17 うらない
自業自得であったが、全ての修復が終わるまで帰れなかった。
やっと、帰路についている車の中である。
この車も能力で修復したものだ。
お天道様が昇って、いらっしゃいます。
なんて長い日なんだ…。
こんな事に最後まで付き合って事後処理をして下さった寿さんには、頭が上がりません。
しかも帰りの運転まで…。
まだ運転免許なんて持てないんだけどさ…。
「本当にありがとうございます。 迷惑かけっぱなしですみません!」
「ああ…気にしないで。 それよりも池田が言ってたことの方が気になってて…」
「?」
「未来が変わったと言っていたじゃない?」
「ああ! はい。 確か俺が死ぬはずだったんですよね?」
「一人心当たりがあるのよね。 未来を変えそうな人物に…」
「あ、そうなんですね」
そんな事出来る人がいるんだな。
どんな能力何だろう…。
「って、えぇぇー!?」
睡眠不足の脳内思考が限界に達しており、正常な反応に時間を要してしまった。
「少し寝ていて良いわよ。 今から、そこに寄ってから帰りましょう」
「あ、ありがとうございます。 寿さんは大丈夫ですか?」
「私は、暁澄君ほど能力使ってないし、細胞活性で多少眠らなくても平気よ」
「なるほど。 能力使ってたんですね。 今から会いに行く人って誰なんですか?」
「タイムトラババって呼んでいるのだけど、占い師よ…―」
聞いておいて、能力も使いっぱなしだったせいもあり、寝落ちしていた。
車の中って、どうして心地よく眠れるのだろうか。
車が停車しているのに気付き、目を覚ました。
「あら、起こす手間が省けて良かったわ。 よく眠れた?」
寿さんに声を掛けられる。
「…はふぁ…はい。 ありがとうございます」
確か…占い師って言ってた気がしたのだが…。
長蛇の列が眼前にあり、驚いた。
その中を無視して寿さんは突っ切って入っていく。
女性方の視線が痛い。
列の先は、マンションの一階テナントで中は見えない様になっている。
ただ何の店かは、一切不明である。
占いの看板すら出ていないが準備中の看板だけ掲げられていた。
看板を無視してドアに鍵が掛かっていない事を知っているかのように寿さんが扉を開ける。
「時バア? どうせ来る事、分かっていたのでしょう?」
「もちのろんじゃぁ! ふぁっふぁっふぁっふぁっ」
「元気そうね」
「久しいのぉ。 澪」
背の低いおばあさんだが腰は曲がっておらず、足腰の強そうなおばあさんだった。
「そちが暁澄じゃな?」
「えっ!? はい。 結城暁澄です。 宜しくお願いします」
「タイムトラベラー能力者。 通称タイムトラババよ。 因みに暁澄君の事は話していないわ」
ばちこーん
スリッパで頭部を叩かれる寿さん。
「そんな紹介の仕方があるかい! 雑な女子じゃわい!」
新鮮な光景である。
そんな事をする人を初めて見た。
叩かれて髪がボサボサになっているのに平然と会話を続ける寿さん自体も新鮮だ。
いつもきちんと身なりを整えている姿しか見たことがない。
「わたしゃね。 飛龍時子、言うんじゃ。 わたしゃ占いに関しちゃ本物じゃぞ! 助言で未来を変えられた者は、未だおらんがの」
「俺の事を知っているのは、未来を変えたのが貴女だからですか?」
「時バアでええぞい! 変えた言うんは、ちと違うの。 やっと変えられたと言う方が正しいわい」
時バアは、せっせと丼を運んでテーブルに並べながら、話を進めている。
「話せば長くなる。 お茶も用意しとるし、お主ら飯もまだじゃろ? 冷汁用意しちょるけん食べながら聞きんさい」
このおばあちゃんは、うちのおばあちゃんだろうか。
そう錯覚させる程のおばあちゃん家の安心感があった。
俺の祖父母は両方とも亡くなっている。
自分の家ではないのに帰る度にとっても居心地が良くて落ち着く場所だったことを思い出す。
この冷汁も温かご飯に冷たい味噌と魚のお汁が最高に合う!
茗荷と大葉の風味ときゅうりのシャキシャキも夏に最高な組み合わせだ。
美味い!
がっついていたら、時バアと目が合った。
「美味そうで何よりじゃわい! ふぉふぉふぉふぉふぉっ」
叩かれてから、特に話すわけでもなく大人しく座って食べている寿さん。
その態度だけで時バアとの関係が深く長いことを感じる。
「どこから話そうかのう…」
時バアが思い出しながら、考えて話し始める。
「まずの。 わたしゃタイムトラベラー言うても自分の事を何度も見れるわけじゃないんじゃ。 他人の未来の方が見やすいし、楽じゃ。 やはり何度もっちゅうと、キャパオーバーっちゅう奴じゃ。 わたしゃ若くもない。 見られても5年後が限界じゃの。 そして見に行くだけで何か出来るわけじゃないんじゃぞ!」
「占いは天職ですね」
笑顔で下を向きながら、話続ける時バア。
心底の笑顔ではなく、優しく穏やかで噛みしめる様な笑顔だ。
何か思い出させてしまっただろうか。
「4年前位じゃったかの…―」
「結婚後の未来を占って下さい!」
「嬉しそうじゃの? お前さんプロポーズでもされたんじゃろう?」
占いに来た女性は嬉しそうに赤面していた。
「図星だねぇ。 手をお出し! どれどれ?」
いつもと同じ様に未来を覗きたい相手の手に触れる。
5年後を見ようかの。
そう思って目を閉じた。
?
何も見えん。
もう一度、5年後じゃ。
真っ白じゃ……。
「白? 初めて聞いたわ。 未来がないという事なの!?」
食事が終わった寿さんがお茶を啜りながら声を掛ける。
「そりゃそうじゃわい! お前さん近々、死ぬぞ! とは言えんからの!! 人に言うわけなかろう!」
「……」
なんか。
親子の様だ。
年齢的には孫だろうが…。
この何とも言えないケンカになりそうだけど我慢して飲み込む様な感じ。
俺もたまに母さんとしてたな。
イライラして無言でいると、母さんが返事位しなさい!って更に怒り始めちゃうんだもんなぁ。
未来ともケンカしてて、黙ってると何考えてるか分からない!って更にケンカが酷くなったな…。
頭冷やす時間位くれても良いじゃん。
……今度そうなったら、それを伝えて時間を貰おう。
「もう一度、試したのが4年後の未来じゃった。 子供も生まれて幸せそうじゃったわい。 これだけなら、良くある事じゃ…。 人の未来なんて、いつ何が起こるか分からんからの。 ただ…今回は、これだけでは終わらんかったんじゃ」
「ああ…。 そうか、池田はこの世が半壊するって言ってましたね」
「ええ。 天災級能力者の発現で…」
「そうじゃ。 4年前位に占った子達の5年後の未来が立て続けに真っ白じゃった。 こんなことは、そうそう起こるもんじゃない! 大地震や台風なんかの自然災害にしてもあり得ない人数になっていったんじゃ。 何十人、何百人と…日に日に見れば見るほど増えていくんじゃ。 死者数が…!?」
「あたしゃ怖くなったよ」
「占いを辞めようかと考える程じゃったわい」
「「………」」
しばらく沈黙が流れた。
「それでも辞めなかったのね。 ありがとう」
「勘違いするんじゃないよ! あたしゃ占いが生きがいじゃからな!」
時バア…素直じゃないなぁ…。
相手が寿さんだからだろうか。
少し微笑ましくなってしまう。
心の中で俺も感謝の言葉を伝える。
「原因が分からんかったからの。 まず、いつから見えなくなっておるのか一人一人、正確な日程で違う日を見ていった。 それで今年6月22日を境に未来が見えなくなることが分かった」
「え?! 俺が事故に遭った日と違います!」
「そりゃそうじゃっ!! 6月15日じゃろ? わたしゃ必死に事故の日を変えたんじゃよ」
「そんな事出来ないって!?」
「馬鹿たれっ! 必死に言うとるじゃろう!」
「どんな事があって何をしたんですか?」
俺は、無くなった方の6月22日の未来も気になった。
「落ち着きんしゃい! まず6月22日快晴。 この日が分かってから、この日の時間を今度は探し、ピンポイントで時間が分かってからの方が大変じゃった。 未来を見て回れるのは10分程でそんなに遠くに行けんからの。 やっと見つけた時には2年の歳月が経っておったわい」
「そんな!? 知ってたんなら教えてくれても良かったじゃない!」
「京志郎には話しとるわい! あやつが澪の管轄になりそうな事件は教えるなと言ったんじゃよ」
「そう…。 変に未来を変えてしまう可能があるからか…。 流石、京さんね」
?誰だろう??
とりあえず、凄い人っぽい?
「まあ、そんなに簡単に未来なんて変えられんわい! 慎重に確実に未来を変えたかったんじゃよ! あたしゃ相談相手を間違えたりせんからの! それで? 暁澄! お主の知りたい事は今ない未来の事じゃな?」
「はい!!」
「事故は、同じあの場所で同じトラックに衝突されるわい。 違っておるのは、車は橋から落下なんぞしておらん! 橋の上の運の悪い衝突事故で一人死んでおったわい。 それがお主じゃ! 暁澄!」
「……」
俺がいない未来。
想像もつかないし、何度聞いても違和感しかない。
「重要なのは此処からじゃよ! 一緒に車に乗っていた女子」
「!? 未来ですか?」
時バアがゆっくり深く頷く。
「彼女が天災級能力じゃよ!」




