20 やっとよ~
彼女との時間は、穏やかだった。
病気で家から出たことがない彼女は、起き上がれる時間で絵を描いていた。
彼女が絵を描いている姿自体が絵画のように美しいと感じた。
彼女は、18とは思えないほど物静かで落ち着いていたが会話のない時間も心地よかった。
彼女と一緒にいる空間が好きだった。
「えみりさんは、きっと永遠に美しいままですね」
「ふふふ。 父と同じことを言うのね」
嬉しそうに微笑む彼女を目に焼き付ける。
「私は長生きできないし、方隆君よりも早くに地球に還るわ」
彼女の言葉の選び方も美しいと感じた。
「それでも…。誰もが眠っていると錯覚するくらい美しいままですよ」
僕は、この言葉を心の底から使った。
たった2日間の数時間であったが忘れられない時間だった。
えみりさんの父親は、彼女を救いたいのだろう。
手当たり次第に能力者を探しているところを見ると彼女の命は長くないのかもしれない。
彼女の部屋を出たと同時に奥の部屋から、父親が出てきた。
父親が出てきた部屋にはパソコンや機械が大量に溢れているのが見えた。
「ありがとう。 君が外から病気を持ち込む可能性があるから、もう来ないでくれ」
「…はい」
免疫力が弱いと風邪でも死ぬほど重症化しやすいと聞いたことがある。
儚げな彼女と彼女の描いていた絵が毎日毎日、頭から離れなかった。
… … … … …
去年、アリガトウの振り込み名で大金が振り込まれていた。
売上計算に不備はない。
思い当たる未払い金は一つだけだった。
彼女が10年美しいままでいる証だ。
「あ♡ 方隆が美しい花々を描くのって、その人が理由なのね♡」
万里華様が面白そうに方隆を覗き込む。
「そうかもしれませんね」
肯定も否定もせず、万里華様へ優しく微笑み返す方隆。
「あー。 今、万里華に壁作ったでしょ! でもぉ、そういうとこ嫌いじゃないわ♡ 今度、絵見に行こっかなぁ。 興味わいちゃった♡」
「ありがとうございます」
方隆が営業スマイルで万里華に微笑む。
考え込んでいた寿さんが口を開いた。
「神前あたるに娘がいるのね。 五月女さんに“邪魔をした”って言ったなら、まだ蘇らせる方法を探しているのね」
「警察が絡んでるなんて…。 さぞかし、手段を厭わない方法であの人は探していたんですね」
方隆の言葉に返答せず、また考え込む寿さん。
“かみまえあたる”何をした人か知らないが、そもそも万里華様を助ける話だったはずだ。
「あの。 万里華さんがここでいつ殺されるのか分かりますか?」
「わかんないわよ~。 夜だったくらいしかぁ。 そこのM●Bのせいで能力使えないんだもん!!」
「あ~。 あの映画に出てきそうですね」
方隆と万里華様が映画の話で盛り上がり始める。
助っ人で護衛をして下さっている零係一班の方に勝手にあだ名をつけてしまっていたので、ジャンと言いそうになったのを飲み込む。
「…っ鈴木さん。 万里華さんの予知夢は使えるように出来ませんか?」
「仕方ないデス。 彼女の能力が私たちに危害を与えるのか定かではありませんヨ?」
日本人でも難しい言い回しを使い切るジャン。
「大丈夫です。 俺の能力で家全体にセンサーがついているので殺意や殺気、攻撃系だと反応するようになっています」
実際にこの2人がチャイムを押したときにもアラームが作動した。
見知らぬ能力者として、正常に感知していた。
「では、今から使えマス」
「やったぁ♡」
ソファーで座りながら、飛び跳ねる万里華様。
急に立ち上がった寿さんがジャケットに袖を通し、携帯で電話を掛け始めた。
「夜まで時間あるなら、一度、警視庁へ行ってくるわ。 鈴木君。 申し訳ないけど、護衛を続けて貰えないかしら?」
「かしこまりました」
ジャンが丁寧に頷く。
直属の上司ではないが立場的には、寿さんの方が上のようだ。
寿さんの電話先は、澤田さんだったようだ。
リビングに歪んだ円が現れる。
玄関から靴を持ってきた寿さんがその円の中へ入っていく。
「暁澄君。 夕方までには、戻ってくるわ。 危ないことはしなくていいから、私達を頼るのよ!」
寿さんが俺を気遣ってくれる。
閉じる円の隙間から、寿さんが慌ただしく走っていくのを見送った。
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カツカツカツカツカツ
急ぎ足で警視庁の廊下を歩きながら、電話を掛ける寿。
PURURURURURURURU…
「っ澪ちゃん。 大丈夫だったかい?」
慌てた様子で話し始める京志郎。
突然、慌ただしく帰っていった寿を心配していたのだろう。
「まだ大丈夫ではないけれども…。 それより、京さん! 作業着の男が何をしようとしていたのか…。 あの花丸が何を意味していたのか…。 そして、アイツが“終わってない”って言っていた意味が分かったかもしれないわ!!」




