16 おわらない
「あっははははは♪ 空中だよ? 海じゃないんだからさぁ。 網って!? ……独り言もつまらないし、そろそろ帰るね♪」
そう言い始めた方隆が聞こえていない東条と手錠が繋がっている左手を引っ張る。
東条は、右腕に引っ張られる感覚で隣に目をやる。
何なんだこの男は、ピエロの様にお道化て表現している仕草が妙に腹立たしい。
俺が聞こえていないから、わざと変な動作を楽し気にしているのだろう。
おちょくられているかの様な気分だ。
方隆は、お道化たまま、手品の様に手錠を外す。
その態度と光景に苛立った東条が若い男の周囲を360度氷の壁で囲う。
透明の氷は透けて綺麗に姿を写していた。
氷の壁の中でまだお道化て手を振る若い男に怪訝な表情で警戒する東条。
次の瞬間、眼を疑う光景が飛び込んでくる。
確かに氷で覆い、出口なんてない筈だ。
それなのにお道化て手を振りながら横に進み、氷に阻まれることなく普通に出てきた!?
「種も仕掛けもございません♪」
マジシャン気取りでお辞儀する。
声は、目の前の男に届いていないだろうと思い動作を大きくして遊んでいる方隆。
「僕、かの有名な大泥棒の三世が好きなんだよねぇ。 手錠外すとこなんて、ちょっと似てなかったかな?」
独り言だと分かっていても話す事を止められない性分なのだろう。
そう言いながら、氷にも何かを呟く方隆。
「やっぱこの氷美味しそうだから頂いていくね♪ 氷ちゃん達おいで♪」
丸い氷や四角い氷が方隆の周りをクルクル回転しながら付いていく。
耳のない氷にまで言霊が通じるのか!?
聞こえない人間には本当に言霊は無効なのだろうか?
いや…。
これは、外す方が危険だ。
警戒を緩めない東条。
空洞の円柱を気化させ、新たに円錐の氷を作り出す。
方隆に向かって攻撃するが軽く避けられる。
振り返った方隆が何か話しているが東条には聞こえていない。
「僕の言霊ね。 自分自身にも有効なんだぁ♪ じゃっ、雲隠れしちゃうねぇ~バァイ♪」
東条に向かって笑顔で手を振り、浮遊する氷とともに急に姿形が分からなくなる。
チッ!
何か言っていたが録音できているだろうか…。
イヤホンの仕様を切り替るボタンを押しながら、落ちた暁澄の元へ急ぐ東条。
方隆は、荒野と化した更地を普通に鼻歌交じりにゆっくり歩いていた。
自身の言霊に罹っている方隆は、こんなにも東条の近くにいるのに誰にも行方が分からなくなってしまっていた。
面白かったなぁ♪
零係と結城暁澄♪
池田さんの目的も結局、何だろうな?
何か話してたみたいだったけど、僕聞こえなかったからなぁ…。
よしっ!
ヒマだし調べてみよぉっと♪
クレーターの上から皆が覗き込んでくる。
「あーにぃ!」
「あっきー! 大丈夫ですか!?」
「暁澄君? まだ上がって来れないの?」
寿さんの一言に棘がある気がするのは、きっと気のせいではないだろう…。
猿が手足から離れないままなのである。
頑張れば、上がれないこともない。
が、しかし、重力負荷を掛けてまで動く必要はない。
あ!
そうか!!
「俺の身体能力を変えれば良いんだ」
思わず、独り言を口走る。
フワッ
身体が光る。
次の瞬間、上空から急降下した重力負荷が嘘の様に軽くなった。
立ち上がって、空中浮遊も簡単に出来た。
心配そうな和みんと遥絆、機嫌の悪い寿さんの元へ降り立つ。
ドスンッ
身体は軽いが地球の重力ではない負荷のため、地面が凹む。
これは早急に猿を取らないと家にも帰れないんじゃ…。
家を破壊してしまう!
それとも浮遊生活するのか?
こんなぬいぐるみとっ??
無理無理無理無理!!
遥絆が足に掴まっている猿のぬいぐるみを撫でて遊び始める。
サンタは、桜雅さんの顔を心配そうに舐めていた。
寿さんは、桜雅さんの頭に触れて、細胞活性能力で治癒を行っていた。
そこへ東条警部が駆けて来る。
「暁澄。 何だ? そのゆるキャラは?」
ドスンッドスンッドスンッ
軽快に東条警部の元へ駆け寄るが音と地面への破壊が違和感過ぎる。
その光景に怪訝な顔をする東条警部。
「分かったから、私には触れるな!」
両手で東条警部が制止する。
危なかった…。
猿の重力負荷に合わせていることを忘れていた!
言われなければ、両手で東条警部の手を掴んでいた。
力加減しなかった場合。
血の惨劇と化していた…。
遥絆を抱き上げなくて良かったぁ…。
そんな想像をして、背筋か凍った。
「あの!? この猿どうにかして下さい!」
俺は東条警部へ懇願した。
東条警部が考えた後。
「身体をガリガリに細くすることは出来そうか?」
「大丈夫です! お願いします」
キィンッ
両手足にしがみ付かれたままの四体の猿を凍り漬けにする東条警部。
固まった猿よりも腕を細くした事で簡単に地面へ落下した。
ドスンッドスンッ
足を先にしなくて良かったぁ。
足の甲がきっと死んでいたのではないかと思う。
身体強化で骨折しないが痛みは感じるのだ。
さっきの落下も死ぬほど痛かった。
いや…。
死ねる方が楽かもしれない位に痛かった。
死んだことがないから勝手な妄想だが…。
気持ち的なものだ。
ドスンッドスンッ
残り二匹の猿も片足ずづ両手で掴んで地面に落とす。
重力負荷を地球と同じに戻すことも忘れずに東条警部の手を握る。
「東条警部! 助かりました!! 本当にありがとうございます」
「あ~っ!! さっきから頭に響くんだよ! うるせぇな…」
起きて早々に元気にボヤく桜雅さん。
「あ…すみません!」
「桜雅~っ!!」
和みんが急に泣きじゃくり始める。
「良かったです~っ! 怖かったです~! 幽霊より怖かったんですぅぅ~!!」
「だから! 頭に響くって言ってんだろ!? 馬鹿天祥…あ~…。 無事で何より」
「それは桜雅もよ!!」
和みんと桜雅さんの会話に突っ込みを入れる寿さん。
横になっている桜雅さんの傍らで大欠伸をして遥絆の膝で眠り始めたサンタ。
遥絆もつられて欠伸する。
いつもの日常に安堵した。
俺も今日は疲れた…。
そこへ交通渋滞で遅くなった一斑のサイレンが鳴り響く。
覆面パトカーが二台停車する。
俺達が乗ってきた車両は、もちろん俺が消去してしまっているので、丁度良かった。
そう思っていたら、後ろから肩を叩かれた。
「暁澄君。 帰れると思っているの?」
寿さんの静かな囁きが更に怖い。
「…はぃ!!」
思わず声が裏返る。
ですよね…。
この直径1km程の荒野を放置出来ないですよね…。
「はぁ…」
失敗しないよう爆弾と廃墟ビル以外を修復するのか。
作るって難しいんだよなぁ…。
俺の今日は、まだまだ終わらない。




