3 愛情と強情
ザザァー
潮風の心地よい墓所に寿澪は立っていた。
「もぅ一年が経つのか。 早いものだな」
「貴方は生きてきた年数が違うでしょ。 京さん」
振り向かなくても誰が声を掛けてきているか分かるわ。
毎年、8月15日の墓参りには必ず来てくれる。
白髪の紳士な出で立ちで帽子がよく似合っている堤京志郎だ。
「気持ちは若いのだがな」
そう言って優しく寿に笑いかける。
「時バアが顔を出せって言っていたわよ」
「そうかい。 時さんには礼を言っておかないといけないからな」
「あんな老体一人に未来を変えさせる努力をさせるなんて、酷いじゃないの!?」
「大勢が関わると未来を変え辛くなるのも事実じゃないか」
「それはそうだけどっ!」
「澪ちゃんは怒っているから、私を見てくれないのかい?」
両親の墓を前に寿は立っていた。
ザザァー
波の音と潮風が夏の暑さを和らげる。
夏の山も蝉の鳴き声も嫌な事を思い出すから嫌いよ。
何より、両親の墓をそんな場所には絶対に置いておきたくなかった。
だから、山の反対の海を選んだの。
時バアも私に温もりをくれた大切な人。
それなのに私は、四年もの長い間、必死になって能力を使い続けていたことを知らなかった。
微塵も態度に出さなかった。
普段の占い以上の時間を一人一人に丁寧に掛けていたはず。
きっと能力使用での疲労もあっただろう。
それなのに愚痴も弱音も一切吐かずに一人で頑張り続けていた。
目頭が熱くなり、腹を立てながら涙する。
何も出来なかった自分に…。
何も教えてくれなかった京志郎と時子に…。
そして、時子一人に頼んだ京志郎に…。
腹が立って仕方なかった。
「悪かったよ。 でも時さんだったら、無理な事は無理だと正直に話してくれる人だ。 途中で未来が少し変わった事を確認していたから、最後までやり遂げてくれたんだ。 時さんに任せて正解だったんだから許してくれ」
「正解だったとしても何も出来なかったのだとしても…。 私は知らなかった事が悔しいわ!」
「澪ちゃんは時さんにとって子供も同然だ。 親が子供に心配かけまいとするのは当然だ。ましてや澪ちゃんが生きている世界でもあるんだから、必死になるのは当然じゃないか」
「今更、優しい言葉なんて簡単には言えないけど、顔見に行ったり、ご飯作りに行ったり位なら出来るのよ! もう若くないのに…。 私にも心配くらいさせてよ…」
「それは時さんに言ってあげなさい」
「嫌よ」
あの人は、きっと笑って優しく抱きしめて頭を撫でてくれるのよ。
私がどんなに愚痴を言っても怒っていても…。
私が落ち着くまで、ずっと離してくれないのよ。
私が怒っているのに嬉しそうに笑って反省なんてしないんだから。
「次、秘密にしたら許さないわよ!」
「肝に銘じておくよ」
涙を拭く澪の姿を見守る京志郎。
やっと京志郎を見てくれた寿に微笑む。
「このこと、時バアに言っても許さないわよ!」
「それは無理じゃないかなぁ。 能力使われちゃったら、見られちゃうしな」
「触れさせないでよ!」
「今回の手掛かりもあるし、無理じゃないかな」
「過去は既に終わっている事だから制限なくいけるのよね? 見落としや忘れている事でもあるの?」
「その可能性もあるね」
「鶏小屋…。 私の事件資料を見直して、思い出したことがあるの」




