11 おちついて
「あ! ココ!! ココッ!!」
「夏の心霊スポット廃ビルに来ましたぁ!」
「立ち入り禁止やセキュリティが入る前に探検してまいりたいとおっもいま~すっ!」
「「レッツゴー!」」
カメラを持った男女二人が古くて汚いビルの周りを撮影し始めていた。
「ねぇ。 本当に不気味なんだけど…。 入るの?」
「当たり前だろ! 今更、夏の流行りに乗らないでどうする? ってか、微妙に豆電気みたいな灯りついてんだけど、本当に廃ビルかよ?」
「やっぱ、無理―っ!」
「はい! 四の五の言わない! 行くぞ!」
そう言って動画を撮影する男。
「ヤダ! 押さないで!!」
「……」
怖がっていた女が急に変なことを言いながら、前を歩き始めた。
「自分で歩くってば!」
女が後ろを振り向くと離れた場所で撮影している男がいた。
「え? なんで? そんなに遠いの?」
男が自分の背中を押しているとばかり思っていたため、真後ろにいると思っていた。
それなに手の届くところに男はいない。
「オレ押してない…」
一人で何やってんだと言わんばかりに淡々と言う男。
何が起こっているのか分かっていないようだ。
「ぎぃゃぁぁぁーーーーーーーー!!」
「もう無理! 絶対呪われる! 帰る帰る帰る帰る帰る帰る……」
「お祓い行けばいいって! これ絶対面白いじゃんっ!! 今の上手かったよ」
演出とでも思っている口ぶりの男が女の腕を引っ張ってひき返そうとさせない。
女が男の方を見ると男の帽子が浮いていた。
誰もいる筈のない空中で帽子が止まる。
帽子が上下に頷いているかの様に動く。
「……」
女は言葉を失い指先だけで浮いている帽子を指し示す。
指先の方角へ視線を向ける男。
宙に浮いた帽子は、お辞儀をしている様だった。
まだ帽子は宙に浮いたままだ。
「どうせ、トリックあんだろ? あからさま過ぎんだよ」
その一言で女は衝撃を隠せないような悲しい表情になる。
女が泣きながら踵を返す。
「もうついていけない…」
男は、トリックを探しているのか空中を触れまくっているが何もない。
「はぁ? トリック教えろよ」
ポンポン
右肩を叩かれた男は振り返る。
振り返りざまに右頬に衝撃が当たる。
ドゴンッ
ストレートパンチを見事に食らったように体勢を崩し倒れる。
何が起こったのか理解できずに呆ける男。
目の前には、変わらず宙に浮かぶ帽子。
帽子だけが宙に浮きながら男に近づいてくる。
帽子が自分の頭に戻ってきた。
「帰れ」
何もない所から聞こえてきた声に驚く。
殴られた右頬を抑えながら、視線を漂わせる。
探しても何も見当たらない。
耳元に風を感じ、振り向くが何もない。
「入れば死ぬ」
耳元ではっきり聞こえた声に恐怖した男は身震いする。
声が聞こえた方とは反対側の方へズルズルと這って後ずさりし始める。
腰を上げようとするが恐怖で瞬時に上げられないのか何度も腰を落とす。
ようやく腰が上がり、一度も振り向かずに一目散で駆けていく。
女の子は、泣かしてはいけない。
僕は、嘘ついてない。
知らない人は、追い払う。
池田さんの邪魔は、してはいけない。
この男は一生懸命で気付いていない。
自分が一番女の子を怖がらせ泣かせていることに…。
………………………………………………………………………………………
外が五月蠅いです。
夏の風物詩、肝試しでしょうか。
そんな事するなら大勢で来て欲しいです。
まぁ、こんなとこで誘拐された人がいるとは思わないでしょうね。
しかも、金縛りの様に全く身体が動きません。
首が左右に動かせるくらいです。
そして、この部屋の中央には危険物らしきものがカチカチしてます!!
幽霊より怖くて少し冷静になりました。
和心の人生ここでおしまいでしょうか?
皆、気付いてますかねぇ。
あ! パニックで忘れてました。
遥絆ちゃんに場所を教えて、あっきーへ伝えて貰えばいいんですよ!!
何としたことでしょう。
お馬鹿すぎます!!
遥絆ちゃん大丈夫でしょうか。
少女目的だったらどうしましょう!
あれ?
遥絆ちゃんの能力隠そうとしましたが、最初から遥絆ちゃんとテレパスで会話してれば良かったんじゃ…。
しかも、遥絆ちゃんの能力知られてましたし…。
和心、役立たず過ぎませんか!?
それにテレパスだからって、引き離したところで無意味じゃないですか?
やっぱり、遥絆ちゃんに何か目的でもあるのでしょうか!?
〟遥絆ちゃん!!〝
「遥絆ちゃんは、この部屋の中にいる人の声しか聞こえないからね」
「どうして?」
「そういうゲームをしてるんだよ」
「ずるい! はなもゲームするもん」
「じゃぁ、こっちにおいで!」
「うんっ!」
方隆と名乗る男が遥絆を膝の上に座らせる。
機械の映像を見ながら、横目でその様子を池田が観察する。
廃墟とはいえ、使用されていたソファーや椅子、机に文具用品は、そのまま放置されていた。
それが古くなっているものだから、何があってこうなったのかという深層心理が更に恐怖感を増してしまうのだろう。
ここは社長室あたりか。
デスクに腰を掛けながら会社員時代を思い出す。
方隆が子供向けの携帯ゲームを遥絆に渡す。
「遥絆ちゃんは、ゲームの音以外聞こえなくなるよ」
「池田さん。 そんな怖い顔で睨まなくても大丈夫ですよ。 便利でしょ? イヤホンいらないんですよ」
「……」
方隆に向けていた視線を機械の映像へ戻す。
「僕に少女趣味はありませんから」
「……」
「あぁ、もしかして池田さんお子さんいます?」
「…詮索はするなと言っている」
街で見かけた個展。
絵画だけでなく、そのルックスも売りにもしているような画家だった。
通り過ぎようとした時、金額に驚いた。
安売りは一切していないのに自然と売れていく。
不思議な店に興味を持ち声を掛けてみた。
「どんな能力ですか?」
とっても嬉しそうに微笑んだ少年のような青年。
「どんな過去ですか?」
そう言われて、能力を使っていることを確信した。
この男は、零係の存在は知っていたが会った事はないという。
色んな能力者から話を聞き存在を知ったそうだ。
能力が発現するきっかけに過去のトラウマがあるという事も色んな能力者と話して理解していた。
話を聞くうちに何故その能力を得たのかという、過去の方に興味が沸いたそうだ。
たまに会うたびに聞かれるが言うつもりはない。
「池田さんって、大胆ですよね。 とっても意外でした」
屈託のない笑顔が不気味だ。
「僕、この能力で暮らしてるので零係とは関わらない様にしようって思ってたんですけど、まさかケンカ売るとは思わなかったです」
「それはお前に関係ない。 私は、お前が殺した事の方が意外だ」
前科があったトラックの運転手。
金と引き換えに軽く衝突して欲しいと言ったら、簡単に引き受けた。
まさかブレーキを踏まないとは思いもしなかったが…。
結城家以外は奇跡的に軽傷だ。
私の計画に前科犯がどうなろうと関係なかったが、結城暁澄を探るには丁度良い切っ掛けになった。
あのクッキーで死なないことも予知夢で知っていた。
死への恐怖を与え、情報を伝えさせるには十分だ。
私の能力であれば、捜査状況を監視カメラ越しに確認することも可能だからな。
トラックの運転手が情報を吐いた事を確認し、用済みでいらなくなったため、方隆に後処理を依頼した。
こいつは興味のある事になら協力する何でも屋のような事もしている。
甘い童顔と笑顔のせいで掴み所がない。
「ああ…。 殺すつもり無かったんですけどねぇ。 聞いてくれます?」
思い出したくもないかのように嫌な顔をする。
………………………………………………………………………………………
高木優は、180㎝超えの長身で横にも大きい。
無価値な人間だと思い込んでいる温厚で真面目な男だ。
能力は、透明になれるだけでなく、どんなところでも所持品と一緒に自由に行ける。
気付かれたことは一度もないから、拘置所へも出入り自由だ。
電話越しで口止めするために携帯を繋げるよう池田さんに言われた。
『はーい。 ぷぅさん? 池田さんから聞いているよ。 前科犯に代わって大丈夫だよ』
「うん」
トイレで見えない男が携帯を渡してくる。
殺されるよりは、奇妙なものに耐える方がマシだ。
「も…もしもし?」
『どうも。 貴方の記憶を少しだけ無くしちゃうね』
「き? 記憶だけ? 殺されないのか?」
『うん。 いつでも出来るしね』
「じゃ、じゃぁ。 理子ちゃんと眞子ちゃんと…。 お、女の子の記憶だけは消さないで欲しい!!」
『へぇ~…。 女の子? 君どんな罪を犯したの?』
「………こ、子供が好きなだけだ」
『僕ね。 嫌いなの。 小児性愛者』
先程までと変わらない声で嫌悪感を淡々と伝える。
それが妙に不気味だった。
『反吐が出そうだよ。 さようなら』
『死んでよ』
急に息が苦しくなり、呼吸が出来なくなる。
「……っ」
床に転がり痙攣し、口から泡を吹いて目を見開いたまま動かなくなった。
………………………………………………………………………………………
遥絆ちゃんの髪を触りながら方隆が話す。
「小児性愛者って残酷だと思いませんか? こんな小さい子に…。 何をされているのかも分からない子に色んな事を要求しちゃうんですよ。 それが楽しいんでしょうね」
「まるで見てきたようだな」
「日本は、男の子に対する危険意識が弱いこと。 知ってます? 女の子より、男の子が狙われやすい。 男同士で個室にも入りやすいから、近づきやすいじゃないですか」
「僕、性犯罪被害者なんですよ」




