1 日常の朝
「おはようございます」
欠伸をしながらキッチンに立っていた寿さんに挨拶をする。
「おはよう暁澄君」
サンタは、ゲージの中でまだ寝ている。
今日は日曜日だ。
事故の後、遥絆の事もありサッカー部を辞めた。
一応、学生なので宿題はある。
能力でチャチャッと宿題を終わらすようなズルをする手もあるが未来に叱られるような事はしない。
顔を洗いながら、自分の為にならないからだろう! と思い直す。
何故こうも未来中心の思考になってしまうのだろうか…。
リビングのドアを開けて未来が見えた気がした。
「おはよう」
そう微笑む幻影。
あいつは、いつも自然にそこにいた。
迎えついでに食卓に普通にいた。
未来は、人の視線を気にすることなく登下校を普通に一緒にしていた。
「なぁ。 お前モテるんだから俺と一緒に歩かなくてもいいよ」
中学に入学当初、揶揄われるのが面倒でそう言ったことがあった。
「何よ! 私と一緒じゃ不満なの!?」
「痛い痛い!」
頬を引っ張る未来。
「私は一緒に歩きたいの! 他に歩きたい女がいても譲るつもりないから!」
「分かったから離せって! 痛い…」
「二度とそんな事言わないでよね」
膨れっ面の未来も可愛い。
「遥絆とは一緒に歩くけどな…」
「…遥絆ちゃんなら仕方ないわ」
今思い出しても嬉しい。
未来の素直で頑固な性格だから、こんな言葉の少ない俺と一緒にいてくれていた。
今まで、どれだけのタイミングがあったことか…。
絶対に未来は俺の言葉を待っている。
たった一言が伝えられていない。
「遥絆ちゃんと天祥ちゃんが起きて来る前に試しておきたい事があるの」
朝食の準備を終えて、コーヒーを飲みながら寿さんが話し始めた。
そう言えば、昨日お祝いをして貰う前にそんな事を言っていた。
今までとは違った誕生日。
家族と未来が生きていると分かった誕生日。
「寿さん。 昨日はありがとうございました。 俺の両親は本当に親ばかで誕生日なんて毎年の事なのに号泣して喜ぶ人達なんです。 こうなって、祝って貰えるなんて思っていなくて…」
そう言いながら、思い出して泣いてしまった。
「私の両親も親ばかだったから、分かるわ…。 生きていると分かって本当に良かったわね」
「はい」
寿さんがリビングのソファーに移動する。
「あの地図持っている?」
「地図?」
「あっ!?」
寿さんの試したい事を理解した。
生きているのなら場所が絶対に分かる筈だ!
遥絆が誘拐された時、居場所を特定する為に作った魔法の地図だ。
結城勝史。
結城美琴。
結城遥大。
望月未来。
行方不明の四人の名前を書き記し、世界地図の上に落とす。
この四人がいる場所に刺さる筈が…。
地図の外に弾きだされた。
落下していた筈の名前を書いた四本のピンが全て弾かれて地図上には一本も落ちなかったのだ。
「「………」」
しばらく沈黙していた。
俺は、驚きで言葉にならなかった。
寿さんは、何か考え始めて黙った。
「あの!? 寿さんは、こうなると分かっていたんですか?」
「車を引き揚げようと暁澄君の能力を使って車が出て来なかったじゃない?」
「はい。 何かしらの妨害を受けていると言われた件ですよね」
「池田は世界を滅ぼしたがっている。 また、その逆の能力者もいるという事じゃないかと思っているの」
「逆? 滅ぼしたくない能力者ですか? その人が何故、妨害をするんですか?」
「暁澄君は滅ぼすつもりはなくても意識があって、会話が出来て、一緒に年を取っていける望月さんと一緒にいたいでしょ?」
「…はい」
少し恥ずかしくなる。
「その場合、意識がある時点で天災級能力が発現する可能性があるってことよ」
それを聞いて、未来と一緒にいたいと浮かれて返事をしたことが恥ずかしくなる。
俺が事故に合って死ぬ予定だった未来で未来が世界を半壊させていた。
何かのきっかけで世界の半壊を知った能力者が滅亡を阻止したいと行動しても可笑しくない。
能力が扱えるのだから、何かしたいと思うだろう。
「天災級能力が発現する未来がある以上、望月さんは生きている。 天災級能力は、まだ発現していないのだから…。 そうなると、安全な状況であるとするなら、意識がない状態のまま生きていられる環境にいるのか…。 眠っているのか…。 考えられる憶測では、そんな所かしらね」
「…そうか。 そうですよね。 日常を送られては困る存在が未来なんですね」
いつ爆発するか分からない爆弾という状況で日常を過ごされては困るということだ。
爆発させないための妨害。
世界を半壊にしないという確証がない限り…。
「あと推測でしかないけれど、遥絆ちゃんと会話が出来ていた遥大君。 あの子は、事故の映像の中で一瞬にして姿が消えているの。 今ここで全員が同じように弾かれたのを見て確信したわ。 あの子は、自分の能力を使って家族といるのではないかしら…」
「遥大が!? 消えたのは能力ってことですか?」
確かに。心優しい遥大なら、父さんと母さんと未来のために行動するだろう。
新しいおもちゃが手に入った時のように、後先なんて考えずに急いで出来ることをするだろう。
「そう! 遥大君の能力が家族皆、無事で生きている事と関係しているのではないかしら…」
「遥大。 頑張ってるって言ってたんです。 迎えに来てくれるまで頑張るって言ってたんです。 今も頑張っていないといけないってことですよね?」
「遥大君の能力のキャパが持つと良いのだけれど…」
能力範囲・容量は、その人の持つ能力によって個人差がある。
能力発動中に負荷がかかるため、能力範囲・容量が大きければ大きいほど長く維持し続けれるそうだ。
遥大の状況が更に心配になる。
遥絆のテレパスで声だけが唯一、遥大の無事を知る手段だった。
最近は、遥絆から遥大の話を聞いていない。
「兎に角、まず、唯一の手掛かりの予知夢から追ってみるわ」
寿さんが明るく、これから始めていく事を伝えてくれた。
俺も今出来る事を頑張ろう!
ぐぅ
腹の虫が鳴る。
そう決心したところで、まず朝食からと言う…。
何とも情けない普通の日常だ。
「天祥ちゃん。 結局、居座っていること多くて、ごめんなさいね」
「遥絆と一緒にいて貰えるし助かってるんで全然大丈夫です」
「あの子、家族とは上手くいってなかったみたいだから、此処が居心地の良い所なのだと思うの」
「そうだったんですね。 和みん明るいんで気付かなかったです」
「零係って、能力者チームだけれど、能力の発現に内因的要因が大きいから…」
そこまで言われて、分かった。
皆、何か嫌な事を経験して得た力で零係にいる事を選んだ人達なんだ。
俺も寿さんに俺に出来る事がないかとお願いをして零係で手伝わせて貰っている。
皆を助け出せたら、この能力をどうしていくかも考えないといけない。
「寿さんは、能力があって良かったと思いますか?」
「私の場合は、能力が無かったら今ここにいないわ。 だから、あって本当に良かったわ」
「俺と一緒ですね」
「お盆にはお墓参りに行きたいから、二日間、二人だけになってしまうけど大丈夫かしら?」
「俺もお盆は、叔父の家に遥絆を連れて行こうと思っていたので大丈夫ですよ」
「最後まで心配されていたものね。 何かあったら、すぐに連絡するのよ」
「はい」
笑顔で応える。
俺だけで外出しても良いってことは、俺の能力を信頼してくれている。
それがとっても嬉しかった。




