10 鬼と子供
読んでくださっている方、本当にありがとうございます。更新遅くなり、申し訳ありません。
外の暗闇が薄明かりに変化してきていた。
リビングの惨状も明るさとともに凄惨さがはっきりと映し出されてくる。
死にたいと思った。
悲しい気持ちがなくなった。
怖い気持ちもなくなった。
死ねないと思った。
痛みが出てきた。
憎悪も感じる。
真っ赤に染まったリビングの中心に座っている男への憎悪。
喜々として遺体を弄ぶ男。
こんな奴に何も出来ない無力な子供の自分が嫌になる。
悔しくて涙が滲む。
“かくれんぼ”
力で勝てない私は、こんな奴に従わなくてはならない。
隠れたくないのに!
悔しい!!
パパとママに触れて欲しくないのに!
守ってあげる力もない。
悔しい!!
せめて…。
せめて理沙だけは守り抜かなきゃ!!
リビングの男を後に階段に向かって歩く。
右手のなくなった小指から血液が落ちてくる。
これじゃ簡単に見つかっちゃう。
玄関横の収納棚を開けて薄手のハンカチを取る。
第二関節より下の残っている指を左手と口を使って、きつく結びあげる。
「…っ!!」
折れた左の小指もハンカチでぐるぐる巻いて結び固定する。
血液が落ちない様に厚手のハンカチも持っていく。
理沙が飛んでココに来ることをアイツは知らない。
階段を上り始める。
追いかけて来ない男。
気が向いたら、探すと言っていた。
時間は、まだある。
外に通じるドアや窓にガムテープが無造作に貼られていた。
鍵は雁字搦めに固定されている。
外からはガムテープも見えないように貼ってある。
テープを外している間に音で気付かれたら逃げ場がない。
辛うじて窓を開けられても窓から降りて走れるほどの元気がないと…。
降りて怪我をしたら、終わりだわ。
何とか無事に走れる位の怪我だったとして…。
全力疾走で大人の男の人の足に勝てるの?
わからない。
私負けないわ。
理沙には、こんな痛い思いをして欲しくないもの。
外に出てみせる!
一番安全で確実に助けを呼ぶ方法。
理沙が来てくれるのを待つしかないのかしら…。
理沙が助けを呼べるはずだもの!
自室にメッセージを書いてしまった壁を見上げる。
“理沙へ 絶対にまた遊ぼうね”
これをアイツに見られていた。
新たなメッセージをどこに書くかで悩む。
理沙が一番に気付ける場所。
理沙の視線だからこそ見える場所。
ふと高い位置にある物に目が留まる。
椅子をそっと持ってきて、チェストに上る。
上ったチェストより背の高い隣のチェストの上に赤のマジックペンで大きく文字を書く。
可愛い色の淡いグリーンでお気に入りだったペンダントライトのカバーにも大きく文字を書く。
あとは、理沙が来るまで隠れないと!!
自然にパパとママの部屋に向かっていた。
「そろそろ良いかな? ご飯食べたら探しに行こうかな」
下から奴が叫んでくる。
静かに隣の部屋へ移動する。
落ち着く匂い。
まだパパとママがどこかにいるみたい。
クローゼットを開けて隠れる場所を探す。
ふと透明な書類棚に寿澪の文字が見えた。
引き出しを開けると母子手帳だった。
初めて見た。
私の生まれる前の記録。
ママがいっぱい書いている。
嬉しい。
名前の事も書いている。
“澪”
水は命の源で活力を与えてくれる物だから、この漢字を選んだのよ。
澪標は、人の生活を助ける、なくてはならない存在。
ママとパパにとって、なくてはならない存在よ。
そして、人助けの出来る優しい子に育って欲しいという願いも込めて、初めてのプレゼント。
ママとパパは、気に入っているの。
澪も気に入ってくれたら嬉しいな。
大丈夫よ。
気に入っているわ。
ママ。
パパ。
ありがとう。
私、何が何でも理沙を助けるわ!
パァァァァァ…
突然、光に包まれる澪。
「どこにいるかな? 鬼が探すよ」
下から奴が叫んでくる。
「頭いいね。 血止めちゃったんだ…。 いいね。 その冷静さにゾクゾクしてきたよ」
楽しそうに不適な笑みを漏らす久了。
何なのっ!?
周りが大きくなっていく。
あれ!?
違うわ!
私が…。
私が小さくなっちゃった。




