13 まってるよ
23:32:15
時計を確認する方隆。
「遅かったですね。 遥絆ちゃんここに置いて大丈夫かなぁ」
子供を一人にするのは、気が引ける。
「彼らが信号で一度も止まらないように進んでいたから、こちらも信号に色々悪戯させて貰った。 混乱させてしまえば、赤色灯も意味がない」
「そんな面白い遊びしてるんだったら教えてくださいよ」
通りで僕の話を聞きながら監視カメラから目を離さない訳だ。
「特に面白くもない」
髪を触れられるのが心地よかったのか。
携帯ゲームの途中で眠ってしまっている遥絆ちゃんを能力で起こす。
「遥絆ちゃん。 この部屋の話し声が戻ってきたよ。 お兄ちゃんが来たから起きようね」
「金は振り込んである。 後は勝手にしろ」
「次に協力する時は、池田さんの過去か目的のどちらかを教えて下さいよ」
「ふっ。 気が向いたらな。 能力を使って強制的に聞かないとこは気に入っている」
そう言って、ドアを開け出ていく池田。
勝手に能力を使うような男ではないレベルには信用されているようだ。
「あ、エレベーター、上からは降りられるようにしておいて下さいね」
バタン
廃ビルでも電気が使えているのは池田さんの能力である。
さすがに階段で一階まで降りるのは面倒臭い。
零係の誰かと会うのも面倒だな。
早めに出ておこう。
「ふわぁ~…」
欠伸をする遥絆。
「お兄ちゃんが来るまでココで待っていられるかな?」
「うん!」
「遥絆ちゃんは、今から誰とでもお話出来るからね。 お兄ちゃんに7階角部屋にいるよって教えてあげるんだよ」
「わかった。 ほうにぃは、どこか行っちゃうの?」
「僕は用事があるんだ。 また遊ぼうね」
「うん! 絶対だよ」
遥絆が小指を差し出す。
方隆も笑顔で小指を結ぶ。
バタン
廊下に出ると爆弾の量でこの廃ビル全てを解体させるつもりであることが分かる。
遥絆ちゃん大丈夫かなぁ…。
「………」
爆弾を見てドアの前から離れるのを躊躇する方隆。
ガチャ
ドアを開けて顔を出す方隆。。
「遥絆ちゃん。 お兄ちゃんどこにいるって言ってる?」
「ここの入り口だって♪」
それなら大丈夫か。
「今度こそ、またね」
「うん! またね」
手を振る遥絆を見て後にする。
23:35:05
「あ~っ!! くそっ!! まだイライラすんなぁ」
車を降りながら悪態を吐く桜雅さん。
信号パニックで行く手を阻まれ、拡声器の言葉遣いが素晴らしいことになっていた寿さんも勢いよく車のドアを閉める。
バンッ
「あれだけの声を出していても発散しきれてないようだな」
「東条の氷のお蔭で少しは、スカッとしているわよ」
東条さんは氷能力者で発射台のような物を氷で作り、渋滞中の交差点を車で飛び越えた。それは、映画でしか見たことのないようなカーアクションのような光景だったが乗っている方としては、二度と体験したくない。
車酔いした俺は、能力で三半規管を強くしてなんとか車を降りた。
気持ちを切り替え、身体能力を高める。
「寿さん、遥絆が7階にいるそうなので先に行ってきますね」
「気を付けてね。 暁澄君。 何かあったらすぐ連絡するのよ」
「はい!」
耳に引っ掛けるタイプのワイヤレスイヤホンを装着する。
全く同じ物を零係で共有する。
電源を入れるだけでハンズフリー通話が可能なものを俺が作成した。
機械でも電波を使ってない能力という力なら、池田に触れられない限り大丈夫な筈だ。
それなら地図帳でなくても機械で良かったのではないかと思ったが、あの時の想像力の限界がアレだったのだ。しょうがない。
ドンッ!!
走り始めた途端に見えない何かにぶつかる。
スピードが速かったせいで驚くほど飛ばされ、一回転して受け身を取ったが反動のせいで着地後も停止しきれなかった。
ズザザザザザザーッ
「そこに何かいます!」
「!?」
「そこってドコだよ!? 暁澄は遥絆ちゃんとこ行って来い! 広範囲にバリア張ったから逃げられねぇはず」
桜雅さんが見えない何かの方向に集中する。
「ありがとうございます」
暁澄は、瞬時に消えて見えなくなった。
車を降りてから、ずっと匂いを嗅ぎ回っていたサンタが声を掛けてきた。
「澪! 池田の匂い動いてるでっ! こっちや!」
「寿、無茶はするなよ!」
「分かっているわ」
走りながら、若返っていく寿主任を気に掛けながら、見つめる東条警部。
「どこにいるか。 手伝おう」
「あっす。 東条警部、頼りになるっすね」
桜雅は、嬉しそうに東条へ伝える。
良かったぁ。
範囲を狭めて捕まえたかったから、こっからどうしようか、困ってたんだよな。
「予想外の交通渋滞に一斑は間に合いそうにないからな。 長所と短所を補うには協力が不可欠だ。 私達で捕まえよう」
「おっ! 良いこと言いますね。 早速お願いしやーっす」
いつもの桜雅のノリだが、彼は至って真剣だ。
あんまり東条さんと組むことないから、間近で能力見る機会ないんだよな。
さっきの氷のジャンプ台も見事だった。
バリアなんて、眼に見えなくて地味な能力だかんなぁ…。
派手で分かりやすいとか、サボっているようにも見えないだろうし…。
羨ましいわぁ~。
サボっていると勘違いされてしまうのは、桜雅の態度のせいでもある。
キィィンッ
次の瞬間一瞬でバリアの中が凍った。
桜雅が張っていたバリアの形そのままに凍っているので半円形となっている。
「何すか!? これ? むっちゃ綺麗!!」
「空気の入っていない氷は、こうなるんだ」
透明な壁が出来ており、風が冷たくなる。
その不純物を含んでいない氷の中に人型が浮き上がっていた。
「げっ!! 人じゃん!!」
「早く能力狭めろ。 このままだと窒息する」
キィン
慌ててバリアを狭める桜雅。
サッ
顔から下の右半身を凍り漬けにしたまま、他の氷を瞬時になくす東条。
「はいっ! 23時46分、能力捜査妨害と誘拐容疑で現行犯逮捕なっ」
氷の形状で体格のいい男だと思いながら、手錠をかける桜雅。
「やべっ!? 時間ないじゃん!」
こいつどうすっかな。
地面から動かないU字型のバリアポールでも出しとくか。
凍り漬けだと凍傷になってしまうという事で氷は消された。
バリア能力で出したU字型ポールに後ろ手錠で左右両方の手を繋ぎ、動けない様にする。
一応、能力者だからな!
厳重に繋いでおくのが一番だ。
「あ。 お前さ、中で五月蠅い女がどこにいるか知ってる?」
「2階角」
姿のまだ見えない奴から声だけが返ってきて男だと分かる。
「あれ? サンキュー」
あっさりと回答が返ってきたことに驚きながら考える。
罠!?
でも時間ねぇしな…。
とりあえず、そこ行って何かあってもバリア使えば大丈夫だけど…。
ドア開けてドカンって事になると天祥は間に合わねぇじゃん?
暁澄の能力で作ったイヤホンから声が聞こえる。
そういえば、ハンズフリー状態で音を拾ってんだった。
『桜雅! その人の言ってることは本当よ。 全てタイマーで時間通りに作動するものらしいから、時間内に行けば大丈夫なはず』
寿主任が見てきたかのように伝える。
「了解っす。 俺は天祥の方に回ります」
『お願いね』
隣のビルの階段を上っているサンタが後ろを振り向く。
電話をしていた寿を待っていたのだ。
「ありがとう。 理沙。 助かったわ。 やっぱり貴女だったのね。 ええ、また連絡するわ」
通話を終了した寿は、サンタの後ろを追いかけ始める。
パチパチパチパチ
拍手が聞こえ、桜雅と東条がそちらを向く。
「東条警部。 あと任せます!」
「ああ。 早く行け!!」
身体機能を向上させることの出来ない桜雅は必死で走る。
これでも足は速い方なんだけどなぁ。
あの二人の走りを見た後だと…。
オレの足って、亀のようじゃね!?
そう考えながら、溜息を出して廃ビルの中へ入っていく。
「あぁ、そうでした。 元気な女性も一人いましたね」
警戒心のない爽やかな若い男に東条は無言で警戒する。
東条の周りには、氷柱のような鋭い氷が円を描くように出てきた。
シュンシュンシュンシュン…
「怖いじゃないですか。 僕さっきの氷欲しくって思わず拍手しただけですよ。 あれって、カキ氷にすると美味しいヤツですよね♪」
「慣れ合う気はない」
「僕には当たりませんよ」
無邪気に笑顔で話しかけて来る若い男に目掛けて氷を飛ばす。
当たってもかすり傷や洋服が傷つく位のギリギリを正確に狙い撃ちした。
ガキィィンッキィンキィンィン…
人懐っこい優しい笑顔を向けてくる若い男。
「そうか、君が言霊の好青年か」
23:50:11




