6 各々の決断
9月から澪が通う小学校の応接室。
学年主任の先生の言葉に耳を疑う澪の母。
「犯人は捕まっていますか?」
「それが捜査はされたのですが、犯人はまだ…。 田舎ですし夜には寝静まるような所なので目撃者もおらず…。 捜査は継続し、尽くして下さっているので安心して下さい」
「分かりました」
「それから学校が始まったら、集団登下校は絶対です。 一人で歩かない様に気を付けて下さい。 出来れば、待ち合わせ場所まで送り迎えをして頂きたいです」
「そんなに危険なことですか?」
「ウサギの殺され方が地元の新聞にも載っていたので、事件直後は、集団登下校どころの騒ぎでは無かったんですよ。 動物虐待する人への批判もですが、動物だけで終わるのかというような住民の不安の声もありましたからね」
「そうだったんですね」
「田舎ですが夜間の戸締りも気を付けて下さい!」
「はい…。 そうですよね」
「顔色が優れないようですが大丈夫ですか? 休んでいかれますか?」
「大丈夫ですわ。 帰って主人とも話しておきます」
立ち上がった澪の母は、深々とお辞儀をして応接室を立ち去る。
応接室を出ると廊下の端から大きな声で嬉しそうに叫ぶ声が届いた。
「ママ! もう終わったの?」
駆け寄って抱き着く。
「澪! 丁度良かったわ。 探しに行こうと思っていたの」
「スーパー寄るんでしょ? おやつ買ってもいい?」
「いいわよ。 今日は一緒に餃子作りましょう!」
「するする! 私、上手に出来るわ!」
ママと一緒に作るお料理大好き!
楽しさも美味しさも倍増なのよね。
いつもは窓を開け、鈴虫の音やカエルの音が聞こえていた。
今日は窓が閉まっていた。
「澪、眠っていたわ」
「これじゃないかい? 沙織さんの言っていた動物惨殺事件」
検索ですぐに出てきた。地元のニュースでは取り上げられていたようだった。
「九匹のウサギ全てを…。 溺死されたもの、頭蓋骨骨折しているもの、バラバラに切断されたもの、絞殺されているもの。 どれもこれも酷すぎる」
「凶悪犯罪の前触れではないか…ですって! 澪が通うとこよ。 止めましょう!」
「去年の出来事だから多少風化しているのだろうが…」
「この土地にこだわる必要ないもの。 お盆に父と母が遊びに来るから、一緒に実家に戻っても良いかしら?」
「単身赴任か…。 短期でも会えなくなるなんて寂しくなるな」
「週末には会いに来られる距離よ」
「そうだね。 澪と沙織さんの安全が一番だ」
「隼さんもよ!」
「そうだね。 澪がいないなら自然にこだわる必要ないから、通勤しやすい街中の物件を探してみるよ」
「次はお隣さんが受験生じゃないところにするべきよ」
「澪の声は、よく通るからね。 一気に賑やかになるよね」
「そう! 引っ越しとか勉強のご迷惑かけたかもと思って、今日早速、挨拶しておいたの。 そしたら、久了君がご両親に旅行のプレゼントしたんですって! 一人でお留守番していたわ」
「なんだ。 良い子じゃないかい! 安心したよ」
「そうなの! 視線を合わしてくれない子だったけれど、礼儀正しい子だったわ」
隼が沙織の唇を優しく塞ぐ。
「しばらく会えなくなるのなら、沙織さんをいっぱい味わっておきたいな」
「私も今のでは足りないわ」
沙織の言葉に今度は、優しく深く長く唇を塞ぐ。
夏の夜は、まだ深まったばかりだ。
「いってきます」
「澪! 今日は、おばあちゃん来るから、早めに帰ってきてね」
「分かっているわ!」
今日は、おじいちゃんとおばあちゃんが遊びに来る日だ。
そして、明日からパパに会えるのは週末だけになってしまう。
急に転校場所も変わった。
動物虐待をしている人がいたからだそうだ。
この登れる木と原っぱが好きだったのに残念だ。
理沙との約束も守れなくなってしまった。
あれから、理沙と会っていない。
伝えたかったのに伝えられず、サヨナラになってしまいそうだ。
連絡先、聞いておけばよかった。
机のメモとかで気付くだろうか。
調子がいい時って、どんな時かちゃんと聞いておけばよかった。
木に登ってボーっと、空を見上げて考えていた。
たった数時間の理沙との時間がとっても楽しかった。
また会いたい。
もっとお話したい。
何しているのかしら。
やっぱり気付かれなくてもお手紙書いておこう。
そうだ!
絶対気付くお手紙にすればいいんだわ!
そう決断して木を降りる。
原っぱで四つ葉のクローバーを探す。
坂道を下る手には、四つ葉のクローバーが二枚あった。
家の近くまで降りて来るとお隣の高校生が庭を掘っていた。
「こんにちは」
裏道から裏庭が近かったので挨拶する澪。
久了も会釈を返す。
「お兄ちゃん何しているの?」
視線は合わしてくれなかったが応えてくれた
「タイムカプセル」
「楽しそう!」
「良い仕事をしたって褒められたから、ついヤリすぎちゃったんだ」
「ふーん。 お兄ちゃんは何を入れたの?」
「大切だったけど要らなくなったもの」
「本当に要らないなら埋めなくていいのに」
「そうか! …そうだね」
「うん! 捨てればいいもん。 要らないって言いながら、今も大切な物なのね」
「ああ…。 そうみたいだ」
そう言って、微笑む姿は少し不気味だった。
「あ! 早く帰らなくっちゃ!」
「何かあるの? 今日は賑やかだね」
「今日の夜が最後なの。 明日からは、ママの実家にいくのよ」
「…!!?」
久了が驚いている姿に驚いてしまう澪。
はじめましてだよね…。
私お話したことないよね。
知り合いのような反応は気のせいかしら。
「これあげる!」
さっき見つけた四つ葉のクローバーを一枚渡す。
「お兄ちゃんに幸運を!」
手を振って、急いで自宅へ駆けていく澪。
その後ろ姿をいつまでも見つめ続ける久了。




