5 巡り合いと掛かり合い
『澪が二人目だよ! 見える人!!』
太陽の下でふわふわ浮き、輝く理沙。
「とっても綺麗なのに見えないの? というか何者!?」
『女神さま♪』
満面の笑みで答えて、大きな瞳を何度も瞬きさせる姿に確信した。
嘘だ。
「調子にのらないでよ!」
『だって気に入っちゃったんだもん!』
「勝手に言ってなさいよ。 それより、どうして透けているの!? なんで飛べるの!?私も飛びたいわ!」
『もう! 一気に言われても答えられない!』
「理沙の事、教えてよ!」
『本当の私はベッドの中なの。 だから飛べるし、どこでも好きなところへ行けるの』
「いいなぁ! 私もそれしたい!」
『残念でした。 私にしか出来ないことなんだってぇ』
「どうして!?」
『よく分かんない!』
「おバカ! ちゃんと聞いておきなさいよね」
『だって、おじさんの言ってること難しかったんだもん』
理沙が座って水を飲んでいる私の方を見て近づいてくる。
『それに話せる人とまた出会えるなんて思ってもみなかったもん』
満面の笑みで微笑む理沙の姿が眩しい。
私も嬉しくなって微笑み返した。
「何時までいられる?」
『晩ご飯まで!』
急いで立ち上がる澪。
「まだ時間あるわ! ママにも見えないのか試そう!」
『いいよ』
来た小道を下り始める澪。
小道関係なく澪の隣をふわふわ浮きながら、道を覚えるように見回す理沙。
「理沙は何年生?」
『多分4年生』
「多分て何よ!」
『小学校行ってないから覚えてない』
「行かないの?」
『まだね』
「この辺の学校?」
『多分同じ』
「秋には一緒に学校行こう! 私も4年生だよ」
『本当! 私、頑張る!!』
そう言って、何度も空を回る姿をみて、私も楽しみが増えて嬉しくなってくる。
ふと理沙が立ち止まって、視線を感じた家を見る。
向こうから理沙は、見えていないのだろう。
カーテン越しに姿が見えた。
『澪! 誰かこっち見てるよ』
「住んでいるんだから見ても可笑しくないでしょ。 高校生のお兄ちゃんがいるみたいよ」
『んー…。 気持ち悪かったんだけどな…』
そう言って、もう一度カーテン越しの姿を確認しようとは思えなかった。
「ただいま」
「おかえり。 手を洗ってね」
「分かってるわ!」
ちゃんと靴を並べる澪。
『澪えらーい!』
「ママ! 晩ご飯なに?」
「今日は、ふわふわとり天よ」
『いいなぁ』
「理沙も食べられたらいいのにね」
『いつか食べに来る!』
「りさ? 誰の事?」
「今日出来たお友達!」
その言葉に泣きそうになるほど喜んでいた理沙。
澪の隣で涙を拭う理沙に澪は気付いていなかった。
帽子とリュックを置きに部屋に戻る澪。
「やっぱり見えないのね」
『でしょう! 声も聞こえないの』
「ママに紹介したかったな」
その一言に言葉になら無いほど理沙は嬉しかった。
ふと澪が理沙を眺める。
「理沙…。部屋の中だと女神じゃないね」
『待って! 言いたい事わかる!』
「『幽霊みたい』」
声を揃えて二人して笑い合った。
「ねぇ。 明日も会える?」
『調子が良ければ』
「調子? どうせ、ひとっ飛びだもんね。 いつでも迎えに来てね」
『絶対来る!』
「またね」
『うん! またね』
窓から出ていく理沙に手を振る。
理沙の姿が見えなくなって、お隣の家が目に止まる。
一階の割れた窓は綺麗に直っていた。
理沙の言っていた言葉を思い出したが閉まっているカーテンを見て、日暮れであったし何気ないタイミングだったのだろうと思った。
サクッ
出来たてのとり天を頬張る澪。
「明日、学校に行く予定なのだけど、澪も一緒に行きましょう」
「学校! 行く!!」
転校は、二度目になる。
最初は、小学校入学後、数カ月だったし、突然だったので寂しいと思う間もないくらいに準備が大変だった記憶がある。
今回は、少し寂しかった。
それも当日の数時間だけで、翌日からは何をしようかとワクワクしていた。
永遠の別れではないし、連絡先も知っている。
さっぱりしていると言われれば良い方かしら。
前に冷たいと泣いて訴えられ、喧嘩したことがあった。
興味関心が多方面にあり、切り替えが早いだけで冷たくしたつもりはない。
素直に謝って、こういう性格だと説明した。
女の子と言う生き物は、面倒だ。
女同士でも仲良しの子を取られた気分になり、妬いてしまう人もいるのだと知った。
妬く前にモヤモヤした気持ちを言葉に出してしまえば、良いのにと思ってしまう。
我慢して爆発して感情的に泣く。
なんて面倒な生き物なのだろうか。
私もいつか、そういう女になるのだろうか。
「沙織さん運転気を付けるんだよ。 学校の場所分かるかい?」
「隼さん心配し過ぎよ! ちゃんと分かっているわ」
パパが心配性なのではなく、ママが少し方向音痴なせいだと思う。
パパとママを見ていると穏やかな気持ちになる。
きっと私は、面倒な女にはならないわ。
「パパ! 明日は私もいるから大丈夫よ」
「任せたぞ! 澪」
ぎゅうぅぅ
パパが抱きしめて、頭を撫でる。
「パパ苦しい!」
「ごめん。 つい愛しさが溢れてっ」
「お返し!!」
ぎゅーっ
パパに抱き着く。
「ずるい! ママも澪とハグするわ」
「出た! 沙織さんの寂しがり攻撃っ!」
「あははは。 ママにハグ攻撃!」
「クリティカルきゅんだわ♡」
「「何それ?」」
「分からないけど、ママは、幸せマーックス!」
いつもの変わらない日常でとっても楽しかった。
昨日の事をすっかり忘れてしまう程、いっぱい笑った。
前の学校と比べると小さい小学校だった。
全校生徒は250人に満たないそうだ。
校舎は、比較的綺麗かしら。
以前は、木造の汲み取り式便所だったそうだ。
どんなお便所?
後でママに聞いておこう。
ここまで、ママと先生が話しているのを聞いて、校舎を一人で見て回ることにした。
特に変わった目新しい物はなかった。
広い廊下に誰もいない。
珍しい。
そう思ったら、駆け出してしまった。
端から端まで一気に全力疾走。
「はぁ…はぁ」
誰にも怒られることのない廊下。
「廊下は走っちゃいけませーん」
一人で自分の事を叱って楽しくなる。
してはいけない事をする時って、どうしてこんなに楽しいのだろうか。
そう思いながら、階段も一気に駆け下りる。
一階まで辿り着くと校舎裏に花壇と小屋が見えた。
動物いるかな?
前の学校には、うさぎと亀と金魚がいたわ。
花壇には綺麗な向日葵が咲いていた。
私より大きい向日葵を堪能して、小屋の方へ向かう。
近づくとボロボロで扉が壊れていた。
中に何もいなさそうでガッカリしながら小屋の前まで行く。
やっぱり、何もいない。
?
天井に花丸?
誰かの悪戯かな。
「近づくと危ないよ!」
「ごめんなさい」
振り向くと作業着を着ているおじさんがいた。
「壊れたままだから、金具とかで怪我してないかい?」
「うん。 大丈夫よ。 ここで何を飼っていたの?」
「ニワトリだよ」
「へぇ!! 飼ってみたかったわ! どうしていないの?」
「去年、亡くなったんだよ」
「どうして?」
「天国にいるから、きっと今は幸せだよ」
「今度、学校に来る時は、お花をいっぱい摘んで持ってくるわね」
「きっとニワトリ達も喜ぶよ」
「うん! おじさんまたね」
おじさんに手を振って、校舎へ向かう。
「またね。 優しいお嬢ちゃん。 あ! 謎解きは好きかい?」
「好きよ! 出してくれるの?」
呼び止められ、振り返る澪。
「ああ! メッセージを残すのが好きなんだ。 お嬢ちゃんのお名前は?」
「寿澪よ。 おじさんは?」
「神前あたるだよ。 解いてくれる事を楽しみにしているよ」
「ああ! お隣の久了君は、寡黙で内気な少年でしたよ。 お父さんが少し厳しい人のようで…。 もう高校生ですし、大学受験とかストレスでもあるんじゃないですかね」
「あら! 大変な時期に引っ越してきたのですね。 騒がしくしてしまっていたかもしれないわ」
「きっと大丈夫ですよ。 皆、通る道ですしね」
「そうですねぇ」
「それから、保護者の方は、皆さん知っている事なので念の為にお伝えしておきます。 去年のことなんですが…」
「えぇ!! ニワトリの惨殺!?」




