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たびゆめ ~何度でも追い求め続けよう~  作者: 幸明沙夜
OUTSIDE WORLD
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19 ねぇ~まだぁ?

ガシャーンッ!

寿さんがコーヒーの入ったカップを床に落とし、ハイウエストの白ストレートパンツにコーヒーが茶黒く飛び散っていた。

リビングの入り口近くに立っていたジャンもコーヒーカップの割れた音に驚いていた。

寿さんの座っているダイニングテーブルに一番近いため、靴下にコーヒーがかかっている。


「……………………」

 普段の寿さんならば、ショックを受けているはずだが何の反応もなく考え込んでいる。

「もうっ! 万里華ビックリしたぁ♡」

 方隆の太ももを万里華様が両手で揺らす。

「そうですね。 僕も零しそうですよ」

「そっかぁ。 ごめ~んねっ♡」


 ソファーに座っている二人の会話を聞きながら、ダイニングテーブルの方へ向かう。

普通に片付けるのが面倒なので能力で片付ける。

 俺の創造実現能力は、俺の想像力によって、出来ることが限られる。

 俺が右手を下から上に向かって揚げていく。

すると、割れたコーヒーカップから順番にくっつき、服のシミがなくなり、零れたコーヒーがカップの中へ動画を巻き戻すように戻っていく。

テーブルの上に着地したカップだけを取る。

「淹れなおしてきますね」

「あ。 いいの。 ごめんなさい…」

そう言って、心ここに在らずの寿さんが答える。


「結城暁澄! 凄~いっ♡ もう一度やってぇ♡ 方隆こぼしてぇ♡」

「ご遠慮しますね。 自分でして下さい」

 揺さぶられる方隆が笑顔で万里華様を諭す。

「ちぇ~。 自分でするのは、つまんなぁい。 一緒がいいの~っ♡」


 寿さんには断られたが、色々慌ただしくてジャンに何も出していなかったので、コーヒーサーバーに残っていたコーヒーを2人分新しいカップに注いでテーブルに置く。

 ジャンもお辞儀をして立ったまま飲み始める。

 家の中にデカくて黒スーツの男が仁王立ちでいるのは、かなり気になってしまう。

 

寿さんは、条件反射で目の前のコーヒーを飲み始める。

本当にどうしたのだろうか。

 “かみまえあたる”と言う人物を知っているのだろうか。

 そう思っていたら、寿さんが話し始めた。

「燧君の顧客と言っていたわよね? 何を依頼されたのか詳しく聞かせて貰えないかしら?」

「変わった依頼でしたけど、人を殺すような方には見えませんでしたね」

 方隆が穏やかに微笑みながら話す。


… … … … … …


 家の近所で話題の洋館。

 ここが話題なのは、家ではない。

 深窓の令嬢と呼ぶに相応しい程の儚げな美少女が二階の窓から顔を出すからだ。

 昔から、昼の日差しの暖かい正午から、おやつの時間くらいまでの間に美少女が窓を開閉する。

 その瞬間を一目垣間見ようと、洋館前の通行量が増えている。


 僕は、2年程前から、不思議な事が出来るようになった。

 自分の言葉が本当になる。不思議な力。

 “言霊”。


 とりあえず、色んなことを試してみた。

 流石に最初の“言霊”は、想定外だった。

 言霊の能力を人に使用した場合、個人、一人一人に見合ったことしか出来ない。

 例えば、クッキーやぶり大根などの料理のレベルは、人それぞれ違うのと同じだ。

 試していると、偶然にも能力者が他にもいることに気付いた。


 元気かな。

 勉強が出来過ぎくんで違う中学へ行ってしまった。

 

 能力って、色んなものがあって面白い。

 能力者のコミュニティを統括してみようかな。

 お互いに協力し合えると楽しそうだし、何より能力に触れ合える生活の方が楽しい。


 何か商売でもしようかな。

 高校や大学は、普通に社会的に行くとして、その後の生活を考えると会社員よりは自由の利く仕事がしたいな。

 表の仕事と能力を使った裏の仕事。

 裏の仕事の収入を表の仕事として、利益にする。

 そうなると、自由に金額を決めて売買できるものがいいね。


 そんなことを考えていたら、洋館から出てきたおじさんとぶつかる。

 深窓の令嬢の父だ。

 作業着を着ていて、洋館と似つかわしくない。

 この洋館の住人イメージは、スーツと高級車だ。

 でも顔は、令嬢とどことなく系統が似ている。ボサボサの髪を整えれば、端正な顔立ちが現れるのではないだろうか。

 

「ごめんなさ…」

「君、能力持ってるかい?」

 謝罪が終わる前に急に変な質問をしてくる令嬢父。


 怪しいが言っている意味が分かる。

 素直に答えるべきか悩む。

「持っています」


 何かあれば、能力でどうにかしよう。

「治療あるいは、蘇りは可能かい?」

「無理ですね。 死体を腐敗させないことは出来ますよ」

 人ではなくなった後の無機物であれば、どうにかなるはずだ。


「では明日。 13時に家に来なさい」

 淡々と確認作業をこなす令嬢父に不思議と恐怖感はなかった。

 必要とされた能力は、初めてだった。

「報酬を貰ってもいいですか?」


「では前金でいくらいる? 腐敗しなければ、更に振り込もう」

さすがこの洋館に住んでいるだけのことはある。

 いくらにするか悩む。大学の資金にしようか。いくら掛かるか知らないな。

「金額は、考えさせてもらってもいいですか?」

「構わん。 では、明日」

 そう言って、出掛けていく令嬢父。


ピンポーン

 翌日、洋館に来たら、深窓の令嬢を紹介された。

「はじめまして。 神前えみりと申します」


桜の花びらか窓辺から舞い込み、彼女の美しさを際立たせた。

次回3月24日投稿

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