4 恐れと煌めき
ガシャーンッ
お隣から何かが割れる音が響く。
「お前は…!?」
「五月蠅い!!」
怒鳴り声も一緒に響いてくる。
私は一人で部屋にいるのが怖くなり、リビングへ降りていく。
「ママ!」
リビングのソファーに座っていた母に抱きつく。
「澪。 大丈夫?」
「お隣の声に驚いたんだろう」
ダイニングの机でパソコンを触っていた父が手を止めて、母に抱き着いた私の隣に来てくれた。
パパのお仕事で数日前に引っ越してきた。
カエルの声や鈴虫の音、鳥のさえずりやフクロウの声もたまに聞こえる田舎。
夏休みで学校もなく、ここに友達もいない私は連日、一人でお山散策。
浅い川には、蛇もでる。
沢蟹も沢山いた。
山に登ると蛇は、山道にもいた。
ちょっと前までは、アスファルトばかりで見ることのなかった物ばかりで楽しかった。
近くに民家は、お隣の一軒だけで山を下りると、また数軒、降りきったところに小さな住宅街がある。
夜は、とっても静かで蚊取り線香を焚いて、窓を開けて、鈴虫の音を聞いていれば、涼しい風が心地良く入ってきていた。
だからだろう、何を言っているかまでは分からなったが、隣の家のケンカ音がよく響いて聞こえる。
ガラガラガラ
窓を閉める父。
「パパもママも澪が大好きよ」
ぎゅぅっと、ママが抱きしめてくれる。
嬉しくて私も答える。
「私もママ大好きよ」
「澪~。 パパは?」
「パパも大好きよ」
パパもママも怒鳴ったりしないの。
隣の声には、本当に驚いた。
男の人の喧嘩というのは、あんなにも恐ろしいものなのね。
パパとママに今日の山散策で見つけた事を話していたら、隣の喧騒も少しは気にならなくなった。
話しているうちに眠くなった私は、自室に戻らず母の膝を枕にソファーで寝入ってしまった。
「余程、怖かったのね」
「短期の仕事だし、澪の為に田舎も楽しいかと思ったのだが…。 お隣があんなだとは知らなかったよ」
「小学校も夏休みだから、お友達もまだいないし、ご近所も遠いものね。 学校に手続きに行った時にでもお隣の事、先生に聞いてみるわ」
「ありがとう。 頼むよ」
「澪の為だもの」
「澪にも反抗期くるかな? パパ大嫌いとか言われたらショックだな」
「あら、私は、澪に反抗期ある方が安心するわ。 しっかり者だから反抗してくれないのも寂しいのよね」
「そうか。 じゃあパパ嫌いと言われても僕は大好きを貫き通すよ」
「その調子!」
「よし! 澪運ぶよ。 このまま一人で寝かせるのも可哀想だな。 今日は皆で寝よう」
パパが運んでくれているのが分かる。
少しふわふわする。
腕の中の温もりも気持ち良くて浅い眠りに身を任せる。
「「澪。 生まれてきてくれてありがとう」」
パパとママは、おやすみの代わりにありがとうと言って眠る。
夢見心地で聞きながら幸せの中で眠る。
明日は、どこに遊びに行こうかな。
文句ない晴天。
空にはでっかい入道雲。
日焼け止めに虫よけスプレーを掛けられて、麦わら帽子と水筒とタオルとおやつの入ったリュックを持たされた。
そんなに遠出はしないのにな。
うちは過保護と言う奴だ。
そう思いながら、昨日見つけた登りやすそうな木へ向かう。
初めての木登りでドキドキしちゃう。
家の裏庭の方から山へ繋がる小道を通る。
小道は、お隣の裏庭もよく見える。
昨日の事もあって、一階の窓が割れているお隣の裏庭を見て、上り坂を急いで駆けていく。
小道を登り切ると一本の木と原っぱに辿り着く。
帽子とリュックを木陰に放り投げ木登りを始める。
私、木登りの才能あるかも。
簡単にパパの背の高さ位は登れちゃった。
この枝なら座れそう。
そう思い、座る体制を取ろうとしたら、女の子の顔とぶつかりそうになる。
!!?
驚きのあまり体制を崩して地面へ真っ逆さまだ。
落ちながら、凄く驚いている女の子が見えた。
ボフッ
幸いにも落ちたのはタオルの入ったリュックの上だった。
多少、打った痛みもあるが平気そうだ。
それよりも目の前の光景に目を離せなかった。
!?
えっ?
嘘!
嘘嘘嘘!?
女の子が空を飛んでいる?
こっちに向かってくる。
なんて綺麗な子なのだろう。
薄く透けて見える身体が太陽の光で輝いて見える。
天使の羽なんか無いがキラキラと眩い輝きが人とは思えなかった。
「女神さま?」
『やだ! 大丈夫!? 頭打った? おかしくなっちゃった?』
「失礼ね! 私は可笑しくないわ!」
怒りながら、澪が飛び起きる。
『っ聞こえるの!!?』
驚いて口に手を当て、笑顔でふわふわ浮いている女の子を見つめる。
「聞こえちゃ悪いの?」
そう返答した澪に至近距離で近づく女の子。
『私、理沙お友達になって!!』




