡」
万里華様が体育座りしていた綺麗な両膝を椅子から下ろす。
「万里華さんは、いつから能力使っているんですか?」
「わかんなぁ~い♡ 最初は、ずっ~と正夢だと思ってたもん♡」
「それは幸せだね」
方隆が目を閉じて、言葉を噛みしめる。
「でしょぉ♡ でも正夢だと思ってたから、子供の頃は夢の話いっ~ぱい色んな人に話しちゃってて~。 どうなったと思う?」
箸を口元につけながら、口を尖らせる万里華様。
「全然、想像つかないんですけど…」
俺には、正夢を話して害があるようには思えない。
「百発百中の未来の出来事を話されると、凄いという驚きより、気味悪くなってくるものですよ」
「流石! 方隆♡ そうなのぉ~。 万里華、気持ち悪がられちゃって、だぁれも寄って来なくなっちゃった♡ ふふふ♡」
「そこ、笑うとこじゃないと思いますけど…」
「だってぇ、綺麗に避けてくのが逆に面白くって♡♡ 万里華、たま~に夢で見た危ないことを夢に出てきた人に警告してあげてもん♡」
「五月女さん、強い女デス」
「強い? 万里華、優しいでしょ?♡」
「いやいやいやいやいや!! もっと怖いですよ!!!」
「あははははは。 万里華さんの呪いだと思われてますよ」
ツボに入った方隆がむせこみ始める。
「ヤだ~っ♡ 万里華そんなつもりなかったのにぃ!」
不服そうな万里華様がやけくそに食事を頬張り始める。
「万里華さんのそういうとこ、僕は好きですよ」
照れる素振りもなくサラッと口にするところが深い意味がないと分かる。
でもこの甘いマスクで言われるとコロッといく女性は数知れないだろう…。
「私もぉ~♡ 方隆のそういうとこ好きよ♡」
万里華様もサラッと天然発言してくる。
この人は、裏表のない人なのだろう。
「そんな感じだと、万里華さんが能力発現したきっかけも分からないですね」
「それがっ! 聞いた話なんだけどね♡」
… … … … …
朝晩は、まだ冷え込むが日中は暖かくなってきた春の季節。
いつもの朝。
鳥の囀りが聞こえてくる。
穏やかで春の日差しと冷たい風が心地いいと感じていた。
そんな朝のゴミ出し。
いつもと変わらない。
これから、仕事に行く朝だ。
ゴミ置き場にゴミを下ろそうとした時、ゴミ袋に入っていない白いタオル生地が目に入った。
茶黒い紐も目に入った。
いつも目にしているものに似ていた。
こんなところにある筈のないものだ。
私がいつも目にしているそれは、新生児の臍の緒だからだ。
こんなところにある筈なんてない。
そう思いながら、ゴミ袋を避けてみる。
新生児だ。
臍の緒がついたままの新生児だ。
赤紫色になって、生きているか死んでいるか分からないくらいの。
赤ちゃんが捨てられていた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!?」
衰弱した新生児を見慣れていない人が後ろから叫んでいた。




